第46話 SUBCONSCIOUS

 テルは目を覚ました。

 そこはリングの中央。

 先ほどまで闘っていた大武繪の八角形リングではない。正方形で4本のコーナーポストに3本のロープが張られたプロレスのリング。それも、25年間慣れ親しんだ真日本プロレスリングの青いリングだ。

 起き上がり、周囲を見渡すも観客席どころか床も壁も天井すらも見えない。 まるで闇の中にリングだけが浮いているかの様だった。


「ここは……地球でもパントドンでもない、今度こそ、あの世なのか?」

 

テルが二度目の死を覚悟した。その時だった。突如、いずこからリングへと続く花道が出現した。そして……


 イナギ、 ボマイェ!イナギ、ボマイェ!

 (訳:稲城、やっちまえ!稲城、やっちまえ!)


 その場にテル以外は誰もいないはずなのに、観客からのコールが繰り返されると、主に金管楽器で奏でられるメロディーが聞こえてくるではないか。プロレスを知らない者でも、このメロディーを聴いたことのある者は多い。

 爆音で鳴り響く自身のテーマ曲に乗って花道の向こうからリングへと歩いてくる男が一人。身の丈190の長身、黒いオールバックの髪に鋭く長い顎。 白いシルクのガウンには闘魂の2文字、そして首に掛けられたのはトレードマークたる真っ赤なタオル。


「あ……あ……」


 テルが知る、その人物は既に故人である。そして、その大男はトップロープとセカンドロープの間をくぐってリングイン。その姿は紛うことなく、あの男だ。テルこと星野輝臣がプロレスラーを志す切っ掛けとなった。伝説の男、その名こそ……


「アントニウス稲城!!」


 そう、彼こそが真日本プロレスリング創始者、アントニウス稲城こと稲城寛造である。テルの正面に立った稲城は、大きく息を吸い込むと開口一番に叫ぶ。



「元気ですかーーー!!!」



 思わず耳を塞ぎたくなるほどの声量。


「元気があれば、何でも出来る!星野、元気だったかコノヤロー!」


「稲城会長…俺が星野だって解るんですか!?」


 今のテルは生前、稲城の付き人をしていた星野ではなく、ネズミの耳と尻尾を生やした少女の姿である。稲城はこのテルの姿とは当然ながら面識がない。


「ここは死後の世界だぞ?魂の色と形でお前さんが星野だって事は解る!」


「……やっぱり俺は死んじまったのか」


 故人であるアントニウス稲城がいる時点で、そうではないかと予想はしていた。


「そいつが稲城の孫弟子か!」


 突如、稲城の後ろに現れた一人の男。テルは面識こそ無いが、その男を知っている。


「み、道力山……さん!?」


 日本におけるプロレスの父こと道力山。


「ホシノ、久しぶりだな。タヤマやカジワラは元気かね?」


「ゴッチ先生!」


 次に現れたのはプロレスの神様ことローランド・ゴッチ。


「へえ、いい目をした子じゃないの。寛ちゃん」 「僕も生きてたら彼と一戦交えてみたかったですよ」


「ギガント羽場さんにジェット鶴野さん!?」


 他団体であるが故に星野とは交流の無かった存在だが、新たに現れた二人も伝説のレスラーである。


「リキ先生、ゴッチさん、正ちゃん、鶴野くん、来てくれてありがとうございます!……やい星野!ここにいる皆は、全員伝説だ偉大だと謳われるレスラーだ。だが、誰一人としてお前みたいに “神”とプロレスなんてした事は無い!お前はプロレス史上初、神と闘い勝つレスラーになれ……お前にその覚悟はあるかい?」


 稲城の問いに、テルは答える。


「……やります!道力山も、ローランド・ゴッチも、アントニウス稲城も、ギガント羽場もジェット鶴野も超えてみせます!!あの神だとかいう野郎をぶっ倒して!!!」


 レジェンドレスラー達は、星野の返事に深く頷く。


「よく言った、星野!」


「稲城会長、アレをお願いします!」


「よし、しっかり歯を食いしばれ!……ダーッシャ!!」


 稲城の平手打ちがテルの頬に炸裂する。 久々に食らったこの感触こそが、稲城お得意の“闘魂注入”である。


「ありがとうござ…ぶっ!?」


 道力山がテルに空手チョップを叩き込む。


「ちょっと待っ」


 羽場が16文キックを、鶴野はジャンピングニーをそれぞれ連続してテルに炸裂させ、


「痛たたたたた!」


 ゴッチは卍固めをテルに掛けていた。


「闘魂注入完了だ、星野!!」


 ニヤリと笑う稲城。


「……会長、みなさん、ありがとうございました!俺は、プロレスの強さを証明して来ます!!」


 テルの姿はリング上から消えた。


「俺やゴッチ達が作り、稲城や羽場達が育てたプロレスは、まだ続いてるみてえだな」


「リキさん、プロレスの未来は明るいですよ」


 日本のプロレス黎明期を築き上げた二人はその姿を消す。


「寛ちゃんはいい弟子達に恵まれたねぇ」


「ウチの団体は僕らが死んだ後に分裂しちゃいましたからね。でも、分裂後もみんな楽しそうにプロレスやってるからいいじゃないですか!」


 羽場と鶴野もそう言い残し、姿を消した。


「星野、お前のプロレス道を迷わず行けよ。行けば解るさ!」


 最後に稲城が姿を消すと、リングも消え、闇だけがそこに残った。

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