File.4

「な……、なんだ、これ……」

 毒島は思わずつぶやいた。口にせずにはいられなかった。

 小学生がわからないのも無理はない。大人の自分ですらわからないのだから。

 不動はそれを目にした瞬間から口を一切開かずじっと紙面を見つめ続けている。まさに穴が開きそうなくらいに。

 そして、その瞬間はじかれたように立ち上がり自席に戻るとメモ用紙を取り出す。何かを書き始めたようだ。

 いつもよりも生き生きしている不動に動揺しつつも毒島は津島少年に向き合った。

「これが最後の手紙なんだよね」

 少年はこっくりと頷いた。

 毒島は正直困っていた。腕を組み、頭をひねらせ手紙を見る。

 わかる単語は日本語で書かれた部分と英語のSONのみ。息子が何だというのだろう。それ以外のMAMだって母親の略字ならMOMが正しい。つまり誤字になる。JJAだとかはまったくもってわからない。

 どうやら思考がぼそぼそと口に出ていたようで、目の前の津島少年が気味の悪いものを見るような目で毒島を睨み上げていた。

 苦笑しつつ頭を掻くとある点に気が付いた。

「あ、これってもしかして四季にわかれているのかも」

「四季?」

 毒島は得意そうに津島少年を見た。いつもは不動にいいところを取られているから今日は一歩リードだ。そんなことを思いながら口を開く。

「サクラとアザミはどちらも春の花。でもってSとはSpringの頭文字。ほかにもアイスやらダルマやら季節のものが含まれている」

 順番に春夏秋冬の季節を表す英語の頭文字が並んでいる。毒島はそう説明した。

 しかしそれで納得できないのが津島少年だった。

「じゃあなんで夏にトケイがあったり秋にキッテとメンコがあるんだよ。それにMAMとかは?」

「トケイは……、暗くなるのが遅いから門限を守ろう、とか?」

「はあ?」

 津島少年は深くため息を吐き落胆した。困ったなと視線を落とした毒島はあるものを発見した。便箋の端、見落とすほど小さな字で「345.678.91011.1212」と書かれていた。

「あ、この数字……」

「俺も見つけたけど、なにかのメモ書きだよ、きっと」

 津島少年がお茶をすすった。しかし不動が「いいえ、それはヒントですよ」と言いながらメモを書き終えた。

「門限やら馬鹿げたくだりはともかく、春夏秋冬のくだりは問題ないでしょう」

 不動がようやくテーブルに戻ってきた。手には何やらメモ用紙を持ったままだ。

 毒島がそれを見ようと身を乗り出すと、さっとよけられ半眼で睨め付けられた。

 気を取り直した不動が津島少年に尋ねる。

「答えを出す前にいくつか質問があるが、いいかな?」

 津島少年は不思議そうに不動を見上げる。

「別に、いいけど……」



「カタカナで書かれているものはおばあさんが好きだったもの」

 そういうわけじゃないと思う。好きなものももちろんあると思うけど、別に時計が好きだったとか聞いたことないよ。

「おばあさんの好きだったものは何ですか」

 クロスワードパズルだよ。頭を使うゲームが好きだったんだ。


 不動と一緒じゃないか、と毒島は思った。

「だから白黒の枠が書いてあるんですかね」

 俺も最初はそう思ったよ。でもクロスワードパズルは黒枠に字は書けないでしょ?


 不動は便箋の端にある数字を指さした。

「この筆跡は誰のものですか」

 おばあちゃんの字だよ。きれいだけど癖があるからすぐわかる。

「では最後に、おじいさんの名前はマコトさんですか」

 はあ? なんで知ってるんだよ。


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