第21話 予言の妖

 旅が進むと、だんだん役割分担がはっきりしてきた。

 カミちゃんは今まで通り偵察、楠葉は薪拾い、璃耀は薬草摘み。そして私はお留守番だ。

 一応荷物を守るという大義名分を与えられているが、毎度毎度、野営地に残されるので何だか自分がお荷物になったような気さえする。


 その日も私は焚き火の前に一人ポツンと荷物と一緒に残されていた。

 やることもなくただただ火を見つめているのはなかなか暇だ。早く誰か帰ってこないだろうか、と思っていると、ついさっき薪を拾いに出ていったばかりのはずの楠葉が、何故か手ぶらのまま戻ってきた。

 どうしたんだろうと思っていると、少し躊躇う様子を見せたあと、おずおずと口を開く。


「あの……あちらで子牛が足を怪我しているようで、鳴いているのです。少し見ていただけませんか?」


 ……はい?

 何を言っているのかな?この子は。


「……楠葉、私、獣医じゃないんだけど」

「獣医とはなんですか?」


 可愛く小首をかしげているけど、この子は一体私をなんだと思っているのか。ちゃんと訂正しておかないと、そのうち大問題を抱えて持ってきそうだ。


「動物のお医者さんのこと。そういうのは専門家じゃないと治せないの」


 そもそも、動物を治したことなんてないのに、どうして急に倒れた子牛の対応を求められることになったのか、教えてほしい。


「でも以前、怪我の手当をしてくださったことがありました」


 楠葉は私の疑問に答えるように、屈託の無い眼差しで私を見てくる。


 いやいや、良く考えてよ。全部山羊七のところの薬湯をかけただけだよ。しかも璃耀の時に至っては、かけたのは楠葉だったよ。


「あれは万能薬のおかげでしょう」


しかし、楠葉は納得しない。


「でも、かわいそうで……」


 あの、ちょっと。

 そのウルウルした目で見るのはやめて。私が悪いことしてる気分になるから。


 時々、楠葉は自分の武器を正しく理解して利用しているのではなかろうかと疑わしくなることがある。そして私はすごく簡単に踊らされている気がする。


「はぁ。わかった。案内して」


 なんやかんや、純真まっしぐらな楠葉に甘いのだろうなという自覚はある。


「私にはどうしようもないかも知れないからね」


と一応釘だけはさしておいた。


 楠葉に案内されて向かった先は、野営地からさほど離れていない山の中だった。

 木々の隙間から、黒っぽい背中が見えている。体長は人の子どもくらいだろうか。座り込んでいて、後ろ足が一本、不自然に投げ出されていた。


 急に立ち上がって後ろ足で蹴られたりしないだろうかと恐る恐る近づく。

 ただ、足を怪我しているせいか動く気配は全くない。前方をじっと見つめているだけだ。顔を動かしたり身じろぎすらしないのが逆に不気味なくらいだ。


 足をよく見ると一部、関節のあたりがモコッと膨らんでいる。嫌がるかなと思いつつ、少し触れてみると熱を持っているような気がした。


 ……炎症?

 人の場合は冷やしたり、捻挫ならテーピングとかすると楽になるんだろうけど、、、牛って同じ対処でいいのだろうか?骨折なら添え木が必要?


 私が首を捻っていると、楠葉が心配そうに私を見上げる。


「まあ、わかんないけど熱っぽいから冷やしてあげたほうがいいかも。手ぬぐいを水に浸して持ってきてくれる? あと、真っ直ぐなこれくらいの棒があったら探して持ってきて」


 手で棒の長さや太さを説明すると、楠葉はコクンと頷いて、飛び出していった。


 私はふう、と息を吐いて牛の側にストンと座る。一応指示は出したものの、正しいかはわからないし、治るとも思えない。自然治癒に任せるしかないのが実情だ。獣医なんていないだろうし。

 まあ、自分にできる範囲のことは何かした、というのが気休めだろうが重要だろう。


 こういう動物にとって足を怪我するというのは致命的なんだろうな、と思いながら、私は牛の頭の方を何となく見遣る。


 すると、それに気づいたように仔牛がふっと振り向いた。


 私はギョッと目を見開く。


 振り返った顔が人なのだ。目鼻立ちも口元も、牛の形に人の面をそのまま貼り付けたような。


 ……あ、これ、しってるかも。件ってやつじゃない?


 私が目を見張っていると、件の口がニヤリと気味悪く歪み、そこから低い声が響く。


「近いうちに、お前は一度消え失せる。戻ったときには京に災いを招くだろう」


 告げられた言葉に、全身がザワっと総毛立つ。

 件は、未来を予言するのだと言い伝えられていたはずだ。これは予言なのだろうか。

 件の透き通るような目は、しっかり私を捉えていて、私はそれから目を離せなかった。


「白月様!」


 不意に背後から璃耀の呼びかける声が聞こえたかと思うと、件は目の前で、スゥっと跡形もなく姿を消した。

 璃耀の声が聞こえたのと同じ方向から、楠葉の声も響いてくる。


「璃耀さん、白月様が居たのですか?」


 振り返ると、璃耀が焦ったような顔で私に駆け寄り、その後ろから楠葉と楠葉の肩に乗ったカミちゃんが追いかけてくるところだった。


「お一人でフラフラと出歩かないでください。何かあったのではと心配いたしました。……どうかなさいましたか?」

「仔牛が怪我してるって楠葉が言うから、ここに来たんだけど、璃耀達が来たら消えちゃって……」


 私が楠葉に目を向けると、困ったように私、璃耀、カミちゃんの順に視線を巡らせる。


「私、薪を拾って戻ったら白月様が居なかったので、先程までカミちゃんと一緒に白月様をさがしていたのですが……」

「え、でも牛がいるって呼びにきたでしょ?」

「牛?」


 楠葉は首を傾げる。

 どうにも話が噛み合わない。私は何かに化かされでもしたのだろうか。


 私も楠葉も首を傾げていると、璃耀がそれを見かねたように、私達の間に入った。


「何れにせよ、勝手に出歩くのはお止めください。野営地で留守番をしているのが白月様のお役目だったはずです」

「……はい。ごめんなさい」


 謝りはしたけど、どうにも釈然としない。楠葉の姿をした何かに連れ出されたわけだけど、本物か偽物かなんてパッと見わからない。今回はたまたま楠葉の姿だったけど、璃耀の姿で来られることもあるかもしれない。


……ていうか、私、主って言われたよね。何で怒られてるんだろうね。


「白月様、不満が顔に出ていますよ」


 ニコリと笑う璃耀に顔を引き攣らせながら、私はトボトボと璃耀に連行されるように野営地に戻った。

 ちなみにカミちゃんも楠葉から私に跳び乗り、腹いせのように私の頬に腕を突き立ててきた。

理不尽だと思う。


 件に言われたことを相談するタイミングが掴めないまま、不可思議な現象が起こった野営地には留まれないと、早々に荷物をまとめて別の場所に移ることになった。


 近いうちに私は消える

 戻ってきたら京に災いを招く


 これから都に向かおうとしているが、京とはそこのことだろうか。平安京、平城京のような?

 そういえば、あらゆる災いに見舞われた長岡京というのがあったけど、私が行くとそういう風になってしまうということだろうか。


「ねえ、璃耀。これから行く都ってどんなところ?」

「幻妖京と言うこの妖世界の中枢です。帝の住む御所があり、政治が執り行われ、下町が商店に賑わう場所ですよ。多くの妖が居ますから騒ぎを起こさないように注意が必要ですし、今回のように勝手にどこかに行くなどもっての外です」

「……はい」


 ちょっと都について聞いただけなのに、終わったことを蒸し返された。

 見た目は気にしていなさそうな穏やかな表情を浮かべているのに、意外とネチネチしている。

 私は気づかれないように、そっと溜息をついた。


 それにしても、これから行くところはやっぱり京と呼ばれる場所のようだ。しかも、妖世界の中枢。

 占いや予言を真に受ける必要は無いのだろうが、何となく心に引っ掛かりができてしまった。


 件が出た場所から十分距離を取った頃、ようやく私達は野営準備を始めた。日が沈みかけ、月が低い位置に上がっている。

 さっと薪を集めてきて火をおこし、夜間使うための薪を再び集めに行く。


 また居なくなられては困ると、留守番は楠葉とカミちゃんになり、私は璃耀と薪拾いだ。

 ちなみに、璃耀は薪拾いのときは人の姿に変わる。持てる薪の量が段違いだからだ。

 私も真似て人の姿になったら、だいぶスムーズに薪拾いをすることができた。

 人の姿になることは一種の力の誇示だと言っていたが、便利な場面は結構ありそうだ。

 スピードや小回りを重視したいときは獣の姿、荷物をたくさん持ったりするときは人の姿。通常の兎の姿が一番特徴がないなのがちょっと気になるが、变化できるのは便利な能力だ。


 さて、周囲がだいぶ暗くなってきたので、急いで薪を集めなければならない。おまけに足元を這うように霧のようなものが出てきた。まるでドライアイスみたいだな、と思っていると、川が近いのか、サラサラと水の音が聞こえてくる。この霧はそこから流れてきているのだろうか。木々の向こう側は徐々に霧が濃くなってきているようだ。


 霧の中でフフフ、アハハ、という愉しそうな女性達の声が聞こえた。


「ねえ、璃耀。あっちに誰かいるみたい」


 私は手を止めて、後ろで薪集めをしていた璃耀を振り返る。

 しかし、居るはずの璃耀の姿が消えていて、私は知らぬ間に周囲を濃い霧に囲まれてしまっていた。


「また一人ぼっち……」


 璃耀の圧力のある笑みが脳内に再生される。


「り……璃耀! どこ!?」


 叫ぶように呼びかけてみるが返事はない。私はこの場所から動いていないのに、一体どこに行ったのだろうか。


「璃耀!」


 やはり返事はない。代わりに、クスクスと女性の笑い声がどんどん近づいてきている気がした。

背筋がゾワっとする。


 振り返ると、私の背後には霧に包まれた川があった。明らかに先程までいた場所とは違う場所だ。何度もいうが私は移動していないので、向こうから来たか連れてこられたかどちらかだろう。


 キレイな金色の髪をキラキラ光る簪で一つにまとめた女性が一人、大岩の上に座っていた。濡れ髪が妙に艶かしく、キレイな着物を着崩している。ただし、足の部分は魚のヒレだ。


……今度は人魚?


 この短時間のうちに、件に人魚。

 私はハァと息を吐いた。


 人魚を初めてみたワクワクや、未知なる存在への恐怖より、面倒事に巻き込まれたゲンナリ感の方が強い。さっき怒られたばっかりなのに。


「あら、迷い込んだのはたった一人? 一緒のお兄さんはどうしたのかしら」


 璃耀のことだろうか。そんなの、こっちが聞きたい。


「あの、そのお兄さんに叱られるので戻りたいんですが、ここは何処でしょう?」

「あら、駄目よ。暇つぶしに付き合ってくれなきゃ。」

「……暇つぶしですか……」

「そうよ。そのためにここに招いたのに、すぐに帰られては意味がないじゃない。本当はお兄さんと遊びたかったけれど仕方ないわね」


 ……これは、璃耀のとばっちりでは無かろうか。

 しかも時間がかかりそうだ。帰ったら理不尽に説教される未来しかみえない。

 ……無事に帰れたらの話だけど。


「……それで、一体私は何をすればいいのでしょう」

「そうね、宝探しでもしましょうか」


 人魚はそう言うと、自分の髪についていた簪を引き抜く。ハラリと長い髪が肩に落ちる。


「私が今からこれを隠すから、探してらっしゃい。見つけたら元の場所に帰してあげる。」

「え? あの、私水中はちょっと……」


 人魚に川底へ隠されては、息が続かずに探すどころではないと思うのだけど……


「特別に水の中でも大丈夫なようにしてあげるわ」


 人魚はそう言うと、ポチャンと川の中に飛び込んだ。すぐにバシャっと音を立てて、私の目の前までやって来る。


「もう少しこちらへ」


と促されて近寄ると、人魚は胸元から、一雫の真珠のようなものを取り出した。鈍く光を反射した純白の真珠はとてもキレイだ。


「あら、丁度いいものを首からかけているじゃない」


 人魚はそう言うと、私の首にかかっていた蓮華の花びらが入っていた巾着をぐいっと引っ張る。

勝手に巾着の口を開けると、その中に真珠をぽとりと落とした。


「これを持っている間は、水の中でも呼吸ができるわ。無くしたら溺れ死ぬから気をつけてね」


 人魚はイタズラっぽく笑った。

 ただ溺れるのではなく、溺れ死ぬと言われたのが少し気にかかるのだが、人魚の戯れだろうと理解することにした。


 とりあえず、大事にしておこう……


「じゃあ隠してくるからここで待っててね。逃げようとしても無駄よ。霧の中から出られないようにしてあるから」


 居なくなった隙に逃げようかと思っていたのを見透かしたように人魚はそう付け加えると、ポチャンと音を立てて川の中に消えていった。


 私はストンとその場所に座り込む。川の中が見えればよかったのだが、水面に漂う霧に邪魔されてよく見えなかった。


「これ、本当に帰れるのかな……」


 私はハァーー、と大きな溜息をついた。


 人魚が水面から顔をのぞかせたのはそれからしばらく経ってからのことだった。


「さあ、良いわよ。探して」


 人魚はフフフと楽しそうだ。

 私は重い腰をよっと上げて、水辺に向かった。


 本当に水の中で息が出来るのだろうか。まあ、そうでなかったらゲームにならないのだから大丈夫だろうけど。


 私はズブズブ水の中に入っていく。傍から見たら、きっと入水自殺のように見えるだろう。人魚の言葉を信じて、ざぶっと顔まで沈む。ただ、勇気が出なくて、口にいっぱい空気をためて息を止めていた。

 一緒に潜ってきた人魚は、怪訝な顔で私の顔を覗き込む。


「大丈夫だと言っているじゃない」


……そうは言われても、水中で息はできない、という先入観を捨てるのはなかなか難しい。


「仕方がないわね」


 人魚は見兼ねたようにそう言うと、スイっと私の背後に周り、私の脇腹に手をあてた。


「こちょこちょこちょ〜」


 不意に私の脇腹をくすぐり始める。


ちょ、やめて!


 私は身をよじって逃げようとするが、水中で人魚に適うはずがない。


やめてってば!


 しつこくくすぐる人魚から逃げ切れず、私はもがきにもがき、ついに、ブハっと水中で全ての息を吐き出した。その反動で、無意識に息を吸おうと肺が動く。


まずい、水が!


 思いっきり水が入ってくるのではと水中でバタバタ慌てる。

 しかし、予想したそれはやってこなかった。新鮮な空気が地上と同じように入ってきたのだ。


「い……息が出来る……」


 私が力なくそうつぶやくと、人魚は仕方の無さそうな顔をした。


「だからそう言ったじゃない。」

「水の中で息をするのなんて初めてですから。」


 私が言い訳すると、人魚は肩を竦めた。


「まあいいけど。さあ、息ができることもわかったことだし、探してちょうだい。」


 人魚は手を広げて水中をクルンと回る。


 改めて水中を見ると、ところどころで魚が鱗をキラキラさせながら泳いでいる。月の出る時間帯の水中だというのに、なんだか明るい。これも人魚の力なのだろうか。

 水中を泳いでいるのに息が出来るというのは凄く不思議だ。自分も人魚になったようでとても楽しい。


 私は、水草の中や大きな石の下などを次々に見ていく。水中で簪を探すのはなかなか大変だ。

 私が探していると、人魚はうふふーと楽しそうに笑う。最初は鬱陶しいな、と思っていたのだが、次第に笑っているときと何も言わず黙り込む時に差があることに気づいた。


 あぁ、そういうことね。


 わかりやすいというかなんというか。子どもがババ抜きで、相手にババを引かせようとするときと同じ仕組みだ。記憶の子どもが誰かは判然としないが、直感でそう思った。


 私は探すふりをして、人魚の反応を探ることに力を注ぐ。すると、川の一番深いところに差し掛かると黙ることがわかった。

 よく見ると、そこには少し窪んだ場所がある。石の下とかではなく、砂の中だ。

 これは、馬鹿正直に探していては見つからない。人魚がわかりやすい性格で助かった。


 私はグッと潜って砂の中を掻き回す。

 すると、結構掘り返した場所に、人魚の簪が隠されていた。なんとも意地の悪いことだ。

 見つけさせる気などなかったのではなかろうか。


 私が簪を取り上げると、人魚はあからさまに残念そうな顔をした。


 ザバっと川岸に上がると、


「何でわかったのかしら」


と頬に手を当てる。


 貴方の反応ですよ、と思ったのだが、教えてあげない。同じ目に遭った者に手がかりは残しておいてあげたいし、もう一戦と言われるのは避けたい。


「運良く見つけられましたが、凄く難しかったですよ」


 簪を差し出しながら、ニコリと笑って人魚を持ち上げておいた。


「まあ、仕方がないわね。約束は約束だし」


 人魚はハァと息を吐く。


「あ、そうそう。帰る前に1つ教えてあげる。遊んでくれたお礼よ。貴方、近いうちにこの世から一度消えて、御世を崩す存在として復活することになるわよ。フフフ、これから先が楽しみね」


 人魚はとても楽しそうに口元に手を当てて高く笑った。それが何だか不気味で、背筋がスッと寒くなる。


と、突然霧の向こう側からニュッと手が伸びてきて私の腕が強く掴まれた。


「ああ、お迎えね」


 人魚がそう言ったかと思うと、ぐいっと腕が引っ張られる。


 最後に人魚は私の胸元を指し示し、


「その雫、あげるわ。またね」


と楽しげに手を振るのが見えた。


 目を瞬く間に、私は先程までいた木々の中に座りこんでいた。周囲はすでに真っ暗だ。

 夢に浮かされたように、しばらくぼうっとしていたのだが、いつの間に近くまで来ていたのか、カミちゃんがピョンピョンと私の肩に跳び乗ってきて、ハッと正気に戻った。

 そういえば、誰に腕を引っ張られたんだろうと見回したが、カミちゃん以外には誰もいない。


「カミちゃんが引き戻してくれたの?」


と聞いてみたが、カミちゃんはなんの反応も示さなかった。


「人魚にも件にも同じこと言われるなんて……」


 ふっと口から愚痴のような言葉がもれる。今日は何だか散々な日だった。


 カミちゃんが、クイクイと私の服を引く。野営地に戻ろう、ということだろう。


「そうだね、帰ろう」


 野営地に戻ると、楠葉が「白月様!」と叫んでギュっとしがみついてきた。随分心配をかけたようだ。そして、その声に気づいたのか、璃耀ガサガサと茂みから、心底心配したような顔で戻ってきた。


「一体どこに居たのです。随分探したのですよ」


 心配をかけたのはわかっている。でも、不可抗力だ。

 説教が始まる気配を感じた私は、先程まで起こっていた出来事を一から説明した。

 予言めいた最後の人魚の言葉も一緒にだ。


 その言葉は、昼間、件に言われたことによく似ていた。別の場所で別の時間、別の妖に同じ様なことを言われたのだ。気味が悪い。


 でも璃耀は、


「人魚の戯言など聞き入れてはなりません」


と溜息をつきながら言った。

 予言をまるで信用していなさそうなその態度に、何だか件のことまで言い難くて、私はそこで口を噤んだ。


 カミちゃんが突如姿を消したのはその夜のことだった。

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