第33話 水着姿が目に喧しいです……。
〜三姉妹協定第十一条〜
服装に関する規程
夏だからと言ってユキさんの色欲を刺激するような服装は着用しないこと。
ビキニなぞ言語道断。必ず上からラッシュガードを着るように!
◇◆◇◆◇◆◇◆
耳に入るのは小川のせせらぎ、鳥たちの歌、虫の鳴き声、そして、その情緒を全てぶち壊すような
三姉妹たちが目の前にある小川で水遊びをしているんだが、
(コッチは勉強に集中しなきゃいけねぇってのに勘弁してくれよ)
「どこ見てるんですか? 勉強に集中してください」
弥生が窓をバンっと閉め、カーテンで外と内を隔てる。最後にピッとエアコンのスイッチを入れた。
「すまんせんっす、弥生先生」
夏休みに入り数日、俺たち
三姉妹や母さんにとっては楽しい旅行なんだろうが、俺にとっては合宿。しかも、苦痛を伴うであろう二泊三日の勉強合宿だ。
「先生はやめてくださいよ。私はそんな高尚な人間ではありませんから」
そうは言うものの弥生は何だか嬉しそうだ。まぁ、先生と呼ばれて気を悪くする人間なんていない。たとえ俺が少しふざけていたとしてもだ。
「では、幸村く〜ん。次の問題を解いてみましょう〜」
それに“幸村くん”だなんて、俺を呼ぶんだから弥生の方だって少しふざけている。
まぁ、ふざけてるんじゃなくて、はしゃいでるだけかもしれない。なんたって、今日の弥生は、勉強中なのに白いワンピースの水着を着ているくらいテンションが高い。まるで徹夜明けのテンションだ。
「はい、弥生先生! 全然わかりません!」
ちなみに、別にこれはふざけているわけではない。マジで答えがわからない。
「も〜! そこは先ほど教えたじゃないですかぁ!」
「あれ? 教えて貰ったっけ?」
「教えました! 応用すれば解けます!」
(応用って……。今、教えて貰ってるの国語なんだけど……)
結局、弥生に教えてもらい、応用してみたらホントに解けた。
どうやら、弥生は出題者の意図みたいな話を俺にしたかったようだ。そんな高度な話、俺にはまだ早いんだが、それでも学力はあがった気がする。
幸村の考える力が三あがった。感じる力が六あがった。想像する力が五あがった。……ってな感じだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
弥生も鬼ではないみたいで、昼飯のあと彼女は俺に自由時間を下さった。勉学にはメリハリが大事、とは彼女の言葉。ありがたい話だ。
そんなわけで俺は別荘から離れたところで小川に釣竿を下げ、のんびりとした時間を過ごすことにした。高校生の夏休みにしては、かなり優雅な時間の過ごし方だろう。
だというのに……。
「ちょっと、アヤ姉! 水着、引っ張んないでよ! ポロリしちゃったらどうすんのよ!」
「違うの! ここらへんツルツルしてて!」
「なら、せめて腕を掴んでよ!」
「ひぇ〜。滑る〜っ」
「やめてってば! 脱げるでしょうがー!」
エリカとアヤ姉が俺の釣り場でギャーギャーと騒いでいやがる……。
もちろんヒナと弥生も一緒だ。
「ばっしゃ〜ん! ばっしゃ〜ん!」
「ヒナさんっ! やめくださいっ! 水が口の中に!」
「ばっしゃ〜ん! ばっしゃ〜ん!」
「ちょっと! もぅ〜。お返しです!」
「ばっしゃ〜ん! ばっしゃ〜ん!」
ヒナと弥生が川の水を互いに掛けあっているせいで、ドンドン俺の釣り場から魚たちが逃げていく。
(わざわざ俺が別荘から離れた意味を少しは考えろよ。……仕方ない、釣り場を変えるか)
よっこらっしょっと立ち上がり、小川に沿って上流に向かい歩き出せば、当然のように四人が俺についてくる。
「何で俺についてくんの? 悪いんだけどさ、騒ぐんなら向こうでやってくんない? 俺は釣りがしたいの。お前ら邪魔。どっか行け」
苛立ちから強い口調で四人を非難すると、アヤ姉がたわわをバルンバルンさせながら俺に駆け寄ってきた。
「……気持ちはわかるけどね。この辺りは熊が出るらしいし……。だから、ユキくんを一人にするわけにはいかないの。お姉ちゃんは、ただユキくんが心配なだけで……」
やけに騒いでいると思ったら、熊避けのためだったのか……。そうならそうと言ってくれれば、俺だって別荘から離れなかったのに……。
(参ったなぁ。コイツらは俺を心配してくれていただけなのに、邪魔だなんてキツく言い過ぎちまった……)
「少し言い過ぎた。ごめんな。それに心配してくれて皆ありが——」
「いや、この辺りには出ませんよ、熊なんて。適当なことを言わないでください」
……
(俺の謝意を返せ、このヤロー!)
などと憤ったところで川の向こう岸からガサガサっと大きな音が聞こえてきた……。
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