File.2
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最初はどこもおかしな様子はなかったんです。でも施術の途中からだんだんと口数が減っていって、最後には泣き出してしまいました。髪型が気に入らなかったんだと思い全額返金しクーポンも渡そうと思ったんですがかたくなに受け取らなくて……。料金を支払うとそのまま帰られてしまったんです。すぐにお詫びの電話を入れたんですが相変わらず悲しそうで、でもクレームがある様子ではないんです。
「電話はすぐにつながったんですか」
はい、すぐにお詫びの電話を入れました。
「当日はどんなオーダーだったんですか」
カットとカラーのご予約でした。一年ぶりだからと髪型指定もありました。
「どんな髪型でしたか」
栗色のショートボブです。
「普段からよく来店される方だったんですか」
いいえ、初回の方でした。黒髪ロングだったので大胆だなと思ったんです。本当に切ってもいいのか確認も取りました。
聞いていた毒島は口を挟んだ。
「やっぱりせっかく伸ばした髪の毛が惜しくなってしまったんですかね」
私もそう思いました。なので再三確認をしたんです。「本当に切ってもいいですか」って。
「どうして泣き出したのか見当もつきませんね」
毒島は頭をひねる。
「泣き出したのはいつですか」
最後の仕上がり確認の時です。でも完成間際にはもう泣き出しそうでした。
「来店したときの一番最初の様子はどうでしたか」
いたって普通でした。何か困っていたり迷っていたりする様子はありませんでした。
不動は一度深く腰掛けるとコーヒーを飲んだ。ミルクなし、砂糖一つを落としたホットコーヒーだ。
「施術中はどんな話を」
家族旅行の話をしました。とても仲がいいみたいで、その時は本当に嬉しそうでした。
特に双子の妹さんと仲がいいみたいで子供のころのエピソードをたくさん話してくださいました。
「具体的にはどんな話を」
妹さんは文武両道でとても優しく、器用で自慢の妹なんだ、とお話ししていました。とても優秀だったことが誇らしいと言っていました。
「家族旅行はどこに行ったと言っていましたか」
尾道です。車で行ってきたみたいです。
毒島が驚いて声を上げた。
「尾道だと結構な距離ですね」
ええ、家族で交代しながら運転したそうです。
「家族構成は」
ご両親と妹さんの四人家族です。当日の写真も見せてもらいました。
だんだんと本筋からそれた質問になっていることに毒島は困惑した。
「不動さん、それって今関係のある話なんですか」
しかし、不動は毒島の言葉など聞こえていない風に質問を続けた。
「旅行期間はいつからいつまでか聞きましたか」
さすがにそこまでは……。でも天神祭を見に行ったと言っていました。
「たしか七月末にあるお祭りですね」
毒島が独り言ちるように言うとようやく不動が彼に向き直った。
「毒島君、去年の天神祭前後の交通死亡事故を洗ってください」
毒島は困惑した。まさか幽霊が来店したとでも言いたいのだろうか。
とにもかくにも毒島はパソコンの前に座ると、検索エンジンに尾道からこの近辺までの道路区間で交通死亡事故に関するワードを打ち込んだ。
もちろん愛島も動揺しているようでキーボードを叩く毒島を心配そうに見ている。しかし、そんな間も不動は質問があるらしく、愛島に向き直ると言葉を続けた。
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