第3話 液体金属 対 魔術師

 女勇者一行から逃げまくっていたオレは、ダンジョンまで逃げおおせた。


 よし。ここまで来たら周りの魔物たちの援護もあるから大丈夫だろう。


 と思っていたら、全滅しているじゃねえか! なにがあった!?


 子分のスチールスライムが、オレの元にやってきた。


「おう、何があった!?」

「親方、アイツらやべえです! あっしたち金属製スライムを撃退できる、対策をしてやがります!」

「なんだと!?」

「それも、ひとつや二つじゃねえ! あひゃああ!」


 どこからともなく飛んできた液体によって、スチールスライムが溶かされてしまう。この匂いは……母乳? いや牛の乳か。


「観念しなさい、悪しき存在のしもべよ。私が所属する教会で開発された【聖なる浄化水】で、あなたを天へ導きましょう」


 女の僧侶が現れた。ドルン! と、豊満なスライムを胸部に従えている。弾力が凄まじい。


「魔法使い、そちらはどうですか?」

「大丈夫よ! 追い詰めたわ」


 まだ、仲間がいるのか。


 スチールスライムを、緑色のローブをまとった女魔法使いが追いかけ回していた。


「へん。オイラに魔法は効かないぜうげええ!」

「そんなの、想定済みよ!」


 魔法使いが、スチールスライムを一撃で仕留める。バカな。金属製のスライム族は、魔法を受け付けないはずだ。

 あちらの胸部スライムは、柔らかそうである。


 大量の経験値が、魔法使いへと吸い込まれていく。


「びっくりしているわね? この毒針は、あなたたちの急所を突いて攻撃する」


 魔法使いは、先の鋭い髪留めを持っていた。あれでスライムを、一突きしたのか。


「金属スライムだろうと、一発で倒せるのよ。覚悟しなさい」


 冗談じゃねえっての。オレはお前たちの経験値になるつもりはないね。


「観念なさい!」


 僧侶が、聖水をぶちまける。


 オレがさっきまでいた場所に、煙が。


「魔物の気配すら消し去る聖水です。大丈夫。痛みを感じる前に天へ送ってさしあげますので」


 そういえば、スチールスライムも苦痛の表情はなかったな。アヘ顔で召されていった。


「逃げた先が悪かったわね!」


 背後に、敵の気配が。


 髪留めを手にした魔法使いが、針をこちらに向けていた。


 素早さを上げる魔法と、気配を消す魔法で近づいてきたのか。


「うわっと!」


 オレは、インファイトへ持ち込む。

 さしもの毒針とはいえ、自分の身体に針は突けまい。


「こ、こら! 待ちなさい卑怯者!」

「やなこった!」


 魔法使いの身体をまさぐりながら、オレは全力で逃げ回る。


「つめたっ。この!」


 ひんやりとした感触に、魔法使いは艶っぽい声を出す。こころなしか、ヒザが震えだしている気がした。立っていられないのだろう。


「もう!」


 胸の辺りまで来たオレに、魔法使いの針が届きそうになる。


 オレは紙一重で避けた。


「あひいいん!」


 魔法使いの身体が、大きく跳ねる。


 どうやら、女性特有のツボを突いてしまったらしい。


 魔法使いはグッタリしてしまう。


「仲間の仇です。お覚悟を!」


 僧侶が、聖水を振りかぶる。


「そうはいくか!」


 オレは、相手の腕に体当たりをした。


「うひゃああ!」


 白濁液を、僧侶は頭からかぶる。


「うう、お嫁に行けません」


 濡れ透け状態になって、僧侶はへたり込む。


 さて、今のうちに……。


「ブッヒ! なんか、おにゃのこ発見!」


 最悪なタイミングで、オーク族が集まってきた。魔物の死体を漁りに来たか。


 オークは雑兵であるがゆえに、「どんなメスを相手にしても子宝に恵まれる」といった特性がある。


「しかも弱体化してんじゃん! これはラッキースケベすぎる! ブヒヒ!」


 勇者パーティも、実は繁殖力が高い。「恒久的に魔物を撃退できる血統を残しやすくする」ためだ。


「ブヒイ。これだけ強いメスを抱いてガキを産ませ続けたら、魔王に対抗できる軍隊ができるブヒ! あのエラそうなやつも目じゃねえブヒ!」


 ただでさえ、オークは魔物たちの中でも虐げられている。そのため、下剋上を常に狙っているのだ。


 そんなヤツらが女勇者一行を襲ったら、オーク大家族ができてしまう。それでは、魔王様の立場が逆転する恐れがあった。


 なんとしても、その事態は避けないと。こんなのでは、「くっころ」では済まされない。


「ちょいと武器を借りるぜ!」


 オレは、魔法使いの手から毒針を奪った。


「オークのガキなんて産ませねえ! くらえ!」


 敵の背後に回って、オークの首筋に張りをぶっ刺す。


「ブヒイ!」


 白目をむき、オークが倒れ込む。


「なんだブヒ! 親分が死んだブヒ! 裏切り者だブヒイ!」

「裏切り者は、テメエらだろーがっ!」


 日頃から魔王の座を狙っているくせによ!


「聖水も。あるだけもらってくぜ!」

「あっあっ、返しなさいぃ」


 腰が抜けている僧侶の懐をまさぐって、聖水をあるだけ回収した。


「さあ、シャワーの時間だぜ。くっせえオーク共!」


 オレは聖水のビンを、オークたちの頭上に投げつける。雷魔法を唱え、ビンを破壊した。


「ブヒヒィ!?」


 オーク共が、全滅する。


「これでよし、と」


 魔王様を脅かす魔物共は倒したぜ。


 増援のオークが現れたが、勇者パーティが全滅させた。いつの間にか、勇者はそこそこに強くなっている。


「ありがと。スライムくん。また仲間を助けてくれたね」

「うるせえ! オレは逃げるぜ!」


 オレは絶対、お前らの経験値になんてならねえんだからな!

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