第6話 アルメニア協会

『アルメニア協会カラノ示達デアル。アルメニア協会カラノ示達デアル』


ヴィクトリアが貧民街を訪れた数日後、全域にバランス修正の通達が行われた。


大音響で響き渡るそれは、あまねく貧民街にその内容を知らしめた。


その声の主は分からない。


それは無機質であり、人工的に作られたような声。


聴く人が聴けば、機械的な声と表現したかも知れない。


「アルメニア協会ですか?」


「この世界をコントロールしている中枢機関だ。しかし誰もその存在に触れたことがない。一方的に貧民街の方針を伝えるだけの組織で、どの勢力にも与していない。管理人が協会に属しているということ以外は、誰も何も知らないのだ」


『10日後ノ正午ヨリ、貧民街ニオイテ死ノ概念ガ適用サレル。繰リ返ス、貧民街ニオイテ死ノ概念ガ適用サレル』


「死!?」


「ふむ、間引きか」


ヴィクトリア達同様、貧民街各所でも驚きの声が噴出していた。


『全テノ殺傷行為ハ認メラレル。最終的ニ生キ残ッタ5名ヲ勝者トシ、アラユル権利ヲ保障スルモノデアル。参加条件ハ、ゴールド以上ノアビリティプレートヲ持ツ者。期日以降、今回ノ儀ガ終結スルマデ、非参加者ノ端末デノスキル及ビアビリティノ取引ハ不可能デアル。5名ノ勝者ガ確定スルコトデ、儀ノ終結トスル。便宜上、儀ヲ“リベラ”ト呼称スル。リベラノ完了ヲモッテ全住民カラ全テノスキル及ビアビリティヲ収奪シ、死ノ概念ヲ適用カラ外シ──』


二人はトンプソン宅でこの内容を聞いていた。


「ゴールド以上となると、どれだけの数が参加することになるのでしょうか?」


「貧民街に一体どれ程の住民がいるか検討がつかぬ。しかし順当にゴールドに上がるにはそれなりの時間がかかる。ヴィクトリア殿のような方法でプレートランクを上げるのはなかなかに稀だ。それを考えると貧民街の1割ほどがゴールド以上かもしれぬな」


「それだけの人間達で殺し合いをしろという事なのでしょうね……」


「先ほどの示達では述べられていなかったが、しっかりと回避する術もある。アビリティを手放しさえすればシルバーまでプレートランクを下げられるのだから、自信がなければ死のリスクを負ってまで戦う必要もあるまい。今頃、大量のアビリティが出回り始めていることだろう。すでに戦いは始まっている。だがわざわざ端末まで出向かなくて良くなったのは助かったな」


「最後に言われてましたね。全員に小型端末が届くという話でしたか」


コンコン。


ちょうどそのタイミングで、室内にノック音が響く。


トンプソンが部屋の外を確認すると誰もいないが、小箱だけが部屋前に置かれていた。


「ふむ、これがそうだということだな」


早速小箱を開けると、中から二つの端末が現れた。


大きさとしては両手掌を合わせたほど。


肌触りの良い黒い板に、白いパネルが嵌まり込んでいる。


裏側には手掌の型が付いている。


トンプソンはその一つを操作し始める。


正直、ヴィクトリア自身の端末は不要だったかもしれない。


ヴィクトリアはトンプソンの動きを眺める。


「どうやらアビリティやスキルもこの端末で問題なく取引可能だな。予想通り、大量のアビリティが出品されている」


ABILITY:

Magic(Ordinaly)1109879 digit:20

Magic(Fire:low)372907 digit:20

Magic(Fire:middle)34971 digit:100

Magic(Fire:high)221 digit:4000

Magic(Water:low)299163 digit:20

Magic(Water:middle)30919 digit:100

Magic(Water:high)188 digit:4000

Magic(Wind:low)400192 digit:20

Magic(Wind:middle)31181 digit:100

Magic(Wind:high)277 digit:4000

Magic(Arth:low)377670 digit:20

Magic(Arth:middle)30048 digit:100

Magic(Arth:high)199 digit:4000

   ・

   ・

   ・


「リベラが始まったら、これを使って取引を行えということですよね?」


「試しに一つやってみようか」


トンプソンは慣れた手つきでパネルを操作している。


いくつかの操作の後、裏の手型に手掌を押し当てる。


「モノの受け取り場所を指定できるようだ。確認したところ、その受け取り場所も各所に無数に設置されている。これならリベラに参加しない者も安心して取引が可能になるな」


「私達も参加するのですよね?」


「スキルを取り上げられては困るのでな。これを逃せば、次に外に出る機会はいつになるか分からなくなってしまう。それこそヴィクトリア殿の目的も果たせなくなるだろう」


「それは、困りますね……」


「む、これはどういうことだ」


「えっと、どうされましたか?」


端末を見ていたトンプソンが異変を感じたようだ。


「出品されていたアビリティが軒並み買い占められ始めている」


画面を見ると、みるみるうちに数が減っているのが分かる。


数字以外は未知の文字なので読み取れないが、大量に並んだアビリティの横の数字が少なくなっていく。


「もう始まっているか。恐らく大手の組織による買い占めだろう」


「売り手からすれば、すぐ売れるのですから良いことなのでは?」


「買い占めが行われたあとは、どうなると思う?」


「買いたい人が買えなくなりますね」


「それだけではない。買い占めたアビリティのディジット値を釣り上げて市場に流すことで、ディジットを荒稼ぎだ。まぁそこまで売れるとも思えんがな。あとは高額で買い取らせることで相手のディジットを減らしてダメージを与えることができるな。相当な資金力──人員とディジット収集能力がないとできないことだな」


「でも、それでは大手の組織に属していない方々には多大な影響が出てしまいますよね?」


「それも狙いだろう。恐らく大手の組織は自分たちだけで5枠を独占するつもりだ。そういった連中は、有象無象に邪魔されることを嫌う傾向があるからな。逆に考えれば、早めに篩をかけることで無用な死が減るという効果はあるかもしれんな」


「思惑が入り乱れて、影響を受ける側はたまったものではありませんね。私のプレートはいかがいたしましょうか?労働が必要なのであれば、すぐにでも……」


「いや、ここに連れてきてしまった以上は私が面倒を見る。少なくとも死ぬことはないように、あといくつかスキルを渡しておく。ブラックプレートでの取引には日毎に制限がかかるから、少しずつ渡していくつもりだ。構わないかね?」


「いえ、何から何までありがとうございます。勢いで飛び出してしまった私でしたが、自分の意思なのでリベラに関しても不満はありません。むしろ不安はトンプソン様の邪魔にならないかどうかです」


「邪魔などとは思わぬよ」


「気を遣って頂かなくても大丈夫です足手纏いなのであれば、私をここに捨て置いていただいても構いません。確かに地上に戻って国の悪行を暴くことも大切ですが、それは私でなくても出来ること。その場合は、その役目をトンプソン様にお願いしたく思います。トンプソン様も、そういった関係で城に入り込んでいたのではありませんか?」


トンプソンは少し考えて、そして口を開いた。


「ヴィクトリア殿の言う通り、目的としては近いものがある。だが、そこにあるのは善意などではない。悪意に満ちた思惑から、私は城に入り込んでいたのだ」


「それでも、国の悪行を止めるということに繋がることであれば、私は構いません」


そう言い放つヴィクトリアの眼には、力が宿っている。


「本当にそう思うかね?簡潔に言ってしまえば、私の目的は王家を潰すことだ。そこにはヴィクトリア殿の夫も、娘も、城に勤める人間も、あらゆる者が含まれる。ヴィクトリア殿からすれば、受け入れられないことだと思うが?」


「それは……」


「王家だけではない。私は、私の属する組織は王国そのもの滅ぼそうと考えている」


「そ、それはなりません!無辜の民が傷つく姿など見過ごすことはできません!王家が滅ぶこと自体は仕方ありませんが、民に責任はありません」


「確かに民に責任はない。だが貴族も含め、王国はあらゆる部分で腐っているのだよ。そんな国に明るい未来などあるかね?いっそ全てを白紙に戻して綺麗にするのが優しさだと思うがね」


「そんなことはありません。民はどこにあっても強かに生きています!貧民街の方々だってそうではありませんか」


「そう、ここの住民は強かだ。だが、地上の人間は必ずしもそうではない。ヴィクトリア殿は余りにも何も知らずに生きてこられた。先ほどから民は民はと言っておられるが、実際に民の生活など見たことはないだろう。蝶よ花よと愛でられて、腐った人間たちの中で育ったヴィクトリア殿では、何を言っても綺麗事でしかない」


「それはそうですが……」


あまりの正論に何も言い返すことができないヴィクトリア。


実際に国の外の民の生活を見たこともなければ、王城から出ることもほとんど無い。


周りは見知った人間ばかりで、皆自分によくしてくれる。


良い人ばかりだと思っていたが、実のところ自分にとって都合の良い人間しかいなかったということだ。


何を言っても反論されることもなかったし、望むものは何でも得られた。


そんな自分の吐き出す言葉に、今更ながら恥ずかしさを感じ始めてしまった。


ここに来て、自分がいかに愚かな場所で生活していたかを理解できたヴィクトリアであった。


「しかしそうだな……ヴィクトリア殿が、王国の腐敗を内側から是正するというのなら、我々の行動は考え直しても良い。私個人としては、無駄に人間の死を望んでいるわけではないからな。我々の組織には全て滅ぼせという考えの者が多いのも事実だが、ヴィクトリア殿がやってくれるのであれば労力も減らせよう」


「そのつもりですが、時間がかかると思いますよ……?」


「できないと言わないことには、素直に感心だ。それではヴィクトリア殿の手腕に期待しようか。だがそれが不可能と分かれば、私は容赦なく最後の一撃を加えるだろう」


「肝に命じておきます……」


ここに来て、ヴィクトリアにはっきりとした目的が見えてきた気がする。


これでは、命を捨てるなどとは言ってられない。


何としても、貧民街を出なくてはいけなくなった。


トンプソンはどうにかしてくれるという話だが、この広大な貧民街にどれだけの人間が居るか分からない以上、どれだけの人間がリベラに参加するか不明だ。


大手の組織も当然参加する。


自分一人でも生き延びられるとまではいかないが、トンプソンの邪魔にならない程度の行動はできなければならない。


「リベラで足手纏いにならないためにも、私に戦い方を教えていただけませんか?」


「ふむ、短い期間だができる限りのことはしておこうか」


生まれてきて初めて、ヴィクトリアが自らの意思で積極的な意見を主張したのだった。



            ▽



マリスのアジト──


「フハハハハハ!これだよ、俺様が求めていたもんは!これで心置きなく邪魔者を始末できる……!」


ヴァンデッドの高笑いが響き渡る。


「ボス!」


気分良く今後の展望を予想して楽しんでいたところに、部下からの横槍が入る。


「あぁん?」


「アビリティが軒並み買い上げられています!俺たちも何かした方がいいんじゃないですか!?」


焦った様子で話すヴァンデッドの部下。


「チッ……んなこたぁ端末を覗けば誰でも分かる。こんなことをやるのはイノセンシオのゴミだろうな。逆に言えばこういう手段しか取れない──自分たちに戦う力がないと言っているようなもんだ。リベラは実質的な力のみがものを言う戦いだ。その点、俺様のマリスはそこをクリアしてる」


「では、何もせず静観ということですか?」


「そうは言わねぇ。フェイヴァの好きにさせておくのも癪だしな。そうだな……お前らはフェイヴァ構成員のプレートと端末を奪って回れ。イノセンシオは綿密に立てて行動する男だ。だからこそ、少し小細工を弄してやれば計画なぞ瓦解する」


「分かりました、すぐに行動します」


「ああ、任せた。お前らは俺様が何とかしてやるからな」


「ありがとうございます!」


部下はヴァンデットの任せたという言葉に顔を綻ばせながら、命令に従い行動を開始した。


「おいダート、カイネスの方はどうなっている?」


部下の姿が消えたのを確認すると、ヴァンデットは側にいるダートに声をかけた。


ダートはマリスのナンバー2の実力者。


マリスの末端への指令は全て、この男から伝えられることとなっている。


「何か動きがあれば戻れと伝えていたのだが、まだ戻らないところを見ると成果は得られていないようだ。同時に、グレッグ達も成果がないことが分かる。戻るように伝えるか?」


「いや、そのまま張り付かせておけ。グレッグの手を貸す必要もない。むしろ成果が出なければ出ないほど都合がいいからな。リベラが始まれば、戦いに人探しに、あいつらは余裕がなくなってくる」


「そうなれば寝首も掻きやすい、ということか」


「そういうことだ。奴らの実力はどんなもんか知らねぇが、それを十全に発揮できる環境は訪れないだろうよ。隙を晒せば、カイネスの刃も届きやすい。しばらくすれば、リベラ中は協定を結んでくれってお願いに来るはずだ。常に奴らの上を取り続けている以上、奴らも迂闊な行動には出ないだろうさ」


「しかし奴らも危うくなれば何をしでかすか分からないぞ?」


「奴らもバカじゃねぇ。バカじゃねぇからこそ、行動の予測など容易いってもんだ。それに終盤になるほど強くなるのは俺様の方だ」


「そうだったな。ことリベラにおいて、お前は最強だ。負ける姿など、勝利以上に想像できん」


フェイヴァのアジトでは──。


「アビリティの買い占めは上手くいっているようですね」


「はい。イノセンシオ様の指示通り、末端の構成員のディジットをフルに活用して買い占めは継続中です」


「より多くの貢献をした者には、リベラ終息後の地位を約束していますからね。今からでもフェイヴァに所属して共に戦ってくれる戦士がいるのであれば、迷わず勧誘してください」


「承知しました、勧誘活動は継続させていただきます」


「お願いしますね」


「それと、イノセンシオ様のお耳に入れたい事象がありまして……。ここ数日でマリスが過激化してきており、端末やプレートを奪われる者が続出しております。ただフェイヴァの方針として交戦するわけにもいかない状況でして、如何しましょうか?」


「そうですか……彼らも強硬手段に出てくるあたり、余裕がないと見えますね。そちらの件はマイアットにお願いしておきますので、全員一度はアジトに来るように伝えておいてください」


「マイアット様ですか。私は一度もお会いしたことがないですね」


「普段は特別な任務を与えていますからね、会えなくても無理はないでしょう。彼女に任せておけば、その問題も容易に解決可能です。ですので、あなた達はリベラ開始まで作戦を続けておいてください。今の優位を維持できれば、リベラ開始時点で我々の勝利は確定です」


「おお……それを聞けば皆の士気も上がるでしょう。あと数日、気を抜かずに作戦を続けます」


「ええ、頼みましたよ」


部下を見送り、イノセンシオは薄汚れた外の風景を見遣る。


「リベラで汚れた民を浄化すれば、私の国も完成です。ここまで長くかかりましたが、ようやく悲願も叶うというものです……ふふふ」


柔和で温厚な雰囲気でフェイヴァを纏め上げるイノセンシオには似つかない、邪悪な笑顔が彼の顔には張り付いていた。


時を同じくして──。


「グレッグぅ、全然捕まらないんだけどぉ?」


ヴァンデットとの邂逅から数日、ミラ達のルド捜索は難航していた。


「相手さん、なかなか逃げるのが上手なことで。あっしらの追跡を掻い潜るとは、伊達に情報屋を名乗っていませんなぁ」


「どうにかならんのか?」


「これは相手が一枚上手ですなぁ。人探しに長けた人物がいればよかったんでしょうが、それだと目的と手段が逆なもんで」


「こればかりは仕方がないな。リベラなどという迷惑な事象にも付き合わねばならぬし、ひとまずマリスとは協定を結んでおくか。あのような連中は最後には裏切ってくるが、ギリギリまでは迂闊な行動にも出ぬだろう。5枠のうち3枠をこちらに譲るとも思えんしな。最悪、消してしまえば良かろう。それが認められたのだからな」


「まぁ何でもいいんだけどぉ。あとぉ、どこかからずっと見られてるのは処分するのぉ?」


「まだ振り切れないか」


「恐らくマリスの連中でしょうなぁ。あっしらの行動を逐一報告しているはず。気づいていない振りを続ければ、マリスも油断してくれるでしょう」


「行動を起こしてくれれば、マリスに対するカードが一枚増えるわけだしな。こいつはしばらく放置で良いな」


「手を出されたらぁ、殺さない自信は無いよぉ?」


「死体だけでも残れば良い。この覗き屋も恐らく手練れ。簡単に捕まってくれることもないだろう。相手の対処はお前達に任せる。一度報告がてらマリスに顔を出しておくとしよう」


「畏まりました」



            ▽



「もう少しすれば始まるな」


「出来る限りの準備はしたつもりですが、緊張してきました……」


トンプソンとヴィクトリアは、とあるアパートの屋上でその時を待っていた。


交戦的な住民は、すでに貧民街の各地に陣を構えているようだ。


「ほっ、はっ、とう!」


シュタッ、と彼らの背後に一人の人物が現れた。


現れ方から、どうやら壁を蹴って上がってきたようだ。


「ふむ、この期間中は逃げ果せたようだな」


トンプソンは即座に看破し、警戒を解いている。


「やぁトンプソン、お陰様でね。なかなか便利というか、これしかないってスキルをもらって助かってるよ」


ここに姿を見せたのは、先日一度出会ったルドという少年。


「礼を言いにきただけではなかろう」


「そうだね。結果的にはスキルのおかげで過分な報酬をもらった感じだから、ここ2週間ほど各地を巡って得た情報を教えにきてあげたよ」


「そうか、感謝する。ところで君はこのままリベラに参加するのか?」


「色々考えたけどねー。やっぱり参加はしないことにしたよ。ほら、俺のプレート見てよ」


取り出したそれは、銀色のプレート。


ルドはすぐに袖の中に戻し、リーブと唱えた。


「もらったスキルは最終的に消えちゃうけど、許してよ?」


「自分で与えたものを返せなどとは言わん。それが君の決定だろう、構わぬよ」


「そう言ってくれると助かるよ。とりあえずスキルを使って色んな組織に潜り込んできたんだ。見返りは、いずれまた貧民街に来た時でいいからさ」


「目先の可能性よりも、長期的な生を選ぶか……賢い選択だな。それで、君の知り得た情報とは?」


「リベラに参加する派閥だけど、まず先日伝えた大きなところが二つ──マリスとフェイヴァだね。マリスは末端の構成員も入れて大体1000人くらいかな。フェイヴァはギリギリまで人数増やしてて、5000人くらいは居そうな感じだったよ。イノセンシオはよくやってるよね。フェイヴァはある意味宗教としての役割も果たしてるから、心の拠り所として人心を掌握しているみたいだ。あとは……それらの大派閥に対抗しようと一般住民達で徒党を組んで20000人規模の集団ができているね。それ以外はトンプソン達みたいな小集団がそこそこあるけど、実力が計り知れないのはそういう小集団かな。貧民街の影で牙を研いでいた連中も多そうだよ」


「どこがどこを狙うだとか、方針みたいなものはあるかね?」


「マリスとフェイヴァは基本的に待ちの姿勢みたいだよ。一般集団は、数の暴力で大手を壊すとこまでは協力して、それが完了すればあとはご自由に殺し合いましょうって感じ。小集団がどう動くかで、状況は変わりそうだね。俺を追い回していた王国勢はマリスに協力するみたいだから、注意すべきだね」


「それなら我々のやることは変わらぬな」


「まぁ、いくら前情報があっても無理な時は無理だからね。うまく活用してくれれば助かるよ。二人には無事に脱出してほしいからね」


「下手を打たなければ、君の枠も確保できると思うが?」


「俺はあんな腐った地上に興味はないかな。こっちの世界の方が、幾分か人間味のある生活ができるしね。そういうわけで、あとは頼んだよ。欲を言えばマリスもフェイヴァも消してほしいけど、無理は言わないさ。じゃあ、ヴィクトリアさんもお達者で」


ポンポンとヴィクトリアの背中を叩くと、ルドはそのまま屋上から飛び出し、貧民街の喧騒に消えていった。


「ルドさん、地上で何かあったのでしょうか?」


「彼も含め、ここの住民は何かしらの辛い過去を背負っている。あまり詮索するものでもないだろう。さて彼の言う通り、情報を活かすも殺すも我々次第だ。何が起こるか分からないが、ルドの情報を無駄にしないためにも生き残るのだ」


「そうですね、頑張って生き抜きます」


ゴォォォォォン……。


ルドが去った後間もなくして、貧民街全土に重い鐘のような音が響き渡った。


それと同時に協会からのアナウンスも流れる。


『リベラノ儀ノ執行ニ伴イ、今現在ヨリ死ノ概念ヲ適用。繰リ返ス、死ノ概念ヲ適用……』


これと同時に、各所で絶叫にも似た雄叫びが上がった。


戦いに奮起する者、リベラの終結を怯えながら待ち望む者、様々な思いが交錯する。


戦いが開始された一方で、戦いに参加する者以上にこれを待ち望んでいた者もいる。


死ぬことも出来ず長年苦しみ続けていた者達だ。


「ようやく、死ねる……」


喜びを持って死んでいく者もいれば。


「許さん、許さん、許さ……ん……」


恨みを抱えながら死んでいく者も。




リベラ開始と同時に、リベラの外側で数万人の命が掻き消えた。


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