第7話 トレーニング・モンタージュ
─力の穴 (パワー・ホール)
「優勝した僕を控え室で待っていたのは、テキーラを持った仲間達ではなく、拳銃を構えた男達だったのさ」
リコは死する間際の出来事を語る。カンペオン・ウニベルサルはマフィア達の賭けに使われていたのだ。
決勝戦の前、スペル・リンピオはZZZサイドからわざと負けるように大金を積まれ、八百長を持ちかけられたが、根っからのテクニコである彼はそれを断った。賭けを台無しにされたマフィア達は、その腹いせにスペル・リンピオことリカルド・ムチョス・ゴンザレスを亡き者にしたのだった。
「日本じゃ考えられねえが、同じプロレスラーとして許せねえぜ、そんなのは」
先ほど倒したオーガの棍棒に腰掛けながら、テルは隣に座るリコの話を聞いていた。
「ルチャリブレを、しかもカンペオン・ウニベルサルを汚い金の賭け事に使われたんだ。これ以上の無念は無いよ」
スペル・リンピオは無念を抱き死んだ後、ここパントドンに干支乱勢として召喚された。そして、彼は本名のリカルドを改め、
「俺はテル。真日本プロレスのレスラーだったんだが、 試合中に事故で死んじまった」
「トゥルージャパン!?ライゲル・エンマスカラドのいた団体かい?」
「ライゲル……田山さんは俺の師匠だよ」
「マジかよ!ルチャの世界じゃ一番有名な
嬉しそうに目を輝かせるリコに、テルは若干困惑する。
「ライゲルの弟子か……テル、僕は是非とも君と闘ってみたいよ!」
と、リコは構えを取る。
「待て待て待て!!干支乱勢同士で非公式な試合をしたら俺達は二人ともルール違反で失格になっちまうだろ!!」
「冗談だよ。テル、君と闘うのは大会まで楽しみにしておくさ」
と、リコは微笑む。メキシコ人らしく、彼女は陽気な性格のようだ。
生前はプロレスラーだった者同士、二人は意気投合した為、パワーホールの探索を協力して行う事にした。
「じゃあ、リコの仲間達もモンスターを見て逃げ帰っちまったって事か?」
「エレス・コレクト(その通り)。あの小鳥ちゃん達、ファヒータにして食ってやろうかと思ったよ」
そんなこんなで、テルとリコが話しながら進んでいると、テルはネズミのヒゲで気流の乱れを感じ取る。
「誰が闘ってるぞ!?」
リコは鳥の目で遠くを見る。
「モンスターだ!鎧のバケモノと、女の子が闘ってる!!あの子も干支乱勢か!?」
二人が近づくと、その光景はよりハッキリと見えた。中身の無い鎧の魔物・リビングアーマーは剣を振り回し、一人の少女に襲いかかる。
「リコ、加勢しよう!」
「もちろん!」
魔物に襲われる少女を助けようと、テルとリコが走りながら近付いたその時だった。
「うわ!?」
「ぐえっ」
何かが二人の足下に絡まり、テルとリコは盛大に転んだ。
「邪魔をするでないわ!この不届き者め!!」
前方に倒れたテルとリコの顔を見下ろしたのは二足歩行のカメだった。
「メレオ!ゲッコ!そやつらを放すなよ!?」
「はっ!」「了解しましたぞトスターどの!」
目の前のカメ人間が命じた方向······自らの足下を見やると、トカゲ人間二人がテルとリコの足首に尾を巻き付けていた。テル達はこれに足を取られ転んだのだ。
「ヒカル様ー!思う存分やってくだされー!」
トスターと呼ばれたカメ人間が声援を送る先で、魔物と闘う少女─ヒカルは、相手が剣を振りかぶるや柄を握るその手にハイキックを放ち武器を打ち落とした。
「あの子、武器を持った相手と闘うのに慣れてるよ!?」
リコが言うように、ヒカルは刃物を目の前にしても冷静に立ち回っていた。
そしてすぐさま相手の頭部を掴んでを引き込み、尻を地に着けると、左足を相手の右脇から首へ回し、回転して相手をうつ伏せにする様に体勢を入れ替えた。
「あれは……オモプラッタ!」
テルは知っていた。十年ほど前、日本の格闘家やプロレスラーを苦しめたその技術を、その武術の名を!
「ブラジリアン柔術!!」
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