Case.2 消えた開かずの部屋

File.1

「不動さん……、これ、本当なんですかね」

 毒島が戦々恐々としながら訊ねる。

 不動は大きくため息を吐くと「そんなわけないでしょう」とコーヒーを注ぐ。湿った芳ばしい香りが鼻をくすぐった。

 毒島は聞いているのかいないのか、テレビに釘付けだ。季節はすでに秋だというのに、残暑に鎌をかけて、いたちの最後っ屁のような心霊特番を放送している。何よりも恐ろしいのは、この番組は再放送で、どこかで見たようなよくあるシチュエーションの似たような映像を延々と見続け、震える中年がこの事務所にいることだ。そしてそれを見つめる中年も。不動はある意味肝が冷えた。


 ようやくエンドロールが流れ始め毒島は白い顔をして不動に訊ねた。

「不動さんはこういう心霊番組は怖いと思わないんですか」

「まったく。毒島君がうらやましいくらいですよ。こんな子供だましの映像でよく怖がれますね。ある意味燃費が良くてうらやましい」

 一息で言い切るとコーヒーを口に含んだ。

 不動は相変わらず辛辣だな、と毒島はばれないように半眼でめ付けた。コーヒーを口にしたのは会話する気がないという彼なりの意思表示だった。毒島はそれをよく理解していた。だが別に機嫌が悪いわけではない。むしろ調子がいいくらいだ。もし、こんな時に依頼人でも来たらばスピード解決してしまうのではないだろうかと、毒島はひっそりと心躍らせていた。


 すみません、と戸から依頼人の顔が覗いたのは夕方になってからだった。二階のデザイン事務所の社員、三枝久美子が就業を終えてから階段を登ってきたらしい。

「どうされましたか」

 毒島が当たり障りなく訊ねる。

「下の愛島さんから聞いて来たんですけど、相談に乗ってくれるとか」

 三枝は緊張した面持ちで両手を固く握りこんだ。そして固唾を飲むと意を決し口を開いた。

「開かずの間について相談があるんです」

 今度は毒島が息固唾飲む番だった。

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