第六話-紅蜘蛛丸

 そいつは、人間の言葉を喋った。紅蜘蛛丸の耳には、


「ケケ。ヨクキタナ、ニンゲンノコムスメ。オマエクッタラサゾヤ、ウマイダロウ。ソッチノオトコハ、ドウデモイイ」


 と聞こえた。紅蜘蛛丸は叫んだ。


「彼岸花! 伏せろ!」

「紅様……っ、駄目、間に合わないっ……!」


 凄まじい速度だった。咄嗟に彼岸花を伏せさせた紅蜘蛛丸の首が切り裂かれ、鮮血が迸る。


 再生まで2秒あれば足りる。紅蜘蛛丸は冷静に計算する。だが、それでもなお、村滴滴国滴滴の巨体が首を垂れ、彼岸花に喰らい付く方が早かった。本当に、信じられない速度だった。


「あ……がっ……べに……さま……」


 彼岸花の上半身が半分、齧り取られていた。そして崩れ落ちる前に、残りの半分も喰らい付かれ、ほぼ全身が村滴滴国滴滴の口の中に消える。


「貴様……わたしの……わたしの彼岸を……わ、わたしの……愛した女に、何ということを! 許さぬ! 絶対に許さぬぞ!」

「アイシタ? ダレヲ? オマエハダレモアイサナイ。ダレモアイサナイカラ、コウナッタ」

やかましい!」


 紅蜘蛛丸は頭蓋骨を持っていない方の片手を硬化させ、その手のかたちを巨大な剣のように形成した。


「殺してやる、殺してやるッ……!」


 激しい戦いになった。ふと気が付くと、紅蜘蛛丸は本当の本気で戦う時にしか見せない姿、つまりとてつもなく巨大な、紅色をした、背中に八筋に分かれた疵を持つ、蜘蛛の姿になっていた。


「オモシロイモノヲミセテヤロウ。サッキ、コイツハクッタカラナ」


 村滴滴国滴滴は変身した。少女……というにはほんのちょっとだけ年が行っている、細身で、髪が長く、そして美しい女の姿。


 紅蜘蛛丸は声無き声で咆哮する。


 それはさきほど喰い殺されたばかりの、彼岸花の姿であった。その姿で、は術を唱え始める。


「天地よ砕けて散れ。森羅万象に滅びあれ」

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