書籍二巻発売記念短編
短編①『わかばっぽい、とは』
私の手料理を食べれば「わかばっぽい味」と言うし、私のベッドに座れば「わかばの匂いがする」と言う。
それが小牧という人間だ。
彼女は乳臭いだのなんだの言ってはいたけれど、実際私の匂いってどんな感じなんだろう、と思う。というか、彼女が言う私っぽさって?
適当なことを言っている可能性が高いのだから、彼女の言うことを真に受けるなんて馬鹿馬鹿しい。そう思いながらも私は、自分の部屋にとある仕込みをしていた。
「ささ、どうぞどうぞ」
「……お邪魔します」
私は小牧を家に招いて、そのまま私の部屋まで引っ張っていった。
相変わらず彼女は私の家を我が物顔で歩き、廊下でお母さんとすれ違えば、爽やかな笑みで対応していた。
ほんと、どうなんだろう。
表裏がありすぎて、もはや何が何やらである。今更私の家で、緊張なんてされてもそれはそれで困るんだけど。
「……わかば」
私の部屋に入った彼女は、即座にベッドに座って、そのまま横になる。
凄まじい早業。文句を言う暇もなかった。
「なあに?」
「柔軟剤、変えたでしょ」
「……!」
驚きである。まさに私がした仕込みというのは、それだった。
つい最近お母さんに頼んで、いつものやつと似ているけれど少し違う匂いの柔軟剤に変えてもらったのだ。
全ては、私っぽさというものを確かめるために。
「よくわかったね。いつものやつとほとんど一緒なのに」
「わかるに決まってるでしょ。わかばの小賢しい策なんて、私には通用しない。……なんで変えたの」
「知らない。お母さんが勝手に変えたから」
「……嘘。わかばのお母さん、ずっと昔からあの柔軟剤、気に入ってたから。何もないのに変えるはずないでしょ」
「む……」
なんでそんなこと、小牧が知っているのか。
「知らないよ。何か、心境の変化があったんじゃない。それより、お菓子持ってくるから——」
「だめ」
部屋から出ようとした瞬間、手を引っ張られる。私はそのまま、彼女に向かって倒れ込むことになった。
「どうして変えたのか教えるまで、離さないから」
「何それ。……梅園が、変なこと言うからでしょ。私の匂いがするとか、私っぽい味がするとか。実際どんな感じなのか、気になったの。どう? 私っぽくなくなった?」
「……言っておくけど、いつもの柔軟剤でも今の柔軟剤でも、わかばの匂いはわかばの匂いだから」
「……。結局どういう感じなの? 私っぽさって?」
「わかばっぽいは、わかばっぽいだから。どういうも何もない」
支離滅裂というか、なんというか。結局彼女が感じている私らしさというものについてはわからずじまいである。しかも、柔軟剤を変えた理由を答えたのに一切私を解放する気配がない。そんなに私の匂いが気に入っているのか、なんなのか。……はぁ。
——
小説第二巻は3/29発売予定です!
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