第13話:五条悟の章 人形制作

眺めた背中は祖父の者であり、父親のものではなかった。その背中が作り出す雛人形の出来は美しく、誘惑としての

目先を欲した幼年期の目に移り、今に至る。好奇心と構築する悦びを得て成長を進める少年にとって雛人形の制作としての自身に手による出来は、会心の物を含めて自己の確立を確信させる行為であった。


 悟15才、注意としての視野の広さにも目が届く頃合いになり、異性を含めた関係性への怠りを痛感するも、理解としての自己の認めも欲する感情もある。その雛人形から始まる自身の才の用途の可能性は広大であるも、いまだ自身では気づかず、学業と相まっての周囲との関係を模索する段階であった。

 

悟にとって進学に至り入部とした手芸部においての活動は、自身の創作としては役立つものであるのは理解しつつある。環境として同年代を含めた生徒たちによる論評や彼らに必用とされての手伝い、活動としての雑務は、これまでの自身の中ではなかったものであり創作活動としての視野を広げるものであった。己の誉れとしての能力「人形」その制作には、心もとない周囲の理解であったがいずれは、納得できるものになるだろうとして時間を進めている。


律子「五条君はやいね。もうできた。」


悟「ああ、うん。できたよ、こんなんでどうかな」


五条の手元には出来上がったばかりのアイロンビーズがあった。手芸部で管理している、アイロンを冷ましている。アイロンビーズのデザインは、雑誌に載っていたキャラクターのものである。すでに出来上がっているデザインの物を使ってもよかったが、挑戦として雑誌に掲載されているデザインのものから作成してみたのであった。その他の部員の生徒もでき上がりを覗く。


生徒「ふんふん、いいねぁ」


律子「五条君、はやいねぇ、手先も器用」


悟「そう、かな、どこにおいておけばいいですか?これ?」


上級生「ああ、後ろの長椅子に置いておいてよ。しかし五条君、入部してから創作ペースが速いね。うんうん」


悟「どうも、こういうの作るの好きみたいで」


上級生「いいね、秋の文化祭までにはいろいろできてそうだ」


悟(ほんとはもうちょっと木工とかに集中したいんだけど・・)


律子「うーん。私はまだまだだなぁ」


上級生「立花さんは刺繍だね、まあわからないことがあったら聞いて」


手芸部の活動場所である。家庭科室では、机を並べて複数人の部員が作業をしている。男女の比率は3:7だろうか。女子生徒の方が多い。律子は日常研究会とのかけもちであるが、時々手芸部に顔を出しては作業をしている。

手芸部ではそれぞれ制作したい、作品を決めて各々自由に活動に励んでいる。出来上がった作品は、持ち帰ったり部で管理して秋の文化祭に展示したりしている。作品の中には、複数人によるものか結構な大仰な紙細工の人形などもある。入部してからの五条は、周囲に歩調を合わせるかのような、とりとめのない作品を作ってはいるが、その実、制作したいのは、皆の感想を聞きたいのは「人形制作」であった。


五条(どうしようかな、そろそろ人形の方も作っていきたいけど、みんなに歩調合せた方が・・でもなぁ)


律子「そういえば、五条君、なんだっけ?マトリョーシカっとかって・・・言ってなかったっけ」


五条「ええ!うん、もう作ったよ。うん」


律子「ええ!もう?私が来ていない間にいつのまに・・」


五条「あるよ!見る?」


五条は多少として、慌てふためいた感じとして反応している。異性への注意はあるものの、まだ対応としては慣れているとはいいがたかった。


五条(うう、ちょっとまだ緊張するなぁ)


律子「ええ~見せて見せて」


律子としてこの五条という男子生徒には多少の好感がもてま、年代の中では性への擦れはなく、自身なりに丁寧な応対をしてくれる。背も高い方で、スタイルも良く見える。五条は家庭科室の後ろの長机に飾られている中から、自身で制作したいくつかの人形を持ってきた。


五条「これだよ、どうかな」


律子「ふんふん」


見せられたのは、卵よりも大き目な木製の人形であった。計5つある。それぞれマトリョーシカ構造で格納できそうである。


律子「マトリョーシカなの?これ?」


五条「そうそう。入るよちゃんと」


近くの女子生徒が口を開く。


女子生徒「よく作ったよね。これ?でも彩色はまだかな」


確かに、形としては成っているが、一部の彩色としてはまだのようである。


五条「そうだね、じゃあ今日は色ぬろうかな」


律子「ほうほう、できは、よいと。


五条「立花さん、僕、裁縫の事も多少はわかるから聞いてくれも良いよ」


律子「ああ、うん」


そうして五条は彩色を始めた、筆と絵具を準備して塗り始める。律子の目には五条の表情から集中しているのが見える。

自分はどうしようか、活動としては日常研究会に傾きがあり、手芸部の方はあまり顔をだしていない。席からたってしばらくの間他の席の生徒の活動を見学していたのであった。多少中のよい生徒とお互い茶化しあいながら時間の経過となる。


着席している頃には、五条は集中した顔で彩色の進行を進めている。


律子(私もやらなきゃ、て五条君作業早いなぁ、てか全部自分でやったの?)


律子「五条君、彩色終わったの見せて」


五条「ああ、うん」


多少の上の空で作業をしている五条の席の人形を手に取って眺める。大きなマトリョーシカはすでに彩色済みだ。


律子(ええ?これ自分で塗ったの、よくみると精緻な出来だよ。これ)


一番大きな、マトリョーシカはすでに彩色されており、鮮やかな色合いと精緻なデザインの模様が書かれてある。


律子「五条君、こういうの得意なんだね」


五条「うん、いつもやってるからね」


律子「いつも?」


作業しながらの五条が答える。


五条「うん。内が人形作りしてるんだ」


律子「へぇ~」


五条「雛人形なんだけどね」


律子「あ、見たいかも」


五条「いいよ。これ」


と、鞄から棒のようなものを取り出す。棒の先には、一目でわかる人の頭部を模したものがつけられている。律子の目にもこれが雛人形の頭部だとわかった。彩色も施されている。


律子「これ、作ったの?」


五条「うん、まだ修行中だけどね。色々・・」」


この時になって五条の頭の中に、会話の流れの失策が感じられ始めた。彩色に集中しすぎたのを理解した。


五条「あれ?ええと、・・・変だよね?」


すこし声が高ぶっている。律子の表情をすこし注視してしまった。

五条の中で緊張として反応への恐怖が感じられる時間がすぎる。

律子の反応はすぐにでた。


律子「おお~綺麗だね~それにすごく巧い」


五条「ええ、いや、そうかな。僕なんて全然なんだけど」


律子「すごいすごい。胴体の方はどうなっているの。衣装とか」


五条「首から下は自宅なんだよ。衣装?ああ、自分で作るかな」


律子「ええ、じゃあ裁縫も大丈夫なんだぁ。あ、そういえば見学会のときミシンいじっていたもんねぇ。いいなぁ」


五条「そう、かな」


律子の中で好奇心が勝っているのか五条との会話続く。


律子「裁縫っていろいろできるの?」


五条「ええ?できるんじゃないか、なぁ~」


律子「そうなんだぁ~」


他の生徒も律子の持っている雛人形の頭部に目をやる。


生徒「いいねぇ。家が人形屋?見学とかできるの?」


五条「見学?ええ、いいよできるよ。僕が案内するときもあるし」


律子「ほうほう。人形屋の見学かぁ」


生徒「行ってみる?律子?」


律子「うん、たしかにいい勉強になるかもね~活動報告とかもできそ」


五条「ええと、立花さんて別のとことかけもちなんだっけ」


律子「うん、そう。よしよし、こんど暇なときでも」


本日の会話のきっかけとして五条の手先の器用さ、その制作物としての技能の高さに皆の注意が向くことになる。

手芸部としての活動としても五条の制作したものは、彩色、その出来は精緻な物であり、作業の途中としての手元の

マトリョーシカ人形の一部もすでにあでやかなものとなっていた。

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