第45話 完全に彼女たちを意識しちゃってます……。
——明くる日の朝。
普段より早く起きた俺が
コーヒーの良い香りに眠気が覚めていく。
「おはよう。よく眠れた?」
「エリカはどうだ? よく眠れたか?」
「質問に質問で返すんじゃないわよ」
そう言いながらエリカが俺にマグカップを押しつけてくる。受け取って一口飲めば、少し眠気が消えた。
「カフェインって凄いな。もう目が冴えてきたぞ?」
「何それ。ユキってば子どもみたい。可愛い過ぎでしょ」
「か、可愛いとか言うなよ、バカ」
「あれ? ユキが照れてるー。珍しいー」
エリカが楽しそうにケラケラと笑う。持っていたマグカップからコーヒーがちゃぷんちゃぷんと溢れ出していた。
「って、おい。溢れてんぞ?」
「あっ! も〜っ。ユキが笑わせるから」
エリカは通常運転だ。もちろん俺は通常運転じゃない。完全にエリカを意識してしまっている。
たぶんアヤ姉やヒナに会っても同じように意識してしまうんだろう。
(いかんな……。平常心、平常心……)
と思ったそばから俺はさらに正気を失った。
目の前でしゃがみ込んだエリカが床に溢したコーヒーを雑巾で拭いているのだが、胸元が……。
胸元がっ!
(いや、何を凝視してんだ。俺! 見ちゃいかんだろ!)
そう思えば思うほど目が吸い込まれていく。そんな訳がないと思っていたが、やっぱり俺はスケベなんだろうか……。
こういう時、自分の欲望に素直なPが羨ましく思える。アイツなら罪悪感ひとつなく、何食わぬ顔でガン見するんだろう。
「おはようございます。お二人とも早いですね」
「み、み、見てないぞ!? 見てたわけじゃない!」
いきなり弥生がリビングに現れたもんだから少し焦って弁解してしまった……。
「はぁ……? 何を見てないんですか?」
この様子だと弥生は俺がエリカの胸元を覗き見していたことに気がついていなかったみたいだ。俺ってば無駄に空回りしている。
「な、なんでもない。気にしないでくれ。なんか今日は早く起きちまってよ。昨日、全然寝れなかったのに不思議だよな〜」
慌てて話を逸らしたものの、顔を曇らせる弥生を見るに、上手く誤魔化せてはいないみたいだ。
「……もしかして、ユキさんが眠れなかったのは私のせいでしょうか?」
顔を曇らせた原因はそっちか。
もちろん昨晩、弥生のことを考えなかったわけじゃない。それはそれで考えた。眠れなかったのは、そのせいでもある。
でも、そんなことを素直に伝えたら弥生が落ち込んぢまうじゃないか。
「違うって。弥生のせいじゃない。弥生は何も悪くない。全部、阿呆オヤジのせいだ」
「……でしたら、いいのですが」
話がひと段落ついたところで、俺は何者かに服を引っ張られる感触を覚えた。
振り返ればエリカの顔が目の前に……。
「ねぇねぇ、ユキ。朝、なに食べたい? 今日は私が用意するわよ?」
引っ張っていたのはエリカだ。自分を見て欲しい、と言わんばかりに俺の服を引っ張り、顔を近づけてきている。
(顔が近い。近すぎる。絶対、俺、今、顔真っ赤。…。落ち着け、俺。平常心だ。普通に話すんだ)
「エ、エリカが作んのか? 母さんかアヤ姉に任せておけよ」
こう言っちゃ何だが、エリカに作らせるのはかなり不安だ。一人で料理を完成させたところなんて見たことがない。母さんのフォローがなければ失敗するに決まっている。
「では、私が作りましょうか? アヤカさんたちに任せきりと言うのも申し訳ありませんし」
「いやいや、私が作るわよ。弥生は別荘を提供してるわけだから何もしなくて良いのよ?」
「いえいえいえ、ここは父の別荘であって私の所有ではありません。ですから、私は何も提供していないも同然です。というわけで、ユキさんの朝食は私が作るべきでしょう」
「いやいやいやいや、弥生は私のユキに勉強を教えてくれてるじゃないの。これ以上、弥生に何かしてもらうわけにはいかないわよ〜」
「いえいえいえいえいえ、エリカさんは私のユキさんにコーヒーを淹れてくれたではないですか〜。ですから朝食は私が」
「いいって! 私が作るから!」
「私が作りますって! エリカさんはゆっくりなさっていてください!」
朝っぱらから、また始まった……。
でも、この言い争いはそもそも俺が原因だ。
だったら、俺が止めなきゃいけない。
「なぁ、二人とも。頼むからケンカしないでくれよ」
「「ユキ(さん)は黙ってて(ください)!!」」
(え〜〜〜っ。なんで俺が怒鳴られるの?)
抜け駆け禁止のヤンデレ協定〜いや、どう考えてもウチの三姉妹たちは俺を独り占めしようと企んでいます 九夏なごむ @diren
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