File.5

 不動は持っていたメモをテーブルに置いた。

 そこには便箋に書かれていた数字が並んでいる。それ以外にも単語やら白黒の四角も多少崩れてはいるが並んでいる。

 あの短時間で内容を暗記したのかと毒島は驚愕した。その書き写したものに不動のメモ書きがいくつかしてあった。

「まず、この一文字のアルファベットは春夏秋冬で間違いない。次に三文字のアルファベットこれは季節ごとの月を表しています」

 津島少年と毒島はぽかんとした表情で不動の顔を見上げた。

 不動は一度咳ばらいをし、姿勢を正した。

「毒島君、三月を英語にすると」

「えっとMarch……あ!」

 毒島が大きな声を出したものだから津島少年は彼を見る。まるでテニスの試合観戦のようだ。

「四月はApril、五月はMay。同様にほかの季節も当てはまる」

 津島少年もようやく理解できたのか目を輝かせて不動の説明に心躍らせている。


「次に、なぜ各単語がすべて三文字なのかという点」

「ああ、確かに……」

 毒島が感嘆の声を漏らすと、キッと睨まれてしまった。もちろん不動と津島少年にだ。

「先ほど述べたように各月が割り振られている。各季節に三か月分の数字があるわけだ。それを当てはめる」

「当てはめるって? 数字より文字のほうが多いじゃん」

 津島少年が当然の問題を提起する。その通りだと毒島も不穏な表情で不動の顔を見た。

「そこでヒントになるのが『昼と夜』だ。」

 便箋の文字を指さし言った。

「もう一度言うが単語自体は三文字なんだ。つまり345となる。そして昼と夜と同様に二つの単語は「」で隔てられている。つまりサクラは昼の345だ。アザミは夜の345となる」

 やはり置いてけぼりになってしまっていた毒島が挙手をする。

「待ってください。その昼と夜ってのはなんですか」

「四角のことだよ。

 津島少年がさも当然に言ってのけてみせる。毒島が「おお……」とまたしても感嘆の言葉を漏らすと「さすがですね」と不動がほめた。こんなこと滅多にない! と思わず目をひん剥いてしまった。

「するとほかの単語にも同じことが言えますね。つまり四角に付随する数字は月の数字ということ。さあ、これで解けるはずですよ」

 少年はじっと便箋を見たまま動かなくなった。きっと声をかけても気が付かないくらいに集中していた。

 その間にお茶を継ぎ足す毒島。相変わらず答えはわからない。


 そしてしばらくして少年は「あ!」と大きな声を上げた。

「なんだよ、そういうことか!」

「ええ」

「心配することなんてなかったんだ!」

 津島少年は開けた缶に手紙をしまうと、缶箱をランドセルに詰め込んだ。

「ありがとう! すっきりした!」

 少年はそれだけ言うと颯爽と駆けだしていった。

「結局内容は何だったんですか」

 毒島が閉じた扉を見つめながら尋ねると不動は驚いた表情で彼を見返した。

「毒島君、まさか何も考えてなかったんですか?」

「だって不動さんが答えを書いてると思ったんですよ、そのメモに。それにもう手紙はないし」

 毒島がもじもじしながらそう言うと、やれやれと肩を落としメモを手渡した。

 嬉々としてそれに視線を落とす毒島。しかし内容は先ほどの手紙と全く同じ。まさか裏面に答えがあるのかも! と裏返したが、すがすがしいほどの白しかなかった。

「あれ、不動さん? 答えは?」

「それは僕の頭の中に」

 毒島は思わず彼を二度見した。そんな毒島はを鼻で笑う不動。

「ヒントがしっかり書かれてるでしょう。たまには頭を使ってみたらどうです?」

 やはりこの不動という男、一言多いのである。

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