第40話 アヤ姉は俺のことを大切に思ってくれています……。

※引き続き過去のお話です。


「アヤ姉。大切な話があるんだけど、あとで俺の部屋に来てくれない?」


 夕飯の後、俺はアヤ姉にコッソリとそう告げた。


 三姉妹に秘密を打ち明けよう。悩み抜いた末に俺はそう決めた。


「ついにこの日が来たのね……。わかったわ。お風呂に入って、しっかり身を清めてから行くね。ユキくんは。下着、何色が良い?」

「下着?」

「そう、下着。私がつけていく下着。やっぱり白がいいかな? それとも青? 実は赤もあるよ? ハデ過ぎるかなって思って、まだ一回も履いたことはないんだけど」


 なぜ俺にそんなことを聞くんだ……?


「……いや、好きにすれば」

「ダメ。ユキくんに決めて欲しい。大事なことだから」


 そんなもん自分で決めればいいのに……。


「じゃあ、赤にすれば? せっかく買ったんなら、たまには履いてやりなよ」

「……ユキくんのエッチ。でも、いいよ。つけてく」

「……俺がエッチ? エッチって何? 何でそうなんの?」

「じゃあ、お風呂に入ってくるから部屋で待ってて」


 アヤ姉は俺にスケベの烙印らくいんを押すと、そそくさとお風呂に向かっていった。


(決めろと言われたからテキトーに選んだだけなのに……。なんか納得いかん)


 そして、一時間以上の時が過ぎ、いつまで風呂に入ってんだよ、と俺がイラつき始めた頃、自室のドアがノックされた。


「どうぞ〜」

「お待たせ。……やっぱり緊張するね」


 そう言ってアヤ姉がベッドに腰を下ろす。近くで話した方が良いと思い、俺もベッドに腰を掛ければ、わざわざアヤ姉が座り直して、体が密着するほど接近してきた。


「距離が近いな……。まぁ、いいや。で、話なんだけど……」


「……うん」


「すごく悩んでさぁ。正直、アヤ姉に伝えるのが正しいことなのか、わかんないんだけど、でも、これ以上、一人で悩むのも辛くって。こんな思いするなら……。いや、なんか本題に入る前に愚痴っちまったな。ゴメン」

「いいんだよ。実を言うとね。私も悩んだからユキくんの気持ちわかるよ。誰にも言えなくてツラかったよね?」


 この口振り……。そうか、アヤ姉もオヤジか母さんから真実を伝えられていたのか。


「アヤ姉……知ってたんだな」


「うん。気づいてたよ、ユキくんの気持ちに。何も言わなくたってわかるよ? 私はユキくんのお姉ちゃんだもん」


「……アヤ姉」


「もう悩まなくて良いんだよ? ユキくん」


 血が繋がっていようが、いまいが、俺たちは家族。

 アヤ姉の優しい言葉から、それが伝わってくる。


(まったく……俺は何をグチグチと悩んでいたんだか。血なんて別にどうだっていいじゃねぇか!)


「元気出てきたわ! 話、聞いてくれてありがとう! よし! 俺も風呂入って、さっさと今日は寝るか〜。いや、悩んでたから、ずっと寝不足でさぁ」

「え? これで終わりなの? 肝心なこと何もしてないよ?」

「いや、もう十分だ。アヤ姉のお陰で悩む必要なんてないってわかったしな」

「悩む必要ないっていうのは、たしかにそうなんだけど……。せめてキスくらいしないの?」


 まぁ、たしかに海外では挨拶がてら家族にキスしたりするらしいが、ここは日本だ。

 そして、俺は日本男児。ホイホイ、キスするわけにはいかない。


「なーに言ってんだよ。欧米か」

「欧米……?」

「ほら、アヤ姉も早く自分の部屋に戻った方がいいぞ? なぜか知らんが、俺の部屋に出入りするとエリカとヒナがうるさいだろ?」

「え? ホントにもう終わり? お姉ちゃん、すごく不完全燃焼なんだけど……」

「あー。ほら、ほら。エリカたちに勘づかれる前に帰った、帰った」


 そう言いながら無理やり部屋の外に押し出して、ドアを閉めたんだが、アヤ姉がドンドンとドアを叩き続けている。


「ちょっと待って! せめてホッペでいいからキスして! 証をちょーだい! 愛の証を!」

「悪いが、そういうことはしない主義だ。俺は日本男児なんでな」

「なんかモヤモヤするよ〜。切ないよ〜」

「そういう時はぐっすり眠るといい。寝ればスッキリするぞー」


 こうしてアヤ姉のお陰で俺は吹っ切れた。


 しばらく経ってから俺とアヤ姉の話が噛み合っていなかったことで面倒くさい事態に陥るのだが、それはまた別の話だ。

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