第53話 戦後の処理

 私はあの後、結界石に寄りかかったまま、いつの間にか眠っていたらしく、頬を思い切りグリっと突かれて目を覚ました。


 とても覚えのある感覚だ。


「……カミちゃん、起こすならもっと優しく起こして」


 私が文句を言うと、紙人形になったカミちゃんは全く聞いてなさそうにさっと私の上を飛び降りて手を引こうとする。

 性急さはいつもどおりだ。


 倒れないでいられるギリギリのラインまで結界石に力を注いだせいだろう。凄く体が重い。


「ちょっと待って。今、あんまり動けないの」


 私がカミちゃんの手を引き戻すと、不意に結界の向こう側から凪の声が響いた。


「薬をお持ちしたのです。白月様。ただ、結界内にいらっしゃるとお渡しできないので……」


 遠慮がちに、私に薬の入った瓶を見せてくれる。


 なるほど。だからカミちゃんが起こしに来たのか。


 ただ、立ち上がろうと足に力を入れてみるが、どうにも立てそうにない。


 私はカミちゃんに手を引かれたまま、這うようにして結界の外に出た。


「何度呼びかけても目を覚まされる様子がなく、何かあったのではと心配いたしました」


 凪に支えてもらいながら座り直し、薬を口に含ませる。

 カミちゃんも人の姿に戻り、眉尻を下げた。


「戻ってきたら、白月様が目を覚まさないと凪に泣きつかれたのです」

「……それは申し訳なかったけど、起こし方はもうちょっと何とかできなかった?」

「懐かしかったでしょう?」


 カミちゃんはなんともキラキラした笑顔を私に向ける。

 ……そういうトコだよ、カミちゃん。


「それで、外は?」


 私が尋ねると、カミちゃんはニコリと笑ってから、不意に一歩下がり、大仰にその場に膝をついて頭を垂れる。後ろに控えていた兵たちもカミちゃんに合わせて一斉に跪いた。


「幻妖宮の制圧、相成りました。改めて、主上へ万事御報告を差し上げたく」

「……制圧が完了したのは良かったけど……主上?」

「ええ。晴れて白月様が帝位に就かれる事、誠に目出度きことに存じます」

「ちょ、ちょっと待って!」


 私は凪に預けていた体をガバッと起こす。


「如何なさりましたか?」


 カミちゃんは僅かに顔をあげる。


「カミちゃん、一回その喋り方やめて。

 カミちゃんが外堀を埋めにかかっていた事は知ってるけど、私、まだ帝になるなんて一言も言ってないからね」


 私が言い切ると、カミちゃんはしっかり体を起こして、ハアと溜め息をつく。


「往生際が悪すぎます、白月様。幻妖宮に攻め入る前、白月様の名を知らしめたのをご覧になったでしょう。烏天狗の首領に帝位に就くための協力を求めたのでしょう。我らは白月様を帝位に押し上げる為に戦ったのに、今更、それら全てを無に帰すおつもりですか?」

「……そ……それは……」

「それは、なんです? この戦で傷ついた者が大勢います。兵として再起の難しい者もいます。それらの犠牲も無駄にされるおつもりですか?」

「……そんなつもりじゃ……」

「そのようなつもりでなかったら、一体どのようなおつもりですか。この妖界全体を巻き込み、驟雨の治める世を崩したというのに、ここへ来て治める者の居なくなった妖界を見捨てて逃げ出すおつもりですか?」

「……うぅ……」


 カミちゃんが物凄く怖い。

 しかも、言ってること一つ一つに反論させてもらえない。


「我らを見捨てるような真似、白月様は、まさかなさいませんよね。」


 ニコリと笑っているように見えるが、目は確実に笑っていない。


「帝位に就いていただけますね。白月様。」


 ……この状況でYES以外の答えを出せるほど、私の神経は図太くない。


「……はい。」


 私は完全に押し切られる形で、妖世界の帝位に就くことが正式に決定した。



 私は凪に抱えてもらいながら、結界石のある部屋をでて、着替えを済ませろと一室に押しやられ、何処からか連れて来られた女性達に湯に入れられ、ただでさえ重たい体に重たい着物を複数着せられて身なりを整えた。


 更に、なんとも偉そうな畳の台の上に座らされ、今回戦に関わった、主要な者達の話を聞くことになった。


 カミちゃん、瑛怜、蒼穹。その補足をするため、蝣仁、宇柳、瑛怜の副官が同席していた。


 蝣仁は、首に怪我をしているものの、ひとまず動ける状態のようだ。良かった……


 凪と桔梗も、私の周囲を守ってくれている。何だか完全に私専属のような扱いだが、カミちゃんと蒼穹はそれで良いのだろうか。


 私が案内されて座す時には、既に皆が身なりを整えて頭を深く垂れて待っていた。


 ……物凄く落ち着かない。


「……あの、頭を上げて……もう少し気楽に、いつものように……話しませんか……」


 私がおずおずと言うと、全員が頭を上げる。


「白月様は行儀作法から学ばねばなりませんね。」


 カミちゃんがニコリと笑う。

 行儀作法……何だか嫌な響きだ。


 私が顔を引き攣らせると、瑛怜がハアと息を吐く。


「この場は良いではありませんか。そのような事に気を取られていては話が進みません」

「では、そのお話はまた後ほど」


 ……その後ほどが来る前に、良い逃げ道を探しておこう。御作法に縛られて自由の効かない日々はできるだけ避けたい。

 本来なら、山羊七のところで自由気ままに生活してるはずだったんだから。


「じゃあ、改めて、状況を教えてくれる?」

「蒼穹」

「はっ」


 カミちゃんに指名された蒼穹が、やや緊張気味に応じる。

 顔ぶれだけで言えば、瑛怜達が加わっただけで今までと変わらないのだが、雰囲気がなんだか仰々しくて、堅苦しい。


「宮中の敵勢力は全て制圧。拘束した上で、一所に集めています。我が方は、我らが到着する前に鬼との戦いで命を落とした者が数名。以降は怪我人は居るものの、死者は出て居ません。紅翅殿が蓮華と共に薬湯を持たせてくださったおかげです」

「紅翅、宇柳に薬湯も持たせてくれたんだ……」


 私が呟くと、宇柳がコクリと頷く。


「白月様は本当はそれをお望みだろうからと、少し分けてくださいました」

「紅翅にお礼を言わなきゃ。鬼との戦いで亡くなった兵は、丁重に弔ってあげて」

「はい」


 蒼穹の返事に一つ頷くと、今度は瑛怜に目を向ける。


「京の様子は?」

「京はまだ混乱していますが、徐々に落ち着きを取り戻しています。ただ、復興には時が必要でしょう。市井の者だけでは難しいところもございます。できましたら、軍の力をお借りしたく」

「蒼穹、無事な者達を京に向かわせることはできそう?」

「はい。敵勢力の処遇が決まるまでは監視が必要ですが、一部を向かわせることは可能です」

「そう。じゃあお願い」


 私の言葉を受け、蒼穹が宇柳に目配せすると、宇柳は心得た様に頷いた。


「宮中に捕らえられて居た者たちは?」

「皆無事です。今は解放され、それぞれの住まいに戻っています」

「そう。良かった」


 私はほっと息を吐く。桜凛にも、落ち着いたら会いに行きたい。


「他に被害を受けたところはありそう?」

「いえ。京で鬼どもを殲滅いただいたおかげで、他への被害は見られません。ただ、所々で結界の綻びがあったことから、鬼が何処かに潜んでいぬとも限りません。そちらは我ら検非違使で探りましょう」

「うん。お願い。くれぐれも気をつけて」

「はっ」


 何かを探ったり情報を取ってきたりするのは、検非違使の……というか瑛怜の得意分野っぽいし、任せておけば大丈夫だろう。


「璃耀はどう? 宇柳」

「目を覚まされたようです。夢に浮かされたようにぼんやりしているようですが、紅翅様が毒抜きをして安静にしていれば大丈夫だろうと」

「……毒……?」

「ええ。精神に影響を及ぼす様な毒をかなりの量盛られていた可能性が高いと」


 私はずっと椎と璃耀と行動を共にしていたのに、全然気づかなかった。


 私が額を押えて息を吐くと、カミちゃんが申し訳無さそうな声を出す。


「申し訳ございません。私の配下の者だったにも関わらず、気づく事が出来ず……」

「カミちゃんだけのせいじゃないよ。私も烏天狗の山からずっと一緒にいたのに気づけなかったんだもん」


 早く気づいてあげていたら、と思わずにはいられないが、時間がかかっても回復してくれるなら、今は、様子を見守っていく事しかできることは無いだろう。


「ひとまず、状況はわかった。あとで私も様子を見に行ってみる」

「いえ。白月様のお越しはしばらく控えて欲しいと紅翅殿が」


 私が首を傾げると、宇柳は言いにくそうに一度口ごもる。


「……先の帝が崩御されるお姿と、白月様のお姿が重なってしまっているようで、お気持ちが安定しないからと……」


 私が行くことで、症状が悪化することになるのか……


「わかった。じゃあ、また様子を教えて」


 出来たら姿を見て安心したかったけど、仕方ない。紅翅の許可が出てから会いに行こう。


 ええと……あと確認しておくことは……


「そういえば、京と宮中を守る結界は? そっちも私が気を注いだ方がいい?」


 宮中を守る方は私が解いてしまったのだ。多少責任を感じているので、結界の補強くらい協力したほうが良いのではないだろうか。


 しかし、カミちゃんは首を横に振る。


「白月様のお力は、妖界を守る方にお使い頂かなくては困ります。そちらは捕らえた近衛を数名残し対応させましょう」

「わかった。ただ、捕虜とはいえ、あんまり非道い扱いはしないでね」


 私が言うと、カミちゃんと蒼穹は顔を見合わせる。


「……そのお話は、後ほどご相談いたしましょう」


 ……そういえば、軍に紛れ込んでいた者を栃が捕らえた時にもこんな話になった気がする。まさか全員処刑とか、そんなつもりだったわけじゃないよね……


 私が眉を顰めて二人を見ると、カミちゃんが一つ咳払いをする。


「それから、驟雨の行方ですが……」


 ……あ、帝。すっかり忘れてた。


 ちゃんと覚えていましたよ、という風を装ってカミちゃんに目を向けると、カミちゃんはそれを見透かした様に片眉を上げ、小さく息を吐いた。


「まだ見つかって居ません。恐らく、琥鳳も共にいるのでしょうが、宮中を隅々まで探しても姿が見えず、京周辺も含めて検非違使に探させています」


 味方もほとんど捕らえられた状態で落ち延びたのであれば、そのままでも良いのでは、という気もするが、きっと、そういうわけにはいかないのだろう。


「帝と璃耀のお兄ちゃんのことは、いったん捕らえてから考えよう。

 それで、捕虜をどうするつもりだったの?今はどこにいるの?」


 私の言葉に、カミちゃんや蒼穹が押し黙る。

 奇妙な沈黙が流れたあと、瑛怜が不審そうに二人の顔を見てから、口を開いた。


「捕らえた者共は死の泉の湖畔に集められています。程なく処刑が始まるでしょう」


 瑛怜の冷静な物言いに、背筋がざわっとする。

 結界のための数名以外、捕虜を全員、死の泉に突き落とすつもりだろうか。


 視界の端でカミちゃんが額に手を当てたのがわかった。私が知る前に始末をつけてしまうつもりだったらしい。


 目の前で陽の泉に焼かれた椎の姿を思いだし、胸焼けがする。


 私はバッと立ち上がり、畳から一歩を踏み出す。


 それを止めるようにカミちゃんが座したまま向きを変え、私の行く手を塞いだ。


「どちらへいらっしゃるおつもりです」

「死の泉だけど」

「なりません」


 カミちゃんと私は互いに睨み合う。

 カミちゃんは断固、私を行かせないつもりだ。


 こんなところ押し問答している間に、処刑が始まってしまう。


 私はカミちゃんから視線を外し、宇柳に移す。


「宇柳、処刑を今すぐ止めさせて」


 蒼穹じゃダメだ。あの時だって、結局私の言い分は聞いてもらえなかった。


「しかし……」


 宇柳は上司である蒼穹と、瑛怜と、カミちゃんと、それから私の顔を順に見る。


 蒼穹は首を横に振り、カミちゃんは行くなと目線で宇柳を止めている。


 でも、宇柳には悪いが、そんなの関係ない。

 戦が終わって生き残った者を、一体どれだけ殺すつもりなのだろう。


「良いから行って!」

「は、はい!」


 私が声を荒げると、宇柳は焦ったように飛び出して行った。


 ひとまず、これで時間稼ぎくらいはできるだろう。


「白月様」


 カミちゃんが厳しい声を出す。


 私はカミちゃんを一瞥した後、踵を返し、カミちゃんを避けて廊下に出た。

 それを焦ったように凪と桔梗が追いかけてくる。


「白月様、どちらへ……」

「死の泉に行くって言ったでしょう」

「お止めください。危険です」

「拘束した上で、軍が監視しているんでしょう?」

「それはそうですが……」


 私は凪と桔梗の制止を無視して歩みを進める。


「白月様をお止めしろ!」


 背後からカミちゃんの声が響くと、警備をしていた兵たちが、一斉に私の行く手を塞いだ。


 カミちゃんがつかつかと私に歩み寄る。


「それ程まで、死の泉に向かいたいのであれば、きちんと護衛をお付けください。今までと同じ様には参りません」


 どうやって強行突破しようかと思っていたが、どうやら護衛さえしっかりつければ許可してくれるらしい。


「わかった。じゃあ、適当に着いてきて」


 私は、足止めしていた兵たちをかき分けて先へ進む。その者達が後ろからぞろぞろ着いてくるのがわかった。



 凪に先導されて死の泉につくと、宇柳を先頭に、捕虜の監視以外の兵たちが跪く。


「宇柳、ありがとう」

「いえ……ただ……」


 宇柳はチラと私の背後に目を向けて、顔を引き攣らせる。


 別に来なくていいのに、先程あの部屋に居た者は全員着いて来ている。きっと宇柳はカミちゃんか蒼穹の顔を確認したのだろう。


 宇柳の背後には、手足を縛られ青い顔で死刑執行を待つ捕虜達の姿があった。


 しかも、白の台の左右に兵が立ち、真ん中に一人、手を縛られ足に重石をつけられた者が座っている。


 あの時の私と同じ状況だ。


「宇柳、もしかして、もう何名か……」

「い、いえ! まだ執行前です!」


 私はほっと息を吐く。

 それから、白の台の左右に立つ兵に届くように声を張り上げた。


「処刑はいったん中止。全員処刑なんて馬鹿な真似はやめて」


 それに、宇柳の後ろに控えていた一人が進み出る。


「白月様、藤嵩です。発言をお許し頂けますでしょうか」

「何?」

「はい。私は白月様に命を救って頂き、命を賭して貴方を御守りし、お仕えすると心に決めました。この者らは、直接的ではないにせよ、一度貴方に刃を向けた者共です。二度目は無いと言い切れましょうか。貴方を御守りする上で、これ以上危険な者共はおりません。貴方が情け深い御方だとは存じておりますが、どうか、御身のためにも、この者共の処断をお許しください」


 藤嵩の言葉に、他の兵も皆頷いている。

 言いたいことはわかった。

 でも、受け入れるかは別問題だ。


「ねえ、藤嵩。宇柳は過去、私の大事な仲間を誘拐したことがあるんだけど、もう一度、同じ事をすると思う?」

「は!? ……い、いえ……それは……」


 藤嵩は宇柳に目を向ける。


「しかも、それは蒼穹の命令で仕方なく従っただけなんだけど、処分すべきかな?」


 私は青い顔をする宇柳と蒼穹にチラと目線を向ける。


「……話を変えようか。今、この宮中に敵襲があったしたら、藤嵩ならどうする?」

「それはもちろん、迎え撃ちます」

「何故?」

「宮中と白月様を護らねばならないからです。」

「そうだよね。たくさんの者が集まってる宮中は守らなきゃいけないよね」

「はい」

「じゃあ、あの中に、ただ宮中を守らなければという思いで戦った者が居たとしたら、その者も処刑されるべきだと思う?

 幻妖宮を守れと命じられ、どうしても逆らえなかった者が居たとしたらどう?」


 藤嵩は口を噤んで捕虜達を見やる。


「背景を確かめようともせず、その者個人を見ることもなく、一律に処刑して本当にいいの?

 ねえ、宇柳、藤嵩の言い分だと、一度私と敵対したら処刑した方が良いらしいけど、宇柳も彼処に入る?」


 宇柳は青い顔のまま俯いてしまった。

 私はハアと小さく息を吐く。


「別に宇柳や蒼穹を責めたいわけじゃないよ」


 宇柳の肩をポンポンと軽くたたく。


「ただ、この世界では一人の命が軽すぎるのがずっと気になってた。誰かを傷つける事に躊躇いがなさすぎる。

 孤児は大妖に食われる覚悟で様子を見にいかされ、京で牛車の前を横切れば切り捨てられ、勅命に従わなければ村ごと滅ぼすと言われ、叛意ありと疑わしい者は暴行を加えられ、意に従うまで拷問する。今度は捕虜を全員処刑?

 失ったら絶対に還ってこないものなのに、どうしてここの者達は、そんなに、命を粗末に扱うの?

 自分がやられる立場だったらどう思うの?」


 楠葉が村を出ることを決めたように、宇柳が目玉を差し出せと言われて慄いたように、軍の者たちが鬼界の入り口で死ぬまで戦えと命じられて悲観したように、傷つけられ、命を奪われることへの恐怖は、多分、皆同じように感じている。


 それなのに、いざ優位な側に立つと、誰もそれに疑問を感じない。

 私はずっとそれに違和感を持ってきた。


「簡単に殺すとか言わないで」


 私が低い声で言うと、その場がシンと静まり返った。


 皆が口を噤んでいる中、カミちゃんだけが、ハァと深いため息を一つついた。


「白月様。貴方が人一倍他者が傷つくことを厭い、死を恐れていることは、共に旅をする中で嫌というほど身に沁みています。しかし、だからと言って、咎めも無しにとはいきません」


 私はそれに首を傾げる。


「私、全員咎めなしとは言ってないけど」

「では、どのように処されるおつもりで?」


 ずっと様子見の構えだった瑛怜が口を開く。


「裁判をしよう。」

「……裁判?」

「瑛怜、この者達一人ひとりの情報を調べることはできる?思想、素行、冒した罪、その他何でも。一人ひとりを知った上で、咎めの重さを決めたい。それで危険だと判断せざるを得ないなら、その時にはカミちゃん達の言に従う」


 これが私の最大の譲歩だ。

 出来たらどんなに重い罰でも終身刑までにしたい。でも、きっと、この世界の者には受け入れてもらえないだろう。


 瑛怜は顎に手をあて、考えながら捕虜達の顔を見る。


 捕虜の中には、ほっとしたような顔つきのものもいれば、逆に顔色を悪くする者もいる。


「元の情報も組み合わせれば可能ですが、これだけの人数です。少々時が必要です。それまで、この捕虜達は、どのようにされるおつもりですか?」

「軍の者達は大変だと思うけど、しばらく拘束。ただ、せめて屋根のあるところに移動させて。

 思想にも素行にも問題ないと判明した者は順次解放していけばいいよ。逆に、重い罰を課さなければならない者は牢へ移動させて処遇を審議しよう」


 私はそう言うと、捕虜達に向き合う。


「しばらく拘束させてもらうけど、逃げ出そうとしたり、こちらに叛意ありと思われるような言動をしたら、私も庇いきれない。沙汰が出るまで、大人しくしていて」


 捕虜達の反応は様々だ。つばをゴクリと飲み込む者、甘い対応だと侮るような顔で私を見る者。

 膝を付き深く頭を下げるような素振りを見せる者もいる。


「蒼穹もカミちゃんもそれでいい?」


 私が聞くと、二人は揃って溜め息をついた。


「白月様の中では既に決定されているのでしょう。今更違は、唱えられません」

「意思は固そうですし仕方がありませんね。仰せのままにいたしましょう」


 二人は同じように眉尻を下げた。



 その後、瑛怜は驚くべき速さで情報を取りまとめた。


 そもそも、岳雷や指揮官級の者たちは戦で討ち取られていた事もあり、過半数がそのまま解放、数名が処刑され、残った者は懲役刑に処されることが決まった。

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