第3話 妹への想い
二人で昇降口に向かうと……ふと、空を見上げる。
それは夏の青空であった。今日は暑いな、何でこんなにも心が痛いのだ?
隣を見るとメグッチの笑顔が見える。そうか、妹はどんなに望んでも無理だからだ。
母親はわたしの幼い時に他界している。途切れ途切れの記憶の中で、画用紙にクレヨンで描いた青空が誉められたのが印象的であった。
あの空に今日は似ている。
「鉄也さん?」
「ああ、大丈夫だ、昔の事を考えていただけだ」
すると、メグッチはわたしを後ろから抱き締める。
「ぎゅーと、です。悲しい記憶が無くなりますように」
ホント、純粋だ。この想い大切にしたい。例え、メグッチが急速成長で体がボロボロでも。わたし達は二階の階段から直ぐ目の前の二十三ホームに入る。驚いた、メクッチの席はわたしの隣になっている。
担任が入ってきてプリントを回す。簡単な進路調査であった。わたしは東京の大学に進学したいと書く。
それに対してメグッチは高卒の公務員が希望らしい。高卒公務員なんて誰の影響であろう。わたしの父親が公務員だからか?
「えへへへ、わたしバカだから大学はパスなのだ」
担任がプリントを回収するとその後は健康診断であった。流石、私立高校、四月に健康診断したばかりである。
「おーし、男子と女子に別れろ」
と、担任が声を上げる。健康診断は体育館とレントゲン車両で行われる。
始めは女子が健康診断を行い。
しばし、待つ。
健康診断を受けるのは全校生徒ではなく今日は二年の登校日であった。わたしは長く感じる時間は空を眺める事にした。
「うむ、男子の番だ、クラスごとに始める、離れるなよ」
担任の声が聞こえる。何か気まずい気分のわたしは頭をかきながら体育館に向かう。血圧に視力、定番の健康診断であった。
教室に戻る頃にはくたくたになる。しかし、他の女子はいるのに教室にはメグッチがいない。
「きーん、だよ」
何やら廊下から声がする。メグッチだ。両手を横に上げて走っていた。
心配させるのは得意らしい。
「この学校は女子トイレが遠いよ」
「転んだりするなよ」
と、注意して一緒に教室に入る。ホント、わたしは保護者の気分だ。
「はい、気を付けます」
何時ものメグッチだ。しかし、健康診断でボロボロの体をどう説明したのか凄く気になる。高速成長など誰も見た事が無いはずだからだ。
「健康診断はどうだった?」
「普通です。ただ、重い病?と聞かれました」
「そこで、なんと答えた?」
「はい、不健康ですと答えました」
そうか……やはり、不健康だったか。わたしはあごに手を運び考え込む。わたしに何ができる?本当に兄としてなにができる?
でも、実の兄妹ではない。
望めば結婚もできるかもしれない。
あああぁぁ、ややこしい関係だ。
わたしは何か深いことを考え込んでしまう。
「はい、笑顔です」
メグッチは純粋な瞳でこちらを見ている。これが恋の病なのかと、わたしは頬を赤らめるのであった。
「おーし、今日の予定は完了だ」
担任が声を上げていた。そう、今日の予定が終わったのだ。よーし、午前で学校は終わりだ。
しかし、部活の川柳研究会に寄るか迷う。
あ、今日は二年生だけの登校日であった。
ここは部活はなしだ。
そして、わたしはスクールバスを断り。
路線バスに乗る事にした。そう、今日は夏祭りだ、総合スーパーで浴衣を買うのだ。
「はい、浴衣楽しみです」
わたし達は高校を歩いて出ると。バスに乗る。二人で揺られていると。
まるで、逃避行だ。この恋が難しいからだ。
ふ……。
メグッチが隣に座り体が密着する。やはり、メグッチの吐息はわたしを切ない思いにさせる。
ここで浴衣のエピソードは想いの塊になりそうだ。わたしは母親の居ない生活が続いていた。
ふと、死を望むことがある。
路線バスはわたし達の貸し切りである。
運転手さん、天国まで連れて行ってと感じる。
おっと、また、メグッチに心配されそうだ。そう言えば、朝、父親にチャージ型のカードを貸して貰った。幾らチャージされているのだろ?総合スーパーに着いたら先ず確認だ。
そして、路線バスが総合スーパーに着くと。わたしは少し休んでいたメグッチを起こす。
「はい、充電バリバリです」
それは頼もしいな、綺麗な浴衣姿になる事を望むのであった。とにかく、チャージ型のカードのチャージ確認である。わたしは休憩所に向かい。自販機でジュースを買う。
「どれどれ、残金は……?」
五万円!!!
はー父親も妹が欲しかったのかもしれない。これで予算は心配しなくてもいい。
二人でジュースを飲み干すと、早速にて浴衣コーナーに向かう。
「メッグチ、気に入った浴衣はあるか?」
「はい、このアサガオの浴衣が欲しいです」
メグッチの選んだ浴衣は多くの花が咲いた、薄紅色と瑠璃色の二つの色のアサガオであった。
「彼氏さんも浴衣どうです?」
店員さんが声かけてくる。
「彼氏さん⁉」
不味い、男女二人で浴衣など買い物してしれば当然ことで、彼氏さんになる。
しかし、ここで『妹です』は引っ掛かりがある。この恋心は嘘をつけない。
よし、『彼女です』と答えよう。
「血の繋がらない、義兄です」
があああ。わたしが迷っているうちにメグッチが答えてしまった。
「それで、義兄さんは困った表情になったのね」
店員さんはわたしのことを見透かしたように微笑でいる。そうか、やはり、カップルとしか見られないのか。
「ささ、義兄さんも浴衣を選びましょう」
言われるまま、浴衣を買ってしまった。大きな樹のような絵柄であった。この絵柄はなかなか渋い色であった。これが男性向け浴衣なのかと満足する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます