はだかのおれさま

 わが国に、コスプレが大好きなおれさまがいました。おれさまは、変わったコスプレ衣装を買うために、バイトで稼いだお金を全て注ぎ込み、コスプレイベントでは、一時間ごとに衣装を着替えて、コスプレ仲間に自慢するのでした。

 わが国に、二人の男がやってきました。

「私たちは、究極のコスプレ衣装を作ります。驚くなかれ、私たちが作ったコスプレ衣装は、真のコスプレマニアには見えないのです」

「え、それ、どういうこと?」

 おれさまは頭が混乱しました。

 男たちは言いました。

「要するに、真のコスプレマニアか、そうでないかを見分けるための、いわば、リトマス試験紙のようなコスプレ衣装です」

 おれさまは、ますます困惑します。

「ちょっと何言ってるか分かりませんが?」

「早い話が、コスプレ会場に集うコスプレマニアが、真のコスプレマニアか、偽物のエセマニアかを見分けるためのコスプレ衣装なのです」

「何が何だか、さっぱり分からん。ところで、きみら、何で、二人とも、はだかなんだ?」

「はだかではありません。二人とも、究極のコスプレ衣装を着ています」

「あっ、なるほど、そういうことね。なら、要らねえや」

「そうおっしゃらず、試しに、一着だけでも、いかが?」

「要らねえって」

「私たちは、この衣装で、この国に入国し、電車やバスを乗り継いでホテルにチェックインして、ホテルのラウンジで食事して、今朝、ホテルを出て、ここまで歩いてくるまで、誰にも一度も咎められなかったんですよ?」

「だから?」

「道中、真のコスプレマニアが一人でもいたら、『はだかの不審者がうろついている』と、警察に通報されていたはずです」

「だから?」

「真のコスプレマニアには見えないのに、それ以外のふつうの人には見えるコスプレ衣装って、すごくないですか?」

「きみらのその発想が全く理解できん。てか、早くその粗末なモノを隠せ」

「いえ、ご懸念には及びません。私たちは真のコスプレマニアではありませんから」

「何が『ご懸念には及びません』だよ? おれさまには、バッチリクッキリ見えてんだよ!」

「それは、あなたが、真のコスプレマニアだからです」

「いや、だから、きみらは、いったい、何がしたいんだ? きみらの目的は何だ? ああん?」

「真のコスプレマニアか、そうではないかを一目で見分けられる衣装があったら、嬉しくないですか?」

「別に?」

「え? だって、全てのコスプレマニアに、この究極のコスプレ衣装の着用を義務づけ、真のコスプレマニアとエセコスプレマニアを峻別した上で、エセコスプレマニアを排除すれば、真正コスプレマニア限定の、究極のコスプレ大会の開催が可能になるという、画期的なアイテムなんですよ? どうです? すごいでしょう? はい」

「こらこら。どこぞの通販番組のMCみたいに、自分の発言に自分で同意するのはやめたまえ。てか、何で、わざわざ、コスプレマニアの分断を招くようなことをしなくちゃならんのだ? ライトな層も、ディープなマニアも、みんな仲良く楽しめばいいじゃないか」

「甘いっ! あなた、それでも、真のコスプレマニアですか?」

「あのなぁ、考えてもみろよ。真のコスプレマニアが、全員、その究極のコスプレ衣装とやらを着たら、真のコスプレマニアたちが、おたがいのはだかを見せ合うイベントになっちまうだろ? そんなもん、コスプレイベントじゃなくて、ただのヌーディスト大会じゃねえか!」

「真のコスプレマニア以外のふつうの人は、ステキなコスプレ衣装を堪能し、真のコスプレマニアは、中身の品定めができるという、画期的な……」

「そんなシュールな衣装は要らねえから、とっとと帰れ!」

「仕方ありません。今回は、特別に、究極のコスプレ衣装を、一着、無料で進呈しましょう。いいですか? 今回だけですよ? 次からは有料ですからね?」

 そう言うと、二人の男たちの一人がおれさまを羽交い締めにし、もう一人がおれさまが着ていたバニーガールのコスプレ衣装を脱がせて、持ってきたトランクを広げて、中から何かを取り出すそぶりをして、おれさまに衣装を着せるような所作──おれさまには何も見えず、生地の感触も全く感じず、単に衣装を着せるふりをしただけとしか思えない──をして、

「はい、可愛いメイドさんの出来上がり!」

 と言い残し、そそくさと退散してしまいました。

 一人残されたおれさまは、あっけにとられて、茫然自失。

 その後、

「チ〇コ丸見えじゃねえか」

 とつぶやくと、ふらふらと玄関まで歩き出し、玄関のドアを開けて、あたりを見回し、周囲にひとけがないことを確認すると、表に出て、家の周辺を徘徊。

 五分後、通報を受けた警察官がおれさまの身柄を確保し、全裸のおれさまは、猥褻物陳列罪で現行犯逮捕されましたとさ。

 めでたし、めでたし。

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