短編④『枕問答』
「梅園の枕って、そんなに寝心地いいの?」
最近、小牧の家にこうして連れて来られることが多くなった気がする。今日は特に用事も課題もないから、暇すぎて敵わない。
だから仕方なく、小牧に話しかけることにした。
「普通の枕だから、寝心地も普通」
「気に入ってるわけじゃないんだ。その枕じゃないと眠れないんでしょ?」
「使い慣れてる方がいいのは当然でしょ」
「それはそうだけど……。梅園のことだから、いい枕でも使ってるのかと」
私はそう言いながら、彼女の枕を持ち上げようとした。しかし、伸ばした手は小牧に止められる。彼女は強く、私の手首を掴んできた。
ちょっと痛いのですが。そこまで枕に触られたくないんだろうか。……家に来る度、私の枕は抱くくせに。ずるい、と思う。
「わかば。何触ろうとしてるの」
「いいじゃん、ちょっとくらい。梅園だって私の枕、いつも触ってるのに」
「私はいいけど、わかばは駄目。わかばに触られたら、寝心地悪くなる」
いくら私が嫌いだからって、触ったくらいで寝心地が悪くなると言われるのはちょっとムカつく。意地でも触ってやろうとするけれど、小牧の力が強すぎるせいで振り解くこともできない。
私は小さく息を吐いた。仕方ない。今日のところはこれで勘弁しておいてやろう。
「……もう触ろうとしないから。手、離して」
「離したら絶対触ろうとするでしょ。離さないから」
「……離してくれたら、もう帰るから」
「なら、一生離さない」
めちゃくちゃである。用事もなければ勝負をするわけでもなく、かといって何か無茶な命令をしてくるわけでもない。今日の小牧は様子がおかしいと思う。いや、小牧はいつも様子がおかしいから、今日の小牧も様子がおかしいと言った方が正しいんだけど。
一体なんなんだろう、と思う。何もしないなら、帰りたいんだけど。
……いや、別に何かをしてほしいってわけではなくて。ただ、何もしないのが不気味ってだけで。私は思わずため息をついて、話題を変えた。
「……そういえば。梅園って修学旅行とかでもいつも私を枕にしてたけど、私ってそんなに抱き心地いいの?」
「別に。……枕と同じ。ただ、慣れてるから。それだけ」
「ふーん……? じゃあ、今日も一緒に寝てみる?」
小牧は眉を顰める。冗談が通じないのは相変わらずだ。私は苦笑した。
「あはは、冗談だよ、冗——」
「わかば」
先にベッドに腰をかけた小牧に、手を引かれる。バランスを崩してベッドに飛び込む形になると、花みたいな匂いがした。
「そこ、寝て」
「いいけど……」
お昼寝するんだ。絶対乗ってこないと思っていたのに。小牧はご丁寧に枕をその辺に放り投げて、私を抱き枕にしてくる。なんだかなぁ、と思う。小牧からどんな言葉が欲しかったのかは自分でもわからないけれど、釈然としない。ただ、私に抱きついてくる小牧は相変わらず小牧って感じで、それに少し安心する私は、きっと馬鹿なんだと思う。
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