第39話 帰ってきました……。
玄関のカギがカチャカチャと動いていた。どうやら業を煮やしたストーカーが外側からピッキングを始めたらしい。
そして、ストーカーは
(このストーカーめっ! この度過ぎた重さの結婚情報誌でドタマかち割ってやらーーーーーーーーっ!)
ゼク○ィを振りかぶろうとした瞬間、俺の手が止まる。ドアを開けて侵入してきたのは、この場に来るなんて全く想像していなかった人物だった……。
「ただいま〜。今、帰ったぞー」
無精髭を生やし、くたびれたグレーのスーツを着た男。何を考えているんだかわからないニヤケヅラのふざけた中年。
玄関から入ってきたのは、失踪中のオヤジだった。
「オ……オヤジ! なんでここに……」
「おう、幸村! 久しぶりだな。見ないうちに大きくなったじゃないかー」
「いやいや、『ただいまー』じゃねぇよ! ここはオヤジの家じゃねぇだろが!」
オヤジの奴、自分の家には、ろくすっぽ帰ってこないくせに、なぜか
◇◆◇◆◇◆◇◆
※ここからは過去のお話になります。
——俺は三姉妹たちと血が繋がっている。
……らしい。
この
その日、俺はオヤジにラブレターみたいな手紙で、町外れの空き地へと呼び出されていた。
ちなみに、この時はまだ三姉妹たちが俺を男として見ているなんて知りもしなかった。
「何なんだよ、オヤジ。『幸村くんに伝えたいことがあります。町外れの空き地で待ってます(ハート)。親父より』じゃねぇよ。気持ち悪い」
「まぁ、そう怒るな。本当に伝えたいことがあるんだ。ところで、幸村。俺の手紙、どうだった? ラブレターみたいで実は少しドキドキしただろ?」
「するわけねぇだろが! イタズラなら俺は帰るぞ!?」
「待て待て待て! 冗談冗談! 一旦、落ち着こ? ね?」
「はぁ……。ったく! 何なんだよ。家にはロクに帰って来ないし。たまに顔を合わせりゃ、これだよ……」
俺のオヤジは放蕩息子ならぬ放浪親父で、あっちにふらふら、こっちにふらふら、やる事なす事、ホントどうしようもないダメ人間だ。
それでも、キチンと家にお金だけは入れているから、父親として最低限の義務は果たしていると言えるのかもしれない。
まぁ、オヤジの職業すら俺は知らないんだけど……。
「そう怒るな。……で、俺の話は置いておいてだな。時間がないから要件だけ手短に言わせてもらう」
そう言うとオヤジはキョロキョロと辺りを見回し始めた。まるで何かに追われているみたいだ。
(またふざけているのか? いや、阿呆オヤジのことだから、借金取りに追われていても不思議じゃない……)
「なに? もしかして追われてんの?」
「ザッツライト。現在、俺は追われる身……。なんか映画みたいでカッコいいだろ?」
全然カッコよくない。ただの挙動不審なおっさんだ。
「……そういうのはいいから、早く要件を言えって。時間ないんだろ?」
「そうだったな! いや、すまん、すまん。それで、実はだな——」
親父は、そこで咳払いを一つ。いつにもなく真剣な面持ちで俺の瞳を見据えた。
……そして、ふざけたオヤジのふざけた口からふざけた話が飛び出した。
「——今まで黙っていたが……お前は姉妹たちと血が繋がっているんだ」
突拍子もないオヤジの告白に、しばし絶句。
「ど、どういうことだよ!?」
やっと口を突いて出たのは、そんなありきたりなセリフ。
「言葉通りの意味だ。真剣に悩みなさい」
「言葉通りって……。てことは、俺はオヤジと血が繋がってないって話か? それともアヤ姉たちの方がオヤジと血が繋がってんのか? ていうか、俺とエリカって……双子? あれ? でも、誕生日が違うよな……」
俺が頭を悩ませる中、オヤジは無言のまま、なぜか懐からスマホを取り出し、そして、メールか何かを確認すると懐にスマホを戻した。
「すまんが時間切れだ。俺はもう行く。娘たちと母さんは任せたぞ。お前が家族を守るんだ」
「え? それはいいけどよ。別にオヤジに言われなくても守るよ。そんなことより——」
答えを聞くや否や、いきなり親父が脱兎の如く走り出す。
(おっさんのくせにメッチャ早い!!)
「幸村ーっ! ちゃんと守るんだぞー!」
「ちょ、待てよ! 待ってくれ! せめて事情くらい説明していってくれ! オヤジー? ちょっとオヤジーっ? …………オヤジーーーーっ!!」
こうしてオヤジは失踪した……。
ちなみに、その後も毎月キチンと母さんの口座に俺たちの生活費は振り込まれている……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
あの日から、思春期真っ盛りの俺は『実は三姉妹と血縁関係あり』という重大な秘密を誰にも打ち明けられずに、ひたすら
これまでの家族関係が崩れていくような漠然とした不安を感じていた。
「母さんに聞いてみるか……?」
母さんなら事情を全て把握しているはずだ。だが、どう考えてもドロドロの昼ドラみたいな話を聞かされるに決まってる。
「ダメだ……。そんな話、聞けない。せっかく時間をかけてホントの家族になれたってのに、そんな話、聞かされちまったら——」
——たぶん俺と母さんの間に溝が出来てしまう。それに、母さんだって、そんな話を息子にしたくないはずだ。
「……やっぱ母さんに聞くわけにはいかねぇよな」
そうして、あれこれと一年ほど悩み続けて限界に達した俺は、ついに、ある決意を固めた。
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