アライメント・エイドス/2
酷く固い床に横たわっているのを認識し、ここがアパートの自室では無い事を理解する。身体の軋む痛みに唸りながら体を起こすと周囲は瓦礫の山に囲まれ、天井は錆びついた鉄パイプや入り組んだ配管が張り巡らされ、今にも崩れ落ちてしまいそうな予感をベイルの内に呼び起こす。
「ここは、遺跡の中か」
どうしてこんな所に倒れていたのかは分からなかったが、あまりじっとしている余裕も無いのだけは察してベイルは立ち上がる。
その時、違和感を覚えてベイルは背中を確認すると自衛用の剣が無い事に気付いた。
体の前面に斜め掛けしたウエストストポーチから携帯用のライトを取り出して周囲を照らして剣を探すがどうやらこの辺りには無さそうだった。
「ちっ、面倒な事になった」
諦めて進めそうな道を探して遺跡からの脱出へと意識を切り替える。遺跡の中の危険は造りが脆くなっている事では無い。遺跡において最も危険なモノそれは【
原理不明、超常の力を有した怪物の総称。いつ頃からかこの世界の当たり前になったロクでも無い存在だと、ベイルは認識していた。
「……ここで一体何が起きたんだ」
幸い出口までの道順の記憶や方向感覚はしっかりと働いていた。しかし、ベイルにはここで起きた事に関してだけは全くと言っていいほど記憶が無い。
その時だった。
ごとり。
自分の発したモノでは無い物音にベイルは身を硬らせる。遺跡では何に出くわしてもおかしくは無い。それは殺人機械であったり神話の異形、絵本の怪物、聖書の天使、幻想の泉から溢れ出てしまった歪んだ存在達。それらは得てして人間には決して利などなく、対話する事は勿論、友好を結ぶなどあり得ない。それらは明確に人間にとっての外敵である。されど人間もまたそれらにとっては外敵なのだが、武装を持たないベイルにとってそれらと出くわす事は死を意味していた。
ごとり。ごとり。
岩を転がす様な固い音を立てて徘徊する何かの動きにベイルは耳を澄ます。まだベイルに気付いている様子は無い。このまま何事もなく通り過ぎてくれれば出口までの道はさして遠く無い。今はただ身を潜めていれば────
《レクゥィエスカト》
瓦礫の向こうから聞こえた
────声!
ベイルは咄嗟に耳を塞いで息を止める。だが、声はそれでもベイルの脳内に響いていた。
《イン・パーケ》
────感応系か!
一度聞いてしまえば脳内に刻まれる幾何学的侵蝕作用。この場所でこんな芸当を出来るのはエイドスでしか無いだろう、ベイルはエイドスに見つかる事も憚らずに瓦礫の陰から飛び出した。
あのまま隠れていても声を聞いてしまった時点で向こうからは認識されている。ならばいっそ見つかってでも出口に辿り着くしか無い。
飛び出した先では深い人間の老人の顔の彫刻が刻まれたコンクリートの塊が浮遊していた。そしてベイルの姿を見つけると彫刻の顔がにやりと笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます