第4話 液体金属 対 遊び人賢者

 勇者の仲間も、倒していないのは馬車を見張っている非戦闘職だけになった。商人と遊び人である。


 他の仲間は、以前の戦いでオレの強さがわかっただろう。


 非戦闘職の攻略なんて楽勝だ。


 そう思っていた時期が、オレにもありました。


「なんだこいつら、めちゃ強い!」


 商人は仲間の行商人を召喚し、群れで襲いかかってくる。街なかでもお構いなしに暴れてやがった。ちゃんと店や公共物などをよけやがる。

 シティアドベンチャーに慣れすぎだろ!


「あっちに逃げたっす! やってやるっすよ!」


 ポニテロリ商人が、指差しでオレを付け狙う。


「しかも、オレの装甲を突き抜けてきやがる!」

「そうっすよ! 時代は変わったんす! 商人にはね、【金属質殺し】の属性がついたんすよねーっ!」


 金属質モンスターは、金になる。その特性を無効化して、「金属モンスターだけを狩る」ことに取ったした商人が現れたという。


 なんて合理的な! 


 だが、その均衡も崩れる。一人のギャルの手によって。


「うわっと。遊び人さん、邪魔すんなっす!」


 商人の首根っこを掴んで、遊び人はスロットに座らせた。


「えーっ。ゴハン食べに行きたいから、確変中の台に座っててよー」


 遊び人は、商人をほったらかして屋台で串焼きを食べに行ってしまう。


「アンタも食べる?」


 遊び人が、串焼きを一つオレに差し出してきた。


「あいにく敵の施しは受けねえ。今のうちに逃げさせてもらうぜ」

「ふーん。じゃあ、いっただっきまーす」


 串焼きを口へと放り込む。


「あーっ。台取られちゃったじゃーん。商人ちゃん、しっかり台を確保してないと」

「うるせーっすよ! コツコツビジネスやってる方が、将来的には勝てるっすよ」

「えーっ。楽して勝ちたいじゃん?」


 仲が悪いなコイツら。


「このビジネス書でも読んで、勉強しやがれっす!」

「あたしー。四コマ劇場しか読まないしー」


 商人から差し出された本を、遊び人は読み耽る。


「これは……おっほ……ふう」


 どうも、遊び人の様子がおかしい。目がすわり、表情もクールなものへと変わっていく。


「あ、それ【悟りの書】っす! 難関ダンジョンの奥に眠っていたほどのレアアイテムなのに、こんなヤツに読ませちまったっす!」


 悟りの書とは、「勇者の次にレア」と呼ばれている職業、【賢者】になれるとウワサの書物だ。表紙的に、エロ本にしか見えないが。


「大丈夫だろ。悟りの書ってある程度強くならんと賢者になんてなれん」

「違うっす! 遊び人は、『いつどこでも賢者になれる』特性があるっす!」


 遊び人が、本をパタンと閉じた。頭の付けウサ耳を外し、服装もミニスカローブへと変わる。武器もムチから杖になった。アレはまさしく賢者である。


「だいたいわかったよー。女の子は、焦らしたほうがキクんだよねー」


 ああ、違う意味の賢者になっちまったか。


「よーし、暴れちゃうぞー。へんしーん」


 賢者が杖を掲げた。カジノをぶっ壊すことも構わず、屋内で巨大なドラゴンへと姿を変える。


「うおー。ブレスをくらえー」


 ドラゴン賢者が大きく息を吸い込んで、特大の火炎を放射した。このままでは、みんな黒コゲになっちまう。


 オレは、身体を限界まで広げた。街を覆い尽くすほど巨大化し、ブレスを全部受け止める。


 いうほど熱くねえな。ドラゴンとはいえ、低レベルだからか。


 商人たちは、オレを攻撃しない。住民の避難に全力を注ぐ。


「むむー」


 なおもドラゴンは、オレに攻撃を加える。


 だが、オレはびくともしない。オレの身体は、ドラゴンによって一度溶かされている。ドラゴンとの戦闘には、慣れているからな。


「本を奪えばなんとかなりそうか?」


 でも、どこに……ん?


「スライムさん! アイツはオーラでドラゴンに見えているだけっす! 本体は頭にいるっすよ」

「おう、さっき見えた!」


 本のサイズに戻って、オレは賢者のいる頭部に。ムチムチの太ももをよじ登って、本を奪い取ろうとした。


「やーん、えっちー」


 スカートを覗かれると思ったのか、賢者は本で尻を隠す。


「エロもクソもあるか! ていっ」


 オレは賢者の手を払い除け、本を叩き落とした。


 ドラゴンは消滅し、めでたしめでたし。


「本は回収したっす。でも街を救ってくれてありがとうっす」

「暴走を止めてくれてありがとー。勇者ちゃんの言った通りの子だったー」


 勇者め。オレを善人呼ばわりしやがって。



 オレは絶対、お前らの養分には――。





「でも残念っすね。勇者ちゃん、もうすぐ魔王と結婚するっす」



「なんだと!?」



 和平のため、魔王と勇者は結婚することになったらしい。

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