転生大魔法使いののんびり開拓記(願望)〜整地のためにうっかりラスボスの城を吹き飛ばしてしまいました〜
転生大魔法使いののんびり開拓記(願望)〜整地のためにうっかりラスボスの城を吹き飛ばしてしまいました〜
転生大魔法使いののんびり開拓記(願望)〜整地のためにうっかりラスボスの城を吹き飛ばしてしまいました〜
水都ミナト@【解体嬢】書籍化進行中
転生大魔法使いののんびり開拓記(願望)〜整地のためにうっかりラスボスの城を吹き飛ばしてしまいました〜
「うーん、やっぱりあのお城、邪魔だなぁ」
僕は空中にふよふよと胡座を組んで浮かびながら呟いた。
古城の向こうには美しい海が広がっており、その奥に遠く見える山脈もまた緑が美しい。だが、その絶景を隠すように、どことなく不気味な古びた城がデデンと鎮座しているのだ。折角の景観が台無しだ。
「もうずっと誰も住んでないって言ってたし、好きにしていいって言われたし…うん、やっぱり吹き飛ばそう」
僕は古城に向かって手を翳すと、ブゥンとその巨大な城の周囲を覆う結界を張った。爆破の影響が周囲に及ばないようにするための処置である。その中に何重にも魔法陣を展開する。木っ端微塵に吹き飛ばしたいので徹底的にやってしまうつもりだ。
「そーれ、ぼっかーん!」
翳した手をぎゅっと握ると同時に、古城は激しく爆発して粉々に砕け散った。爆発の影響で生じた熱波はしっかりと結界によって防がれている。ゴウゴウ激しい炎に焼かれ、古びた城は跡形も無くなってしまった。
「うん!これで見通しが良くなった!」
僕はすっきりとした景観に満足して、腰に手を当ててふふんと胸を逸らす。
眼下に広がるのは、何もない草原、森、山、海。この広大な孤島全てが僕のものだ。
「よーし!これから頑張って開拓して自由気ままに自給自足生活をするぞー!」
僕は拳を突き上げて、念願のスローライフのスタート地点に立ったことで期待に胸を膨らませた。
◇◇◇
僕、ルルーシェの前世は、勇者と共に魔王を討ち倒すために尽力した大魔法使いであった。
前世の記憶が戻ったのは、5歳の時である。自宅の書斎で、高い位置にある本を取ろうとして椅子の上から転落した拍子に一気に前世の記憶が流れて来た。
生前の世界は、魔物が溢れる混沌とした世の中であった。僕はそんな世界を救うため、魔王討伐に人生を捧げた。来る日も来る日も魔物と戦い、昼夜問わずに戦い続け、安心して朝まで寝ることも叶わなかった。ようやく魔王を討ち倒した時には、過度なストレスと過酷な生活が祟り、あっさり死んでしまったのだ。いわゆる過労死ってやつ。世界が平和になり、ようやくのんびりとした生活ができると思った矢先の出来事だった。
僕は類まれなる魔力を持った大魔法使いであったためか、晴れて転生を果たしたらしい。記憶を取り戻した時は、この平和な世界で必ずのんびり幸せに暮らすのだと誓ったものだ。
前世の記憶があるため、魔法は呼吸をするように自在に操ることができた。だが、僕は人前で魔法をひけらかすことは決してしなかった。今世の世の中は平和であるが、どうやら前世同様に魔物や魔王は存在するらしい。魔法の才に秀でていると公になれば、また魔王討伐に送り込まれることになりかねない。そんなことは断固拒否である。
僕は生まれ育った平和な小さな村で、優しい両親と共にのんびり生きていくのだと、そう心に決めたのだから。
だが、そんな両親は先日、あっさりと事故で亡くなってしまった。僕は12歳で天涯孤独の身となった。
僕は悲しみに明け暮れたが、両親の遺品を整理している時に、とある一枚の紙を見つけた。それは村よりずっと南にある広大な孤島の権利書であった。
僕は早速魔法で上空を滑空し、その孤島を確認した。なんとそこは人の手が全く加わっていない美しく広大な土地であった。後から発見した母の日記には、いつかこの地を開拓し、家族で自給自足の生活をしたいという夢が記されていた。
どうやら、人類未到の孤島を開拓して悠々自適に生活するために大枚を叩いて買い上げていたらしい。
ーーー父さんと母さんが成し得なかった夢の生活…残してくれたこの土地で、僕1人でも成し遂げてみせるよ。
天国で見ているであろう両親に誓い、僕はこの何もない孤島を開拓することにした。
そのためにも、まずはこの島のことを調べないとね。
「おや、ルルーシェちゃん。何か困りごとかい?」
「村長さん、こんにちは。ちょっと教えてほしいことがあるんだけどいい?」
「おお、なんでも聞いておくれ」
早速村に戻って博識の村長に、未開の孤島のことを色々と聞いた。どうやらかつては魔物が多く生息していたらしく、人々が足を踏み入れることのない島らしい。今では魔物の姿は見られないが、大陸からさほど離れてはいないものの、周囲に町や村もなく不便な立地であるために人の手が加わっていないようだ。
「父さんと母さんが買い入れたみたいなんだけど、僕の好きにしちゃって大丈夫かな?」
「ああ、ああ、好きにするといいさ。あそこは誰も近付かんしの」
「そういえば、島の沿岸に古いお城があったんだけど、誰か住んでるの?」
「いんや、あそこはもうずっと長い間無人じゃよ。どれ、ちょっとその土地の権利書を見せてごらん」
老眼鏡をかけて土地の権利書をじっくり眺める村長。
「うむ、その古城までこの権利書には含まれているようじゃ。城も含めてルルーシェちゃんのものじゃよ」
「本当!?じゃあ城をどうしようと僕の勝手ってことだよね?」
「ああそうじゃ。改装しようが増築しようが、ルルーシェちゃんの自由じゃよ」
「ヤッタァ!」
「ほっほ、ところで折角愛らしい女の子なんじゃから、もう少し年頃の女性らしい仕草や服装をしてはどうかのう」
「えーだってもう癖になっちゃってるんだもん」
前世は男だったしね。
ペロリと舌を出して見せると、綺麗に磨かれた窓ガラスにおどけた顔をした少女が映り込んだ。腰ほどまである栗色の髪、赤みがかった茶色の瞳はくりくりと丸くて我ながら大変愛らしい。
僕の様子に、村長はやれやれと肩をすくめた。
さて、これで城を好きにしていいと分かったことだし、まずは土地の整地から取り掛かることにしよう。
そうして村長の言質を取った僕は邪魔な古城を吹き飛ばし、綺麗な更地にしたのであった。
◇◇◇
「流石に広すぎて僕1人で草刈りや伐採してたら、あっという間にお婆ちゃんになっちゃうよね」
古城を片付けた後、続いては草原の草刈りと付近の森の伐採作業に移ることにする。自然は恵みをたくさんもたらしてくれるので、無闇に壊したくはないのだが、住居となる小屋や、田畑を作って食料を確保したい。ある程度の整地は必要だった。
「とりあえず…100体もあれば十分、かな?」
僕は地面に両手をつけて、魔力を注ぎ込んだ。ボコボコっとあちこちで土が盛り上がり、ゴーレムが100体生成された。
「うん、じゃあ君たち草刈りと伐採よろしくね!」
「ゴォォ…」
にこやかに指示すると、ゴーレムたちはギギギと首を縦に振り、各々草むしりや木々の伐採に取り組み始めた。うんうん、とっても素直でいい子たちだ。
「水路も引いておきたいよねぇ。折角だし湧水でも探そうかなぁ」
水魔法で飲料水を確保することはできるが、それでは面白くない。僕はゴーレムたちが整地に励んでくれている間に、逆サイドの山の中へと足を踏み入れた。
「おぉ〜結構木の実や果物がなってるね!うんうん、良きかな良きかな」
道すがら手頃な果実をむしり取っては美味しくいただいた。どれも果汁がたっぷりで大変美味である。植物の知識は一通りあるので食用か否かは一眼で見分けることができる。
これだけ果実が実っているのだ、土地は豊かなようで安心した。リスやウサギ、シカといった小動物もちょくちょく見かける。小さな牧場を作って牛や山羊を育てるのもいいかもしれない。
耳を澄ますと間も無く川のせせらぎの音が聞こえてきた。音を頼りに茂みへ足を踏み入れると、水が一筋チョロチョロと流れているのを見つけた。上流を辿れば水源が見つかるはずだ。
「お、あったあった。へぇ、泉になってるのか…んん?」
深い茂みをすすいと抜けると、開けた場所に泉が湧いていた。ふふふ、飲料水確保だ、とほくそ笑んでいたのだが、泉の側に何やら黒い塊が丸くなっていた。膨らんでは萎んでを繰り返している。呼吸をしているようだ。
僕はその黒い塊に恐る恐る近付いた。
「うわぁお」
近くでよく観察すると、その塊は小さな竜であった。大きさはざっと2メートルほどだろうか。全身大火傷を負っており、皮膚が爛れている。ヒュッヒュッと肩で息をしており、とても苦しそうだ。何か大きな爆発にでも巻き込まれたのだろうか。
「ちょっと待ってて、手当してあげる」
僕が声をかけると、目を閉じていた黒い竜は僅かに目を開けた。が、抵抗する力も残っていないのか、グルルと喉を鳴らすと再び目を閉じた。
「いい子だ。すぐ楽になるよ」
僕は黒い竜に両手を翳すと、治癒魔法をかけた。パァァと温かな光が竜の身体を包み込む。
僕は全部の属性魔法を習得しているので、治癒魔法を使うのも朝飯前だ。光の粒子に包まれた竜は瞬く間に傷が癒えていく。やがて目立った外傷はすっかり綺麗に治ったようだ。
「うん、どうだい?もう痛みはないと思うけど?」
僕が話しかけると、竜は恐る恐る翼を広げて身体の状態を確認した。傷が完治したことを確認した竜は、嬉しそうに目を細めて天に向かって雄叫びを上げた。
「わわっ、さすが竜だね。カッコいい雄叫びだ!」
そして感謝の意を示すように僕に擦り寄ってきた。うん、なかなか可愛い子じゃないか。
「ねぇ、傷は治ったけど数日は安静にしたほうがいいと思うんだ。よかったら僕と一緒に来ない?」
「グルルゥ?」
「まだ家も何もないんだけどね」
あははと笑うと、竜は少し思案した後、のそりと立ち上がり僕の隣に寄り添った。
「お。それは承諾ということだね?これからしばらくよろしく頼むよ」
「グルァ!」
うむ、良き友人ができそうな予感だ。
僕が竜の顎を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らしてくれる。なんとも可愛い子だ。
僕は竜に微笑みかけながら、当初の目的に移る。泉の水を平原まで引きたいのだが…
「うーん、物理的に水路を引くと結構大変そうだしメンテナンスにも手間が掛かりそうだよねぇ」
しばし思案の後、僕は空間移動の魔法陣を泉に施すことにした。指先でちょちょいと術式を組み、泉の中に展開する。これで入り口の完成だ。あとは井戸か貯水湖でも掘ってそこに出口の魔法陣を展開すれば泉と繋がり飲み水が確保できる。
「よーし、じゃあ山を下ろう。君、空は飛べるかい?」
「グルァァ!」
「だよね。それじゃあ着いてきて!」
「グルァ!??」
僕がふわりと宙に浮かぶと、竜はギョッとした顔をしたが、すぐに翼を羽ばたかせて大空へ飛び上がった。僕も同様に飛び上がると、ゴーレムたちが整地している平原まで竜と共に飛んで行った。
空を飛んでいる間、竜は辺りをキョロキョロしていたが、何かを探していたのだろうか。すぐに平原に着いたので、僕はまぁいいかと地面に降り立った。
◇◇◇
「ふむふむ、短い時間でよくここまで整地してくれたね!」
平原に戻ると、100体のゴーレムたちが出迎えてくれた。ゴーレムたちはせっせと草むしりや伐採に励んでくれていたようで、かなり整地が進んでいた。伐採した丸太も綺麗に積まれている。うんうん、せっかくだしこの木で小屋を建てようかな。
「あ、忘れないうちに…」
せっかく泉まで行ったのだ、とりあえず仮の井戸でも掘って魔法陣で繋いでおこう。そう思って地面に手をついた。
「よいしょっ、と」
ぼごん!と少し地面が揺れて3メートルほどの穴が現れた。空間を削り取る要領で地面を削いだのだ。削った地面は僕の後方で土の山になっている。
ひょいっと穴の中に入り、底に魔法陣を施す。宙に浮かんで穴から出てから魔法陣を発動すると、青く淡い光を放ち、魔法陣の中心からゴポポッと綺麗な水が溢れ出した。
「よぉーし!水源確保だ!田畑を作る時に水路のことはまた考えよう」
簡易的な井戸が出来て満足げにしていると、その様子をあんぐりと口を開けて見守っていた竜が耳をピクリと動かして顔を山の方へと向けた。
「グルルルァ!!」
「ん?どうしたの…あれ?」
竜の視線の先を追うと、ふらふらとよろめきながら1人の男がこちらへ向かって来ていた。
「んえぇ?なんでここに人がいるわけ?」
ここは無人の孤島。しかも僕の土地だ。誤って漂流して来たのだろうか。それにしても服は煤けて目も虚だ。なんだか様子がおかしい。
「どうかしましたか?」
僕は警戒をしつつも男の様子を観察した。
綺麗な灰色の少し長めの髪を後頭部でまとめている。目は切長で、おお、金色だ。なんだかいいところのお坊ちゃんって感じ。服装もボロボロになっているがよく見ると貴族が着るような黒地に金の刺繍が施されたフロックコートを身に纏っている。なかなか素敵なお兄さんだ。
お兄さんは、ぼんやりと僕を見た後、傍の竜に視線を移して目を見開いた。
「お前は…
「グルァ!」
お兄さんはもたつく足で竜の元へと駆け寄る。竜もブンブンと太い尻尾を振っている。月影と呼んでいたけど、竜の名前だろうか。このお兄さんとこの竜…月影は知り合いなのか。月影の頭を撫でながら何やら会話している様子だ。
「ああ、そうだったのか…すまない。俺の従者が世話になったようだな…感謝するよ」
「従者…いえ、大したことは。とにかく、水と果実ぐらいしかありませんが休んで行ってください」
ともかく見たところボロボロなので休んでもらったほうがいいだろう。僕は強化魔法で鍛えた腕で、ひょいと丸太を担いで井戸の周りに2つ並べて置いた。
「あ、ああ…ありがとう」
お兄さんは、パンパンと手を叩く僕に頬をひくつかせつつも丸太に腰掛けた。まあそうだよね、12歳の
とりあえずニコリと微笑みかけておく。
僕は木を切り出して作っておいたコップで湧水を汲んでお兄さんに手渡した。あとポシェットに幾つか入れていた森の果実を差し出した。お兄さんはコップと果実を受け取り、躊躇うことなく果実にかぶりついた。
「この実、美味いよね。俺も好きだよ」
「へえ、そうなんだ」
…ふーむ?確かこの実は、この島でしか実らない特別な種類のはず。
と、いうことは…
僕は密かに警戒レベルを上げた。少し探りを入れてみよう。
「ところでお兄さん、随分と服がボロボロだけど何かあったの?この竜も出会った時は傷だらけだったし…」
そう尋ねると、お兄さんは眉を顰めてため息をついた。
「ああ……実は、ずっと住んでいた場所が急に吹き飛んでね…俺も月影もそれで怪我をしてしまったんだ」
「そうなんだ…それは酷い目に遭ったね…」
なんと悲惨な目に遭ったんだ。流石に同情してしまう。
お兄さんもとても悲しそうな顔で少し目にも涙が浮かんでいるようだ。お気の毒に…
「ああ…誰にも迷惑をかけることなくひっそりと暮らしていたのに…どうして…」
「グルル…」
しょんぼり項垂れるお兄さんと月影に僕はかける言葉が見つからなかった。
その時、後方に積み上げられていた丸太の山がぐらりと揺らいだ。バランスを崩した丸太は雪崩のように僕達の方へと転がり落ちてきた。
「危ない!」
僕は咄嗟に結界でお兄さんと月影共々包み込み、丸太を弾き飛ばした。
「ふぅー…怪我はないかい?」
「い、今の結界は……まさか…」
やれやれ危機一髪だ、と額の汗を拭って振り返ると、そこには信じられないものを見たというようなお兄さんと月影の姿が。咄嗟に魔法を使ってしまったので驚かせてしまったかな。
僕が頬を掻いていると、お兄さんは急に真面目な顔をして、徐に僕に向かって手を掲げた。
パァッと紫苑色の光が眼前で弾ける。この光、確か記憶を読む魔法だったはず。ということは、僕の記憶を読んでいるのか?思考までは読めないはずだから、さして問題はないが、相手の記憶を読む魔法はかなりの高位魔法だ。
ーーーこのお兄さん、何者だ?
僕がされるがままに記憶を読まれていると、次第にお兄さんの顔が険しいものになっていった。そして、ゆっくりと手を下ろした直後、ゴッと凄まじい魔力が溢れ出した。
「………………お前だったのか」
「え?」
反射的に臨戦体制を取る僕に、お兄さんは呟くように話しかけてきた。それよりもこの魔力量、尋常じゃない。例えるなら…そう、前世で倒した魔王ぐらい、いやそれ以上?
「……お前が、俺と月影の…大事な住処を、城を吹き飛ばしたのか」
「……ん?」
静かに怒りながらお兄さんが発した言葉に、僕はしばし考え込んだ。
爆発に巻き込まれたかのように火傷だらけだった月影。
服装が煤けてボロボロのお兄さん。
そのお兄さんが静かに暮らしていた住処を吹き飛ばされたと言う。その住処は、城だって…?
「あっ」
僕はこの時ようやく頭の中で全てが繋がった。
「えーーーっと、もしかして…あの古城にお住まいでした?」
あはは、と頭を掻きながら尋ねると、額に青筋を浮かべながら溢れる魔力で髪を靡かせるお兄さんが声を荒げた。
「あの城は、俺と月影の大切な住処だった!!!」
…あ、あっちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
やっちまった〜〜〜〜〜〜〜〜
僕は盛大に頭を抱えた。
いやいやいや?だって、え?誰も住んでないって村長言ってたよね!?まあ?たしかに人は?住んでなかったみたいだけど?なんかとんでもない魔力のお兄さんと竜が1匹住んでたみたいですけど!?っていうか絶対このお兄さん魔族だよね!?
と、とりあえず素直に謝るしかないか。
「えーっと、ご、ごめんなさい?実はこの島は僕が所有者でして…だからあの城をどうにかする権利も僕にありまして…邪魔だったから吹き飛ばしちゃいました。てへ」
「…てへ、ではないだろう!!!」
あああ、ヤバい。怒り浸透って感じ?っていうかさっきから魔力がドンドン溢れてますけど?どうなってるのこの魔力量。
「だ、だって…!誰も住んでないって聞いてたんだもんっ!」
「それはそうだろう!あの城は…あそこは…大魔王である俺の居城だったんだからな!!」
「…え、えぇぇぇえ!?!だだだだっ大魔王ー!?」
なんということでしょう。
軽い気持ちで吹き飛ばした古城が大魔王様のお城だったと?
というか…あっさり大魔王なんてとんでもないことを明かしちゃってますけど、大丈夫なの?
「え、え?待って待って…もしかしなくても大魔王って…この世界のラスボス的存在では?何でそんなものすんごい人がこんなちんけな島で暮らしてるわけ!?」
「問答無用だ!食らえ!!」
お兄さん、もとい大魔王様は理性がぶっ飛んでしまってるようだ。凄まじい魔力を手のひらで圧縮し始めた。キュィィィと高い音を立ててどんどんとその魔力濃度を上げていく。
いやあ、さすがの僕でもこれ食らって無事では済みませんよ。
かくなる上は、こうするしか無い。
「お兄さんに恨みはないけど、大魔王様なら仕方ないよね。ごめんなさい!さようなら!!」
そう言うと、僕は全属性魔法を発動した。
何を隠そう前世で魔王にトドメを刺したとっておきの魔法だ。火、水、土、風、雷、闇、光。全ての属性の力をそれぞれ矢の形に顕現し、四方八方から撃ち込むのだ。回避の隙は与えない。素早くお兄さんの周りを取り囲むように七色の魔法陣を展開する。そしてその魔法陣から各属性の魔力の矢が豪雨のように降り注いだ。
「ぐわぁぁぁぁぁあ!!!」
ドドドドドドドと地面が抉れるほどの威力でお兄さんを攻撃する。憧れのスローライフのためだ、大魔王様との因縁はここで断ち切っておきたい。
やがて矢の雨が収まると、地面はクレーターのように凹み、しゅぅぅと白い煙が立ち上がっていた。
「グルルァァア!!」
月影が慌ててクレーターに飛び込むが、もうお兄さんは跡形もなく消滅してしまっているだろう。ごめんよ、強く生きておくれ。
だが、クレーターの淵をガシッと掴む手があった。
「げほっ…!なんだよ今の魔法は…!!死んでしまったらどうするつもりだったんだ!!」
「おお…今の魔法で無傷なんて、すごい耐久力だね、お兄さん」
なんてこった。僕のとっておきの大魔法を食らってもピンピンしてるだなんて、この世界の大魔王様はとんでもないようた。どうしよう。
「当たり前だろう!俺は大魔王!この世の魔物で一番強くて硬いんだからなっ!」
「ガォォ!!」
お兄さんの叫びに、月影が、そうだそうだ!と言いたげに吠えた。
クレーターから這い出たお兄さんは、さっきよりもボロボロ度合いが増した服を叩きながらゆらりと立ち上がった。
ふるふる肩を震わせて俯いており、どうも様子がおかしい。
「なんで、どうして……俺は、俺は…」
そしてバッと上げたその顔は、口をへの字に曲げて目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
「おっ、俺は…人間だって襲ったことはないし、魔物の軍団を率いてるわけでもない…ただ、この地で静かに月影と共に暮らしていただけなのに…うっ、うっうっ…酷い、こんな仕打ちは酷すぎる」
「えーっと……ごめんなさい?」
そしてとうとう、ふぇーんと泣き崩れてしまった。
「んぇぇ??」
僕は所在を無くした手で、躊躇いながらやんわりとお兄さんの頭を撫でたのだった。
◇◇◇
「…と、いうわけで、僕は今世では悠々自適に自然に囲まれて楽しく暮らすのが夢なんだ」
「…そうか、お前の異常な強さは前世から引き継がれたものだったのか」
スンスン鼻を鳴らしながらようやく落ち着きを取り戻したお兄さんに、僕は前世で魔王を討伐した大魔法使いだったことと、この孤島にやって来た経緯を話していた。
「さて、今度はお兄さんのお話を聞かせてくれる?大魔王なのになんでこんな場所でひっそり暮らしていたの?」
「……俺は、争いが嫌いなんだよ」
「ほえ?」
僕の問いに対し、お兄さんは少し拗ねたような表情で、大魔王にあるまじきことを宣った。
「昔はこの島にもたくさんの魔物が居たし、家臣の魔族だって居た。だが、俺は毎日いつか人間の勇者が城に攻め込んできて討伐されるんじゃないかって恐れていた…大魔王なんて結局は討ち滅ぼされる運命にあるだろう?そんなのはまっぴらごめんだ!俺だって自由にのんびりゆったり暮らしたい」
なんとこのお兄さんは魔力量や耐久力こそ大魔王に相応しいが、中身が全く大魔王らしくなかった。人類に対する害意が全くない。なんならちょっぴりビビりでヘタレである。
それにしても聞いていた通り、昔はここにも魔物がたくさんいたんだな。
「ん?でも今はこの島には魔物がいないよね、どうして?」
「俺が出て行くように頼んだからだ」
「えっ、なんで?」
「人間に見つからないするためにだよ!高位の魔物がワラワラ居たら怪しすぎるだろう!だが、魔物が全く居なければ…誰もこんな辺境の平和な島にこの世界のラスボスの大魔王がいるとは思わないだろう?」
「うん、だから吹き飛ばしちゃったんだけどねえ。もうすこーし住んでる雰囲気醸し出してくれたらよかったのになあ」
「お前…ちっとも悪びれていないだろう…」
おっといけない。また怒らせて暴走されてはたまらない。僕は慌てて両手で口元を押さえた。
「はあ…なんで大魔王なんかに生まれてしまったんだ…ごく普通の人間として農家の子に生まれたかった…」
「グルル…」
しょぼくれるお兄さんを慰めるように月影が擦り寄っている。
「住むところも無くなって、これからどうすればいいんだ…」
「クゥン」
お兄さんと月影は寄り添いながらチラリと僕に視線を投げている。…やだなぁ、やめてよそんな目で見るのは。でも、そもそも僕のせいで路頭に迷わせてるんだし、責任は取るべき?だよねえ…大魔王様なんてどこでも住める訳じゃないだろうしなあ…
「はぁ…分かったよ。お兄さんさえ良ければ、この島で一緒に暮らす?まずは生活拠点の小屋を作って、食糧確保のために田畑を耕して、動物たちを飼う牧場を作って…やることは盛り沢山だから、しっかり働いてもらうけどね」
観念して僕がそう提案すると、お兄さんはパァッと表情を明るくして激しく頷いた。
「ああ、ああ!なんとも楽しそうじゃないか!」
うん。まあ、1人で暮らすよりも苦楽を共に出来る人が居たら、もっと楽しい生活になるよね。相手が大魔王っていうのはちょっと想定外だけど。僕もせっかくの縁なので前向きに捉えることにしよう。
月影の手を取りルンルンと嬉しそうに踊っているお兄さんは、大魔王の威厳の欠片もなかった。
だが、軽快なステップを踏んでいたお兄さんは、はたとその足を止めた。どうしたのかと僕が首を傾げていると、お兄さんの顔からサッと血の気が引いた。自分の肩を抱いてガタガタと身体を震わせている。なになに、なんなの?
「あああ…ど、どうしよう。そういえば、さっき思いっきり高魔力を使ってしまった…きっと王国に魔力探知されてしまって、現地調査の騎士団が編成されてこの島にやってくる…!もうおしまいだ…この世の終わりだ…!」
なるほど、それは怯えるのも仕方がないね。だけど、それはまったりのんびり過ごしたい僕も避けたい事だ。その点は抜かりがない。
「ああ、多分大丈夫だよ?僕も魔法が使えることを秘密にしてるし、変に探知されて探りを入れられるのはまっぴらごめんだから、この島を覆うように秘匿魔法の陣を敷いているからね」
サラリとそう言うと、お兄さんは安心したようなドン引きしているような、なんとも複雑そうな顔をした。失礼じゃない?感謝されるところだと思うんだけど。
「そ、そうか。ならば大丈夫、か?もし勇者なんぞが攻めてきたらと思うと…ああ、恐ろしい」
「大丈夫だよ、もし誰かがお兄さんを倒しに来たら、その時は僕が戦ってあげる」
「……え?」
「お兄さん、極力戦いたくないんでしょ?お兄さんを倒そうとする奴が来たら、ボッコボコに痛めつけて二度とこの地に足を踏み入れられないようにしてあげるよ。そもそもこの島は僕の私有地なんだから、僕の許可なくこの島を踏み荒らすやつは万死に値するしね!」
僕はお兄さんを安心させるようにニッコリ微笑んだ。が、お兄さんは恐ろしいものを見る目で僕を見ている。
「………お、お前の方がよっぽど大魔王らしいんじゃないか?」
おっと、なんと失礼なことを言うのか。心外だ。僕は思わずぷうっと頬を膨らませた。
まあ、ともかく愉快な同居人が出来たということで。
「ああ、そうだ。僕の名前はルルーシェ。お兄さんは?」
「…ゼノンだ」
「そう、ゼノン、これからよろしくね」
嬉しそうに優しい笑みを浮かべるゼノンと僕は握手を交わした。もちろん、月影ともね。
色々と想定外のことが起こったけど、2人と1匹で楽しいスローライフのスタートだ。
……まあ、王国から土地の調査団や、方向音痴で空気の読めない勇者、それにゼノンの元家臣とか、結局いろーんな来訪者がやって来るんだけど、うまいこと退けるのは僕の役目ってことで。
僕たちの楽しい生活を壊すものは許さないからね。そこのところ、よろしく頼むよ。
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