メグⅡの過去

第6話 記憶のない世界

 目覚めると豪華なベッドの上であった。


 わたしは誰?


 右腕、左足、首の筋肉、それは全身の痛みと記憶喪失である。思春期の青年の気分に似ているが、この感情は思春期に一度はかかる病気ではない。


「お嬢様、目覚めましたか、これからご主人様に面会です」


 初老の女性メイドさんに連れられて大広間に出る。何か、長く寝ていたのか椅子に座ることを望む。


「なぬ、俺の娘は文武両道であった。あああ、情けない」


 落胆している彼は紳士と言うより、デブであった。


 どうやら、彼をこれからお父様と呼ぶらしい。


「せっかくの再会だ、ランチにしよう」


 再会?わたしはお前など知らない。


 この大広間に初老のメイドさんから簡単な説明を受けていた。


 わたしはこのお屋敷の一人娘のクローンであるとのこと。で、この痛みは?と、聞くと。


 高速成長で体はボロボロらしい。


「メグⅡ様、マナーはおわかりで?」


 このメイド、味方かと思ったがあくまで中立らしい。


「……」


 わたしは沈黙で答えた。ここが何処でわたしが誰であるかも分からないのにマナーなど知るか。


「返事は『はい』と答えなさい」

「はい……」

「よろしい」


 で……。


 マナーは分からず昼ご飯はなしであった。自室に戻るとメイドさんが食パンとコーンソープを差し入れてくれた。


「あ、なのう……メイトさんのお名前は?」

「知りたいですか?多々良です」

「ありがとう、多々良さん」

 

 少しほっとしたわたしは食パンとコーンスープを食べる。すると多々良さんは何か説明を始める。


「これから、体育の時間です。学力は追々勉強してもらいますが、先ずは体力です。そして、勿論、マナー等も勉強してもらいます」


 多々良さん案内されて親屋敷の奥にジムがあった。ランニングマシーンにベンチプレス、サイクルマシーン……。本当に色々ある。


 わたしが驚いていると、そこにいたのはデブことお父様であった。


「いいか、返事が『はい』が基本だ」


 また、『はい』である。どうやら、お父様も体育に苦労したらしい。


「はい、了解しました」


「うむ、いい返事だ。そこでだ、これは虐待ではない。嫌になったら、何時でも新しい人生を与えよう」


 それは要らなくなったら捨てるとも言える。


 これは厳しい人生になるだろう。


 それから、わたしの日常はジム室とマナー講座であった。お父様がジム室に来たのは一度きり、専門のトレーナーがついて指導である。そう、ジム室ではサイクルマシーンで一キロ走っただけでクタクタ。


 その後は入れ替わりに講師なる人がマナーに茶道に花道、その他と過酷である。


 今日の日課が終わるとベッドに横になる。


「お疲れのようですね」


 メイドの多々良さんが入ってくる。


「はい、なんでしょうか?」


 わたしは変な口癖がついてしまった。返事だけでも、返事だけでも、と、言われていたからだ。


「明日、奥様から外出許可が下りました」


 ふ~


 この体だ、別に外出などしたくない。


「場所はオシャレなカフェテラスに行きます」


 少し、心が揺らいだ。きっと、年頃の女子ならきっと憧れるはずだ。


「行きますか?」

「はい、嬉しいです」


 やはり、変な癖がついた。まあいい、メイドの多々良さんも気分を害してない。


 しかし、服は沢山あるのだがどれを着たら良いか分からない。


 そこで、リモートであるがスタイリストがアドバイスをくれた。


 本当に大富豪である。


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