第7話 夏(4)
突き抜けた青天と入道雲。振り続ける蝉の声。
日差しが強すぎて、風景には派手なコントラストがついている。
向こうの方で、光夫が待っている。足元には、真っ黒な影を引き連れている。
遠くから見ると、夏の景色をバックにして、僕らは影絵のように見えているんじゃないだろうか。そんな想像をして、僕は少し面白くなる。
「遅くなった」
そう言って手を上げると、光夫も手を振り返す。今日はこれから、僕らの母さんを探す約束なのだ。
「いやいや、全然待ってないって」
変わらず爽やかに彼は言う。僕はそのはにかんだような顔を見つめる。
「それでも、悪かったな、ミッツ」
一瞬彼はぽかんとして、それから笑い出した。
「ミッツって。そういえば、兄貴はときどきそうやって俺のこと呼んでたね。あれって、もともと母さんがそうやって呼んでたんだっけ?」
「確かそう。ミッツ。呼びやすいじゃん」
「いいね、ミッツ。気に入った」
肩の辺りを小突き合って、僕らは進みだす。
夏の中を歩いていく。
夏と針金 葉島航 @hajima
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