第9話 夏に自転車で
翌朝、わたしはメグッチの居る県立総合病院に迎えに行く事にした。
父親もこの町の公務員なので朝から大忙しである。
とにかく、バス停に向かう。しかし、バスが来ない。あああ、スマホが無いとかなり不便だ。バスの運行状況すら調べられない。
一旦、自宅に戻ろう。そして、自宅に戻ると固定電話からバス会社に電話をしてみる。
『つ、つ、つ……』
ダメだ、繋がらない。どうすれば病院に行ける?自転車?帰りはどうする、メグッチが帰れない。タクシー?コンビニのATMに行く事が必要だ。その前にタクシーが動いていることを確認せねば。バス会社には紙の時刻表が張ってあったから電話番号を知ることができたが、タクシー会社の電話番号が分からない。大体、タクシー会社の電話番号を知らなければ呼ぶ事もできない。
つんだ……。
ここで必要なのはスマホだ。スマホを初めて買ってもらったのは中二の秋であった。
勿論、父親と一緒である。高校生のわたし一人で買えるのか?
つみきった。投了である。
わたしは布団に入り寝ることにした。
それから、浅い微睡の中で夢を見た。
『わたしは生きているの!』
少女が叫んでいる。一瞬でメグッチだと分かった。
『一人にしないで』
作られたメグッチは余りにも一人娘に似ていないらしい。でも、今はわたしが居る。ここはわたしがメグッチを守る。
わたしは布団から飛び起きて自転車で県立総合病院に向かう事にした。メグッチが微睡の中で呼んでいたからだ。
県立総合病院までの道のりは消して楽なものではない。
片道、一時間である。
まだ、県立総合病院は丘の上にある、ラストスパートで自転車をこぐ。夏の昼間はかなり暑い。もはや、汗だくの状態だ。
そして、病院に着くと、汗を拭きながらロビーで待つ。
病院内はまだ混乱しており、気持ち居づらい。
うん?
「鉄也さん、来てくれたのだね」
そう言ってメグッチが駆け寄ってくる。
「おおう、これでも王子様のつもりだ」
「はい、嬉しいです」
そうだ!この県立総合病院ならタクシーが使えるはずだ。窓口に問い合わせるとビンゴだ。
「メグッチ、後どれくらいで帰れそうだ?」
「はい、保護者待ちでした」
「よし、このお金でタクシー乗るのだ。わたしは自転車で帰る」
暑さなんて関係ない、帰りの自転車の乗り心地は最高であった。
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