第14話 再会する二人

カタ……カタ……──。


数多転がっている死体の中で、動きを見せるものがあった。


それらはリベラの指定境界ギリギリ内側に転がっていた。


逃げ出そうとする者でもなければ近づくことのない、そんな場所。


生者であれば警告のため脳内にアラートが響くような場所に、やってくる者などまず居ない。


カタ……カタ……カタ……──。


気味の悪い音は次第に数を増やしていく。


それらは、人間では到底考えられない動きで立ち上がる。


糸に引かれた人形のように。


リベラの全範囲を同時に見渡せる者がいれば驚愕したかもしれない。


総勢5000にも及ぶ人形が指定範囲の外周に立ち並んでいることに。


しかしそんなことは誰も気づかない。


気づけるほどに余裕がある状況でもないからだ。


そんな彼らをよそに、着々と準備は行われていく。


人形たちは武器を持ち、鎧を身に纏う。


それらの装備は、フェイヴァが宗教結社として活動する傍ら秘密裏に製造していたものだ。


加えて、リベラで命を落とした人間から剥ぎ取った武器や防具も数多く取り揃えている。


攻めを捨て時間を掛けた成果が、ここに並んでいる。


あとは侵攻の合図を待つだけだ。


同じ頃──。


「そろそろですね……」


歓楽街の中央、マリス本営の頂上にあたる場所にマイアットは佇んでいた。


マリスの本営はその威光を知らしめるかのように、貧民街では突出した高さと大きさを誇った建造物である。


塵埃吹き荒ぶ貧民街では遠く見渡すことは困難なため、天高く居座る彼女を目視で確認できている者は居ない。


しかし彼女は人形の目を通して下界の様子を見ることができるため、劣悪な視界など問題にはならない。


彼女の目には、あらゆる場所の戦闘風景が写っている。


今や昼夜問わず殺戮が繰り広げられるまでになっているのだ。


先日リベラの戦闘区域が4分の1の面積にまで縮小されたことで、戦いは激化の一途を辿っている。


今までは居を構えて鳴りを潜めていた連中も移動を余儀なくされ、まずは熾烈な場所取り合戦が行われた。


そもそも歓楽街を中心に行われているリベラにおいて、区域縮小による恩恵はマリスに対して特に大きい。


これにより一般陣営はさらに数を減らしている。


マリスが約半数になっているのに対して、彼らの人員は5000強──開始当初の3割ほどとなっているのだ。


しかしマリスにとっては利ばかりではない。


少ない人員、そして拠点が中央に既に存在しているということで、むしろ中央に追いやられているという見方もできる。


マリスは、ほぼほぼ全方位から攻撃を受けるという構図となっているわけだ。


現在はその包囲網を完成させぬべく、マリス構成員は躍起になっている。


マリス本営の周囲は原型を残している建物が多く、ヴァンデットも積極的にこれらを破壊することはしていない。


一般陣営はそこらを攻めの拠点とすべく動き、ヴァンデットはそういった動きを狙って一網打尽にすべく動く。


一進一退の攻防が続けられているが、一般陣営は最早ヤケと言っても過言ではない。


消耗具合は明らかに一般陣営が大きいからだ。


だがそのヤケクソさがマリス兵を押し留めるに十分な効果を発揮しているといえる。


「この混沌とした状況こそ好機……。状況が固定される前に介入してしまいましょう……」


マイアットは全ての人形に思念を飛ばす。


『漸く全てを滅ぼし安寧を得る機会が訪れました……』


思念の先から、同意にも似た感情が返ってくる。


『視界に入った者は、容赦なく殺しなさい……。最優先対象は、ヴァンデット、アイゼン、グレッグ、ミラ、レッケンド、ラーナ、エイベ、ルド、トンプソン、そしてヴィクトリア……。デイビス以下3名は、協力関係が破綻していると判断すれば殺害していただいて結構です……。では、始めましょうか……』


カタカタカタ……。


「ん、何の音だ?」


マリスとの抗争を避け、なるべく戦闘に関わらないように息を潜めている一般陣営の者がいた。


名はタスク。


パラパラと天井から砂が降ってくる。


机の上の食器も揺れ、振動が起こっているようだ。


「くそ、この辺りも安全じゃないのかよ!」


彼は振動の原因が、近くで行われている戦闘による者だと推測する。


彼は急いで荷物を纏め、なるべくリベラ指定範囲の外側へ向かおうと考え行動に移った。


彼自身、周りを圧倒するような戦闘能力はない。


しかし最後まで生き残っていればチャンスはあるだろうと、ひたすら戦闘を避け続けた。


一縷の望みをかけてヴァンデットに挑んでいった奴もいたし、積極的にマリス兵を狩ろうと考えた奴もいた。


その結果は、現状が物語っている。


ジリジリと仲間の数は減っているが、耐え忍ぶことは彼の得意分野だったため、今も死なずに生きていられている。


「チャンスは掴み取るものだけど、飛びつくものじゃない。転がってくるのを待つものだ。待てないからチャンスをふいにするし、死ぬんだよ」


タスクは自分に言い聞かせるように呟く。


暫くして移動の用意ができると、彼の勘が安全だと示す方へ走り出した。


なるべく通りには出ないように建物の中をくぐる。


しかし一向に振動が収まる気配がない。


むしろ震源に近づいている感じさえある。


タスクはそっとガラスの割れた窓から外を覗いた。


普段ならそんなことをしないだろうが、不安から思わず外へ顔を覗かせてしまった。


「ま、まじかよ……」


彼は一瞬、自分の向かおうとしていた先から壁が迫ってきているような錯覚を覚えた。


よく見ればそれは全て人間の塊であり、通りを埋め尽くし、それでも飽き足らず建物の上なども広範囲に占拠しながらこちらに向かっているではないか。


そんな壁を構成する人間の一つと目があった。


いや、複数の人間がタスクを見つめていた。


この瞬間、タスクの運命が決まった。


身を潜めていれば生存する可能性はあったかもしれない。


だが彼は安直な行動からそれをふいにした。


チャンスを待つとタスクは言ったが、何もせずただ待つだけの彼は用意周到に待ち続けたフェイヴァには及ばなかった。


ただそれだけのことだ。


そしてロクな逃亡劇も演じられず、彼の人生は終わった。


彼らの行軍は終わらない。


タスク同様、多くの人間が見境なく飲み込まれて消えていく。


一時的に肉薄する者がいても、やがて物量に踏み潰される。


それらは中心に近くにつれ厚みを増し、強固な壁として全てを追い詰めていく。



            ▽



「トンプソン様、あれは……」


ヴィクトリアは見た物の恐ろしさに口を覆っている。


「やはり、この好機を逃す連中ではないな」


二人は南部のリベラ指定領外にほど近い場所を一時的な拠点として活動していた。


この辺りは原型を留めた建物が多く残存していた。


そこに隠れ潜む者も多かったが、トンプソンが全てを排していった。


そんな中、突如現れた軍勢。


それが行軍を始めている。


いち早く気づけたのは、二人がフェイヴァ対策の動きを続けていたからに他ならない。


一度フェイヴァ所属と思しき人形を見つけてからは、積極的にそれを破壊するべく行動していた。


人形ばかりを狩り、時には敢えて放置して人形たちの目的と足取りを追った。


そして、人形たちの動きを掴んだ。


「可能な限り準備はしたはずだ。そして彼らの行動も予測の範疇を出ない」


「それは、そうですね……」


「ここからは一旦別行動になる。私が彼らを引きつけ、そのままポイントへ侵入する。想定通りの動きを見せれば、私がどういう状態であっても作戦を実行するようにな」


「たとえば大怪我を負われていたりすれば……?」


「どんな状態であっても、だ。そこに感情は不要。そういった不確定な要素を組み込んだ作戦など到底立案しておらぬからな」


「それは、理解できますが」


「余計な感情を挟めば、作戦は失敗する。それだけ理解していれば良い」


「しょ、承知いたしました」


「では、また後でな」


トンプソンは軍勢に向けて走り出した。


「ふーっ、ふーっ……」


なんとかヴィクトリアは息を整える。


ここまでトンプソンとはずっとニコイチだったが、ここにきて初めてのソロ活動だ。


激しく脈打つ拍動をなんとか注意の外にやり、ヴィクトリアも指定された場所へ急ぐ。


この場所を知っている者が見れば、まず違和感を覚えることだろう。


本来であれば大きな通りが一本あり、その周囲に建物が立ち並ぶ、そんな場所。


それらの建物の間にも細い通りが何本も張り巡らされ、貧民街の一部では迷宮のような様相を呈している場所もある。


ここも例に漏れず日常使いするには厄介な構造をしており、隠れ潜む者も少なからず居たが、作戦のためのトンプソンが彼らを追い出した。


そして路地に当たるような道はトンプソンによって破壊され、埋められた。


獲物を真っ直ぐに釣り出すために。


加えて、建物の窓や出入り口も一部を除いて家具や瓦礫などを用いて塞いである。


ヴィクトリアは瓦礫を避け、時にはそれらを乗り越え、複雑に入り組んだ道を進み建物の中へ侵入した。


何度も通り確認した道だけあって、すんなりとその場所へ至った。


ここは一方的に大通りを覗くことができるようになっており、そんな場所が各所に設定されている。


全ては最終局面に向けての準備だ。


使用するのは当分先だと思っていたが、早々にその時が来てしまった。


ヴァンデットとの戦いでの切り札を一つ切ってしまったことになるが、トンプソンは気にもしていない様子だったことから彼にとっては些事なのもしれない。


そんなことを考えつつ、彼の言っていたポイントを見張る。


振動、いや地響きは確実にこちらに接近している。


トンプソンはどんな状態でも作戦を実行しろと言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか。


もし、彼がここに来なかったら?


ヴィクトリアはマイナスな思考ばかり湧いてくる。


地響きによる不安が限界を迎える直前、


『今だ』


トンプソンから思念が届き、彼が視界を横切って走り抜けたのが見えた。


「き、来ました!」


ヴィクトリアは急いで今いる建物の支柱に向かう。


「はッ!」


そして支柱の目印をつけていた部分を勢いよく殴りつけた。


すると、即座に建物は支えを失う。


トンプソンは大多数で攻められた時のために、このような仕組みを通り沿い全ての建物に設定していたのだ。


バキバキと石壁の砕ける音を聞きながら、ヴィクトリアはスキルを発動。


自らが下敷きになってしまうことを考慮して、安全を確保する意味で数秒先を覗きつつ次なる建物へ移動する。


計算上はヴィクトリアが巻き込まれないようにしているという話だったが、念には念を入れねばならない。


そのまま同じ行動を繰り返すと、大通りに向けて次々と超重量の塊が降り注でいく。


愚かにもトンプソンを追って来ていたフェイヴァの兵はその倒壊に飲み込まれていった。


ヴィクトリアは大通り沿いに十数棟あったアパートや店舗が全て想定通りの動きを見せたことに安堵し、即座に踵を返す。


倒壊に際して悲鳴が聞こえないところをみるとフェイヴァ兵はそこまで巻き込まれなかったのだろうか。


それともトンプソンを追っていた連中は全て人形だというのだろうか。


人形であれば心を痛めないで済むな、と考えながら足を急がせる。


そして息を切らせつつ次のポイントにたどり着いた。


時折ヴィクトリアの頭上の壁を蹴る足音が聞こえるが、巧妙に細工した通路を用いているため今のところは見つかっていない。


ここまでは想定通り。


焦る気持ちが正常な思考を逸らせる。


だが慌ててはいけない。


ゴクンと唾を飲み、心を落ち着かせる。


そして、視る。


視線の先では、トンプソンが次々に襲いくるフェイヴァ兵を相手取っていた。


作戦は現在も進行中だ。


ここからがヴィクトリアにとって最も重要な任務と言っても過言ではない。


だからこそ、時間をかけてでも平常心を保たなければならない。


「ふーっ……」


スキルの発動には相当な集中力を要する。


トンプソンから与えられた『Future visi未来視on』のスキル。


1回の発動ごとに、数秒とはいえ未来を覗くことができる。


これを使って、トンプソンをサポートする。


同じ頃トンプソンは倒壊し続ける建物を見て、ヴィクトリアが指示通りの動きをしてくれていることを確信する。


どうやらフェイヴァは、全方位から取り囲んでトンプソンを含めた全勢力を封じ込めるつもりらしい。


その一部がトンプソンを見つけるなり嬉々として襲いかかってきたのだ。


こちらの行動は予定通りで、フェイヴァの動きも予想通り。


誤算は、それほど多くはトンプソンに釣られなかったこと。


数としては数百。


その他は恐らく、フェイヴァが当初から想定していた動きをしていくのだろう。


数百人を同時に相手取るのは自殺行為に等しいが、作戦はいい具合に機能している。


見事にその大多数を倒壊に巻き込むことができ、相手方の戦闘不能は必至。


もともと建物の上を動いていたような者やそもそも倒壊に巻き込まれなかった者、また巻き込まれつつも生を得た者たちが無機質にトンプソンへ殺到する。


現在トンプソンがいるのは2本の大通りが直行した広場にあたる部分。


視界を確保する意味合いもあるが、4方向から攻められたら逃げ場がないというリスクもある。


しかしトンプソンに対するフェイヴァの侵攻は正面からのみ。


今のところ、回り込んでまでトンプソンを強襲してくる気配はない。


こちらに割かれた人員以外は、真っ直ぐに中央を攻めているに違いない。


あとは生き残りを処理するだけだ。


ヴィクトリアの生死は定かではないが、彼女が次のポイントに達したら何かしらのアクションがあるはずだ。


それを待ちつつ、まずは目の前に迫る敵の殲滅を図る。


一人目は低い姿勢からこちらに迫って来ており、そのままの勢いで右手のサーベルを横なぎに振るった。


トンプソンはギリギリまで相手の攻撃を引きつけ、相手が攻撃のヒットを確信した瞬間を狙って短い動きで飛び上がる。


そして意表をつかれた相手の頭上から勢いよく右足で踏みつけると、そのままの勢いで左足を後頸部へ。


はじめにミシリとした表面の割れる音、それに続いてバキバキと内部構造の破壊音を放出しながら頭部が離断された。


「やはりこいつらも人形か」


続いて迫る二人目の拳を左手で受け止め、右手で首を掴み、握りつぶした。


また一つ、足元に人形の頭が転がる。


「首と胴が離れれば、止まる」


視線を上げると、今度は目前に二人。


左からは槍の刺突が、右からは大剣の振り下ろし。


「同時にやるなら──」


トンプソンは右肩を身体の正面に出して半身に構え、左足もやや後方へ引く。


半身の状態になったトンプソンの背後スレスレを大剣が通り過ぎた。


槍は服に一部を掠らせながらも、これも左脇腹ギリギリを通過していく。


「──もう少しまともに連携すべきだぞ」


そして左肩を出すように上半身を捻り、全ての勢いを左掌底に乗せる。


掌底はそのまま無防備な顔面へ。


槍の男の頭が吹き飛ぶのを横目に、掌底の勢いに加えて右腕を後方へ振るう。


これにより上半身に更なる回転が加わり、それに伴う下半身の回転で左足をぶん回した。


それは真っ直ぐに大剣の男の延髄へ向かい、3つ目の頭が転がった。


体勢を立て直したトンプソンの目には、瓦礫を越え建物を越え次々とこちらに向かってくる人形の姿がある。


このままいけば、次は同時に4体を相手にしなければならなさそうだ。


そして彼らが肉薄した時、


『左右の攻撃はブラフ、まずは正面二人を!』


脳内にヴィクトリアの思念が届いた。


すでに攻撃モーションにあった左右の二人は無視し、正面右の男を鎧の上から殴りつけながらそのまま前進し3人とすれ違う。


攻撃を受けた一人は激しく鎧を拉させながら吹き飛んでいく。


3人からは動揺が伝わってくる。


恐らく左右の二人が後方へ回り、4方向から攻撃を仕掛ける腹づもりだったのだろう。


トンプソンは動揺の隙をついて攻撃に転じる。


肉薄した時点で正面左にいた男に対し跳躍、そして前転からの踵落としを見舞う。


頭上を守った両腕を難なく粉砕し、踵は脳天をぶち抜いた。


頭部を砕かれ、文字通り物言わぬ人形と成り下がる。


背後から迫る気配も感じるが、危機となればヴィクトリアが報じてくれるだろう。


そう信じて、トンプソンは残り二人を見る。


二人は共に鎖鎌を準備しており、攻撃後硬直のトンプソンに対して鎖分銅を投擲している最中だった。


それをあえて両腕で受け、巻き付いたことを確認するとトンプソンは鎖部分を掴み、勢いよく上へ振り上げた。


これにより鎌を握ったままの二人は上空へ巻き上げられる。


そのままトンプソンは着地予測地点まで駆け、落下してくる1体を下から拳で突き上げた。


拳が鎧を貫通し、1体を戦闘不能に陥らせる。


腕を引き抜く過程で首をもぎ取る。


4つ目の頭部が舞う。


続いて地面に落下して倒れ伏している1体の頸部を蹴り抜き、5つ目の頭部を転がす。


『ボウガンが打たれます!しゃがんで回避を』


トンプソンは何も考えず、勢いよく地に伏せた。


頭上を矢が通り過ぎていくが、当たらなかった時点でそこから意識を外す。


そして伏せた体勢から弾道を逆算。


即座に攻撃先を割り出し、そこに向かって駆け出す。


「これはなかなか──」


トンプソンの口がニヤリと歪む。


「──楽しいな」


矢の雨を掻い潜り、次々に現れる敵を破壊していくトンプソン。


ヴィクトリアのサポートをふんだんに受け、蹂躙劇は続けられるのだった。



            ▽



マリス本営前──。


「なんだぁ……?」


数々の悲鳴が上がり、ヴァンデットの目にマリス兵が吹き飛ばされ続ける様が確認できた。


多方面からの何者かの侵攻に対抗するために陣を敷こうとしていたマリスに対して、攻めてきている者がいる。


しかし、敵の軍勢とぶつかるには早すぎる。


そんな中、視界に映ったのは見覚えのある白い装束。


部下を蹂躙しながら涼しい顔で歩みを寄せるのは、


「引導を渡しに来ましたよ」


確実に殺したはずのイノセンシオ。


「テメェ……!」


「あの程度でこの私を殺したつもりでしたか?まぁ、あなた程度の浅はかな知能ではそう考えても無理はありませんね」


「相変わらずイキりやがる……!」


「ダートはここには居ないのですか?先に殺して差し上げようと思っていたのですが」


「今現れたってことは、この騒動もテメェの仕業だな。ダートならテメェの下らない策略を一人で収めに行ってる最中だろうよ」


「そうですか、それは残念です。では彼には、あなたの死体とご対面させるサプライズをお贈りしましょうか」


「勝てるとでも思っているのか?」


「あなたこそ、これっぽっちの人数で相手できるとでも?」


「テメェなんぞ、俺様一人で十分だ。あいつらにはテメェのオモチャを壊して楽しんでもらうさ」


「あなたたち全員でかかれば何とかなるかもしれませんけどね。むしろ全員でかからないと到底勝ち目はない、と言っておきましょうか」


「どこからその自信が湧いてるかしらねぇが、テメェはこの間の二の舞にしかならねぇよ」


「そうですか、人のアドバイスを無碍にするなんて。折角チャンスを与えてあげたというのに……あなたは本当に愚かですね」


「そろそろ黙れ。いい加減テメェの相手するのも飽きたから、さっさと死んでくれや」


「そうですか、ちょうど私もそう思っていたところです。では、遠慮なくいかせていただきましょうか」


二人の圧が増す。


それに合わせて、争いに巻き込まれないようにマリス兵たちはその場から離れていく。


これはイノセンシオが恐ろしいからではない。


単にヴァンデットの攻撃の余波を受けないためだ。


彼らは自らのボスの勝利を確信している。


圧倒的な力を見せるイノセンシオを目の前にしても、それは揺るがなかった。


この場でヴァンデットがイノセンシオを確実に葬ってくれるだろうという安心感もあった。


ボスが働いている以上は、彼らも働かなければならない。


イノセンシオの登場により、マリスはむしろ活性化するのだった。

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