最終話 液体金属 対 世界
「親分! こんなところにいたんですかい?」
子分のスティールスライムが、オレを見つけ出す。てっきり僧侶の聖水で昇天したと思ったが。
「おう、子分、無事だったのか?」
「あっしは弱いんで、すぐに復活するんです。それより、結婚式を見に行かないんですかい? みんな、大聖堂の間に集まってますよ」
「オレはいいんだ」
行けば、絶対に決心が鈍る。
あいつは和平のために、自分を犠牲にしたんだ。魔王軍も人間界も仲良くなるだろう。
「お前、それでいいのか?」
子分の後ろにいたのは、勇者の仲間たちだった。
そっか。もう平和なんだから魔王城にも入れてもらえるんだな。
「私たちはイヤです。世界のために、一人の女の子を犠牲にするなんて」
「神の教えに反します」
戦士に続き、武道家と僧侶が言う。
「勇者ちゃん、大好きな男の子と結ばれなくて、かわいそう」
賢者が、思わせぶりなセリフを吐く。
「誰だよ、そいつは?」
「あんたに決まってんじゃないっすか!」
女商人が、決め打ちをした。
「オレが? ただのモンスターであるオレに何ができるってんだ」
「ゴチャゴチャ言ってないでいくよー」
全員で「せーの」と担ぎ上げられて、オレは大聖堂まで連れて行かれる。
そこには、ウェディングドレス姿の勇者がいた。
なんて、悲しそうな顔をしてやがるんだ!
世界は平和になるってのに、コイツだけはずっと暗い顔のまま過ごさなければならない。
そんなの間違ってるよな!
「ちくしょう!」
魔王に向かって、オレは体当たりをした。
「ぶほお!」
不意打ちを食らって、魔王がつんのめる。
「悪いな魔王! 花嫁は、いただいていく! オレは、勇者を絶対、お前らの養分になんてさせねえからな!」
「スライムくん!」
女勇者が、オレを抱き上げた。
「ありがと。ずっとあきらめようって思ってた。魔王さんは話がわかる人だから、キライってわけじゃないんだけど、やっぱり好きな人といたいよ」
オレと勇者は、魔王を見る。
「なるほどな。やはり以下の手ほどきは、教会どもの仕業だったか。行くがよいミスリルスライムよ! この土地を明け渡す。そこで暮らすがよい!」
魔王が、地図を投げてよこす。
「あんたは? オレは、あんたのメンツを」
「教会どもが仕組んだ計画なんぞ、ハナから信用しておらんかったわ! お主も教会の勢力に今後も狙われかねんが、お主はお主の道を行け!」
「感謝する」
魔王が人間ども相手に暴れる中、オレたちは逃げた。
ニンゲンの兵隊に追われながら、オレと勇者一行は、どうにか魔王のくれた島に到着する。
「スライムだらけの島か。ここなら、オレも気兼ねなく暮らせるな」
だが、この先コイツらはどうするんだ?
相手はニンゲンだけではなくなる。魔王の意見に賛成しない魔物も、オレたちの生活を脅かすだろう。
「いいのか、お前たちもついてきて。全員、お尋ね者になっちまったぜ?」
「どのみちこうなる運命だったんだよ」
勇者とその一行も、ここで暮らすことになった。
「スライムくん。これからは、ずっといっしょだよ」
「わかったよ。オレが絶対、お前たちをイケニエになんてさせねえからな!」
(FIN)
はぐれ液体金属スライムが、美少女冒険者たちから必死で逃げる 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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