はだかのじいさん

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおねえさんがいました。正直者のおじいさんは、自分の心にうそをつけかったので、おかねをものをいわせて、五十歳も年下のおねえさんをおよめさんにしたいと思いました。

 いっぽう、正直者のおねえさんも、おかねもちのじじいのおよめさんになって、じじいが死んだら、遺産をひとり占めしようとたくらんでいました。

 利害が一致したふたりは、結婚しました。

 結婚式のあと、ふたりは、おじいさんが所有するジェット機でワイハに行きました。ホノルル空港についたふたりは、そこでおじいさんが所有するヘリコプターに乗りかえて、最高級のリゾートホテルの駐機場におりて、ホテルの最上階にある最高グレードのスイートルームに入室しました。

 おじいさんは言いました。

「きみがわたしの遺産をねらっているのは分かっている。だが、形だけとはいえ、わたしたちは夫婦めおとだ。新婚夫婦がハネムーン先で何をするかは、分かっているな?」

 おねえさんは、こくりとうなずきました。

「よし。では、さっそく、シャワーを浴びよう。まずは、わたしから……」

 そう言うと、おじいさんは、着ていた上着を脱ごうとしました。

 すると、おねえさんも、自分のドレスの背中のファスナーに手をのばしました。

「きみは、まだ、脱がなくていい」

 おじいさんがそう言うと、おねえさんは、頭を左右に振りました。

「いいえ、わたしも脱ぎます。それとも、だんなさまは、わたしがドレスを着たまま、いたしたいのですか?」

「うむ、それも、わるくないな。って、そうではなくてだな、長旅で汗をかいて、とくに、わたしは、かれいしゅうも出ているから、まずは、順番にシャワーを浴びようと言っているのだよ。きみは、わたしがシャワーを浴びたあとで、浴びればいい」

 おじいさんは、自分がシャワーを浴びているあいだに、おねえさんが部屋から抜けだして、ホテルのフロントにかけ込み、「としよりのじじいにむりやり結婚させられて、日本からここまで連れてこられたから、弁護士を呼んでほしい」と訴え出るのではないかと疑っていました。でも、ほんの一時いっときでも、五十歳も若いおねえさんと結婚式を挙げて、おなじひこうきでワイハまで旅をして、ホテルにチェックインして、たった数分でも、おなじ部屋でふたりきりになれただけで、おじいさんは、もうじゅうぶんに満足だったのです。

 いっぽう、おねえさんも、当初は遺産が目的だったとはいえ、おじいさんとふたりで高級料亭や三ツ星レストランなどで食事をしたり、世界中の高級リゾート地でデートを重ねるうちに、おじいさんの紳士的なふるまいに感動し、せっかく夫婦になったからには、この老紳士と新婚初夜の儀式をしてみたいと思いはじめていたのです。

 じつは、おねえさんは、男の人とふたりきりでおなじ部屋に入ることも、はじめてだったのです。

「わたし、はじめてなの」

「え?」

 おじいさんは、おどろきました。

 おじいさんは、内心、「としよりの遺産をねらって結婚するような女だから、どうせ、何人もの男をもてあそんできたにちがいない」と思っていたのです。

「きみ、こんなとしよりがはじめてで、いいのか?」

 正直者のおじいさんは、率直な気持ちを口にしました。

「もっと若い男のほうが、よくないか?」

 おねえさんは、ふたたび、頭を左右に振りました。

「いいえ、だんなさまのような、やさしくて親切なかたと、いたしたいです」

 おねえさんの言葉を聞いて、正直者のおじいさんのムスコは、正直な反応をしました。

「よ、よし。では、いっしょに、シャワーを浴びよう」

 おねえさんは、ほっぺを赤くして、こくりとうなずきました。

「あっ、ちょっと待って」

 おじいさんは、ムスコに話しかけます。

「おい、ムスコ。ちょっと、おとなしくしてくれ」

 そのようすを見て、おねえさんは、くすくすと笑い出しました。

「何がおかしい?」

「だって、だんなさまのズボンが、もっこりふくらんでいるんですもの」

「そりゃ、きみが、とても魅力的だから……」

「まあ! おせじでも、うれしいですわ」

「おせじなものか。わたしは自他ともにみとめる正直者。わたしの言葉は、すべて、本音だよ」

 ふたりは、おたがいに顔を見合わせ、ふたりいっしょに、にっこりほほえみました。

「では、いっしょに脱ごうか」

「いいえ。わたしは、だんなさまに脱がせてもらいたいです。そして、そのあと、だんなさまの服は、わたしが脱がせてさしあげます」

「それは、願ってもない提案。よし。で、では、まず、わたしが、きみの、ふ、服を……いかん、鼻血が出そう」

 おじいさんは、上を向いて、首のうしろをとんとんとたたきました。

 しょうわの鼻血予防法です。

 おじいさんは、おねえさんの背中がわに回り込んで、ふるえる手で、ドレスの背中にあるファスナーをゆっくり下ろします。すると、おねえさんの白い背中があらわになりました。

「おぉ、きれいな肌」

「わたしの背中は、だんなさまのものです」

 つづいて、おじいさんは、おねえさんのドレスを下にゆっくり下ろします。すると、おねえさんの白くてほそい腕と、おなじく、白くてほそい脚があらわになりました。

「おぉ、なんとうつくしい、腕と脚」

「わたしの腕と脚も、だんなさまのもの」

 さらに、おじいさんは、おねえさんのぶらじゃーのホックに手をかけました。

 ハラリ。

 ぶらじゃーが、はずれました。

 おじいさんは、おねえさんの前に回り込みます。

「おぉ、なんとうつくしくて、ゆたかな、ぱいおつ」

「わたしのぱいおつも、だんなさまのもの」

 さあ、いよいよ、ぱんちーです。

 おじいさんは、ふたたび、おねえさんのうしろに回り込みました。そして、おねえさんのぱんちーの横のひもをほどきます。

 はらり。

「うほーっ、なんと、うつくしく、えろちっくな、ひっぷ」

「わたしのひっぷも、だんなさまのもの」

 おじいさんは、全身をふるわせながら、おねえさんの前に回り込みました。

「……なんだ、これは?」

「わたしのムスコも、だんなさまのモノ」

 おじいさんは、言いました。

「帰れ」

「いいえ、帰りません。だんなさまのはだかを見るまでは、だんじて、帰るわけにはいきません。さあ、だんなさま。こんどは、わたしが、だんなさまを服を脱がせる番です」

 おねえさんは、そそりたつムスコをヒクヒクさせながら、仁王立ち。

「ごしょうだから、かんにんしてくれ」

 おじいさんは、土下座をして、ゆるしを乞います。

 でも、おねえさんは、ゆるしてはくれません。

「だんなさま。わたしに服を脱がされるか、ご自分でお脱ぎになるか、お好きなほうをえらんでください」

 おじいさんは、観念して、自分で脱ぐほうをえらびました。

「で、では、脱ぐぞ」

「どうぞ」

「では、まず、上から」

 おじいさんは、タキシードの上着を脱ぎました。

「まあ、たくましい胸板」

 おじいさんは、黙ったまま、ベストを脱ぎます。

「いさぎよい脱ぎっぷり」

 つづいて、シャツ。

「お歳ににあわず、筋肉質ですわ」

 さらに、スラックス。

「まぁ、脚も、筋肉質」

 靴下。

「うふふ」

 そして、おぱんつ。

「おほほ。ごりっぱですわ」

 なぜかは分かりませんが、おじいさんのムスコは、おねえさんのソレとおなじように、いや、おねえさんのムスコ以上に、たくましい姿をしていました。

 おじいさんは、耳をまっかにして、自分のムスコをじっとながめたあと、おねえさんの目を見て、こう言いました。

「正直、わたしは、そのケはまったくないのだが、しかし、きみとすごした半年間、とてもしあわせだった。もし、きみが望むなら、これからも、友人として、きみとつきあっていきたい。そして、わたしが死んだあと、わたしの遺産は、すべて、きみにあげようと思う。どうだ、もらってくれるか?」

 おねえさんは、おじいさんの意外な申し出に、おどろきました。

「そんな……。わたしは、ずっと、だんなさまをだましていたのです。そんなわたしに、だんなさまの遺産を受けとる資格はありません」

「いいんだ。きみほど、わたしをよろこばせてくれた人はいない。だから、きみに、遺産を受けとってもらいたいんだ。それと、もうひとつ。もし、きみが……いや、そうじゃない。わたしが、きみにおねがいしたいことがある。わたしは、きみが好きだ。男か女か、それ以外かは関係なく、きみという人間が好きなんだ。だから、きみと、どういうやりかたかは分からないが、できれば、きみと、きみが望むやりかたで、むすばれたい。きみと、ひとつになりたいんだ」

 おねえさんは、正直者のおじいさんの言葉を聞いて、目になみだをうかべました。そして、自分のこかんに手をのばして、自分のムスコを握りしめ、ムスコをポンと引っこ抜きました。

 いいえ。それは、おねえさんのムスコではなく、ほんものそっくりのイミテーション。

 おねえさんは、しょうしんしょうめい、ほんものの、おねえさんだったのです。

 おじいさんは、びっくりぎょうてん。

「き、きみ、おんなのこだったのか?」

「そうです。わたしは、生物学的にも、戸籍の上でも、おんなのこです。そして、いまは、だんなさまの妻です」

「あはは。だいじょうぶ。まだ正式には入籍していないよ。ちょっと待っていなさい。フロントに電話して、べつの部屋をとろう。わたしは、あした、帰国する。きみはワイハにのこって、好きなだけたのしみなさい。旅費のしんぱいはしなくていい。すべてわたしが払うから。当座のこづかいとして、ここに五千ドルおいておくよ。足りなかったら、このカードを使いなさい。きみの名義の口座に百万ドル入金してある。日本円で一億ちょっと。むだづかいしなければ、十年ぐらいは不自由なく食べていけるだろう。贈与税は別枠で払ってあげるから、あんしんしなさい。じゃ、まず、服を着ないとな。さきにフロントに電話したら、ベルボーイとはだかでご対面することになる」

「だんなさま。いっしょにシャワーを浴びましょう。そして、シャワーのあとは、だんなさまのお好きなように……いいえ、わたしたちふたりがのぞむような、すてきなことを、いたしましょう」

「は?」

 おじいさんは、頭がこんらんしました。

「べつに、むりしなくていいんだよ。きみはまだ若いんだから、はじめてのアレは、きみにふさわしい若い男と、いたせばいい」

「いいえ。わたしは、だんなさまと、いたしたいのです」

「おいおい。ほんとにほんとに、まじで、いいのか?」

「もちろんです。わたしは、だんなさまの誠実さに、心底、ほれたのです。だから、日本にかえったら、役所に行って、婚姻届に署名捺印して、だんなさまの正式な妻になって、だんなさまの赤ちゃんをうみたいのです。そして、だんなさまとわたしの赤ちゃんが、りっぱにそだつまで、ふたりでいっしょに見とどけたいのです。ですから、だんなさま。きっと長生きしてくださいね」

 おじいさんは、おねえさんの手をとり、シャワールームにいざないました。そして、シャワーのあと、ふたりは、おおきくてふかふかなベッドの上で、くんずほぐれつしたのでした。

 めでたし、めでたし。

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