Nemo-Alignment Eidos-

ガリアンデル

アライメント・エイドス/1


 真っ白で真っ暗な空間でベイルは目覚めた。と同時に体が動かない事に気付く──いや肉体がない“意識”だけになっている事を理解した。

 所謂、精神空間というヤツだろう、とベイルは周囲に意識を向ける。何も無い空間の様に思えて現実には何も見えはしないが大きなモノが目の前にあるのだけは感じ取れていた。それはさながら尖った物体の先端を目の間に突きつけられているかの様な不快感で本能を刺激する感覚に似ていた。

 次にベイルは何故自分がこの様な場所にいるのかを考え始めた。手始めとしてここに来る以前の事、つまりは直前までの出来事を思い返す事にした。

 ついさっきまでのベイルは放棄された都市教区の遺跡発掘に参加していた。一応それがベイルの仕事である。各地の遺跡発掘現場を転々としながら金を稼ぐのはこの時代珍しい人間では無いがマトモに長生き出来る人間でも無い。要するにロクでも無い仕事だった。

 今回の発掘現場は【都市異聞局】と【Nemo】の共同発掘現場という事もあり人員の募集は多く、大組織が率いる事もあって報酬はかなり良かった事を思い出す。

 とは言えベイルはまだその報酬を受け取ってはいなかった。

 ──精神への干渉……それにこの空間。

 ようやくベイルは自分の置かれている状況を完全に理解するに至る。

 ──ああ、これが噂に聞くエイドス化ってヤツか。なら俺は怪物になるって事なんだろうか?

 しかしベイルには自分が精神の怪物【エイドス】に転化する心当たりが無かった。

 ベイルの知り合いの冴えない探索屋が言うには『絶望と希望の合間に立った者は選択を迫られる。堕ちるか縋るかの二つを』と語っていたが、ベイルには今のところそのどちらも無かった、、、、

 そうすると、何故自分はここに居るのかという疑問だけが残る。

「それはあなたが中洲に立つ者だから」

 唐突に頭の中に声が響き、ベイルは声の方へと意識を向けた。

「誰だ」

 うっすらとだが人間のシルエットだけがベイルの意識だけの世界に浮かんでいる。まるで暗闇の中でうすぼんやりとした淡く白い光だ。その形がどうやら長髪の人間の女だと認識したところで再び声はベイルへと語りかけてきた。

「言葉の通りよ。絶望も無く希望も無い、あなただからこそ私という存在がここに居るということ」

「全く分からないんだが?」

「でしょうね。とは言え、説明している時間もないの。まずは──そうね、思い出して」

 白い光の女がそう言った瞬間、ベイルの意識は急激な眠気に襲われた。

「なん、だ……これは……」

 意識だけの世界で眠くなるなんておかしいとは思いながら、ベイルの意識は落ちてゆく。その最中、一瞬ではあったが白い光の女の顔をベイルは認識する事が出来た。その表情は哀しみ或いは困惑に満ちた寂しげなモノであり、ベイルの胸中に言い難い小さな棘の様な違和感を残し、ベイルの意識は白い光の女の姿を認識出来なくなった。


 

 

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