第38話 エリカと弥生が仲良くなっている気がします……。
※幸村視点に戻ります。
エリカと弥生の声が別荘の外から聞こえた気がした。窓を開けてみれば、大慌てでコチラに向かってくる二人の姿が目に入る。
「おーい。二人とも、そんなに慌てて、どしたー?」
「熊さーんっ!」
「なに? 熊さんがどうしたー?」
「出たのよ! 熊さんがーっ!」
マジかよ……。いや、たぶんマジだ。暗くて姿はハッキリと見えないが、たしかにエリカたちの後を何かが追いかけてきている。
慌てて武器になりそうなものを手に取り、玄関に向かえば、ちょうど二人が別荘の中に飛び込んできた。
「ユキーっ!」
「ユキさーんっ!」
俺に抱きついてきた二人は目を真っ赤に腫らしている。きっと熊さんへの恐怖心から泣いてしまったんだろう。
(エリカは案外すぐに泣くからアレとして、滅多に涙を見せない弥生まで泣かせるなんて、熊さん、許すまじっ!)
「お前ら。母さんたちを連れて逃げろ。ここは俺が引き受ける」
「ダメよ! 一緒に逃げないと!」
「そうですよ。相手が熊さんでは勝ち目なんてありません」
二人が俺を別荘の奥へ奥へと押し込もうとしているが、腰を落として、なんとかその場に踏み留まる。
「誰かが残って足止めしなきゃならん。俺のことはいいから早く逃げろ」
「イヤよ! ユキを置いて逃げられるわけないじゃない!」
「そうですよ。早く逃げましょう」
二人とも俺を置いて逃げるつもりはないようで、思い切り押してくるんだが、さっきからエリカの肩が俺の肋骨の
力を入れていないとヘシ折られそうだ。
(さっきもそうだったけど、コイツは俺の肋骨に、なんぞ恨みでもあるのか?)
「ちょっと待て。一回、押すのやめてくれないか? 痛いって」
そうこうしているうちに、玄関のドアノブがガチャガチャと動き出した。
ついに熊さんが来てしまったようだが、弥生がキチンとカギを掛けたため、今のところドアを開かれる心配はない。
「あれー? もしかしてカギ掛けちゃった? 誰か開けてくれー!」
……どうやら外にいる熊さんは人語を話すタイプらしい。
「って、そんなわけないわな……」
どう考えても、外にいるのは熊さんじゃなくて人間だ。それも、声からして中年の男。
(なんだよ、ビビらせやがって……。まぁ、他人の家に入ってこようとする中年男性も、それはそれで怖いんだが……)
「ねぇ、ユキ。熊さんは日本語がわかるみたいだし、これって、もしかしてキチンと説明すれば帰ってもらえるんじゃない?」
そりゃ穏便に済ますことが出来るのなら、それに越したことはないんだが……。
「ちぃと聞きたいんだが、お前はホントに熊さんが喋ってると思ってんのか?」
「なに言ってんの?? 現に今、喋ってるじゃないのよ」
「エリカの頭ん中って結構メルヘンなんだな。お前がそんなに可愛い奴だなんて俺は知らなかったよ」
「か、か、か、可愛いだなんて! も〜、ユキってば、こんな時に、なに言ってんのよ〜。弥生も聞いてたわよね? ユキが私のこと超可愛いだってさ〜///」
なんかエリカが顔を赤らめてデレデレしているけど、別に褒めたつもりはない。どちらかと言えば
「喜んでいるところ申し訳ないんですが、そういう意味ではないと思いますよ? 『超』可愛いとも言ってませんし」
「あれ? 弥生ってば妬いてる〜?」
「ち、違います! 別に私だって何度かユキさんに可愛いと言っていただいたことくらいありますし!」
「なによ、それ! そんな話、初耳よ!?」
「当たり前です! そんなこと、わざわざエリカさんに言うわけないじゃないですか!」
「ユキ! 私には可愛いって全然言ってくれないくせに、弥生には言ってたわけ? どういうことよ!? 説明しなさいっ! ことと次第によっては、謝罪と賠償を要求するわよ?」
なぜか知らんが、いつの間にやら二人が仲良くなっている気がする。互いに遠慮がなくなっていると言うか、本心を言い合える本当の友達と言うか……。
「何の賠償だか知らんが、そんなことより、外のおっさんは放置してていいのか?」
どうして二人が仲良くなったのかは、さておき、この間にも「おーい! おーい!」とコチラに呼び掛け続けるおっさんの声がしている。しつこいおっさんだ。
「あっ、そうだったわね! あのー、すいませーん。申し訳ないんですけど、帰ってくれませんかー? あとでハチミツでも持っていきますんでー」
「おっ! もしや、その声はエリカか? エリカ! 俺だ! 早くドアを開けてくれー!」
おっさんが、なぜかエリカの名前を知っている。
ということは、十中八九、外にいる奴はエリカのストーカーだ。わざわざ別荘までエリカを追ってきやがったってわけか。
(ストーカーなんて許せんな……)
「え……? 熊さんに名前バレしちゃってるんだけど、どうしよう……。さすがに住所とかはバレてたりしないよね?」
「ん〜、バレてる可能性が高いな……。お前らは奥に行ってろ。ちょっとシャレにならんから俺がストーカー野郎と話つけてくる」
「ごめん。少しだけ怖いかも……。ユキに任せても良い? でも、危なくなったら逃げなきゃダメよ? その時は私が……」
「大丈夫だって。俺に任せておけ。二度とエリカに近づかないように言ってくるよ。もし相手が言うこと聞かねぇようなら、これで……」
そうして、俺は、学習室から武器として持ったきた、度が過ぎる重たさの結婚情報誌を大上段に構え、玄関へ向かったのだった。
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