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 子供のころ、祖父母の家には開かずの間があったんです。絶対に入ってはいけないと、きつく言いつけられていました。何より部屋のあった場所が薄暗く陰鬱で近寄りがたい雰囲気があったので開けようとも思わなかったんですが……、あるときその開かずの間が開いていた記憶があるんです。

「どうして開けてはいけないんですか」

 お化けが出るからと言われていました。確かに出てもおかしくないような雰囲気でしたし。いたずらをすると部屋からお化けが出て来るぞと脅かされました。

「その部屋はいつ開いていたんですか」

 たしか私が幼稚園に通っていた頃くらいだと思います。だから二十五年以上前ですね。

「どんな部屋か、中は見ましたか」

 はい。とても暗く恐ろしかった覚えがあります。

「どうして恐ろしかったんですか」

 まともな明かりがないどころか、部屋中が墨をこぼしたようにどっぷり真っ黒だったんです。


「吸い込まれてしまいそうですね」

 毒島が恐れ慄きながらつぶやく。三枝も当時のことを思い出してか、両肩を抱きながら深く頷いた。


「今その部屋はありますか」

 ありません。

「それはどうして」

 家を改築してしまったので。

「物置部屋とかにしていたわけではなく」

 家には納戸がありますし、敷地内にも蔵が建っているので物置部屋にするほど困ってはいません。

「その日、他に何かありませんでしたか」

 ……そう言えば、祖父母が庭で誰かと話していました。たしか、近所の人でした。

「何を話していましたか」

 よく覚えていません。ただ何かをお願いしていたのは覚えています。


 首をひねった毒島が訊ねる。

「それって改築の話ではないんですか」

 改築したのは最近なんです。三年前に祖父が死んでから。

「じゃあその部屋のお祓いとか……」

「そんなわけないだろう」

 不動が深くため息を吐きながら言った。


 三人とも深刻そうな話はしてませんでした。あ! そう言えば何か台のようなものもありました。理科の実験室にあるような。


 三枝の気づきに不動はふむ、とひとつ頷いた。

「水回りは家のどの方角にありましたか」

 東側です。キッチンから風呂場まで全部固まっています。

「ではその部屋は」

 北側にありました。


 すると一人取り残された毒島が慌てて口を挟む。

「ちょっと待ってくださいよ。水回りがなんで関係あるんですか」

 もちろん不動は答えない。


「近所の人のご職業はなんですか」

 たしか……、代々工務店をしています。

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