第5話 二大組織

ヴィクトリアとトンプソンの二人は、連れ立って大通りを歩く。


ヴィクトリアは外に出て早々、トンプソンから借り受けたスキルの効果を実感していた。


吹き荒ぶ風に乗って全身に叩きつける汚染物質も、肌に触れることなく通り過ぎていく。


全身を覆うコートは一瞬で汚れてしまったが、衣服の隙間から入り込んでくるはずの汚染物質がほとんど存在しない。


何より、大気汚染を気にせず呼吸をすることができる。


このスキルだけでも総合ディジットが5000も増加していたし、ズルをしているようで住民に申し訳ない気持ちになる。


だがここで暮らすわけでもないし、貸与という形だから大丈夫か。


そう思って自分を誤魔化すことにした。


「初めにやってきた場所とは随分雰囲気が違いますね。なんというか、活気があるように感じます」


トンプソン宅を出てから、すでに15分ほど経過している。


「モノの取引が可能な端末が中央方面にしかないから、必然そちらの人通りも増えるのだ」


すれ違う人間も多くなり、ぶつかりそうになるほどだ。


並んで歩いているのはヴィクトリアたちくらいなので、その度に邪魔だというような視線を向けられる。


ヴィクトリアはフードを目深に被ってその視線を受け流す。


「端末、ですか」


「実際に見ねば分かるまいな。っと、そうこう言っている間に見えてきたぞ。あれがそうだ」


ヴィクトリアの視線の先には長蛇の列が見える。


列の先には5つのボックスが連なって置いてあり、一人が出ていくとまた一人といった具合に出入りが見られる。


ボックスと言っても、パーテーション分けされて、そこにひさしが付いている程度。


利用者は白く光る四角い壁に触れて何やら操作しているようだった。


二人も周囲に倣って列の最後方に並ぶ。


「端末はここにしか無いのですか?」


「いや、同じようなものが繁華街の東西南北の4か所に設置されている。他にも個々の端末が所々に設置されているが、自宅から一番近いのがここなのだ」


「どこにでもあるわけではないのですね。この辺りが一番栄えている場所なのですか?」


「ここは繁華街と呼ばれる場所だが、ここを更に抜ければ中央の歓楽街に繋がる。そこの端末でしか取引できないものもあるから、場合によってはそちらに向かうこともあるな。しかし一般住民にとっては歓楽街は無用の場所。ゴールドプレート以上でなければ入ることができないのだ」


「私のプレートはシルバーですよね。スキルを貸して頂いた時に変化していましたが、どうすればプレートが変化していくのですか?」


「基本ディジットが1,000を超えればシルバー、10,000を超えればゴールド、100,000を超えればプラチナとなる」


「なるほど、それで私のプレートはシルバーなのですね。それではトンプ──んんっ!」


ヴィクトリアが口を開く前に、その口がトンプソンの手で覆われた。


「それ以上の発言は外では避けるべきだ。我々の会話も誰が聞いているかわからぬ。理解したかね?」


コクコクとヴィクトリアが頷いたことで、ようやく口が解放される。


「確かに、周囲へ不要に情報を与えてしまうところでした。申し訳ありません」


よく周囲を確認してみれば、後ろに並ぶ男も自分たちの会話に聞き耳を立てているようだった。


とぼけた顔をしてあらぬ方向を向いているのが、逆に怪しさを滲ませている。


「ここではそういった情報も取引に使われる。自分しか知り得ない情報ほど価値も高い。誰もが自分以外を信じられなくなり疑心暗鬼になるのも、この世界の特徴なのだ」


そう言われて周りを見ると、誰もが周囲に常に気を配りながら動いているようにも見える。


顔まで隠していない者であれば、それは一目瞭然だ。


自分たちのように顔を覆っている者も、顎を引いて顔を隠しながら目だけはキョロキョロと動いている。


見れば見るほど不審な動作の人間ばかりだ。


これでは信頼も何も存在しないな、と今更ながら得心する。


トンプソンと会話をしていると、そうこうしているうちに自分たちの順番が回ってきた。


「まずは操作を見ておくがよい」


まずトンプソンが白い画面──操作盤の下部にある手掌の型に触れる。


すると画面に文字の羅列が表示された。


やはり読めない文字だ。


トンプソンはその中の一つに触れる。


するとまた別の文字の羅列が表示されている。


トンプソンは次々と表示される文字に触れていき、最終的に手を離した。


同時に手掌の型の隣にあるスリットから紙が吐き出される。


その紙には簡易な地図と、そこに赤い点と文字でで何かが示されている。


それを手に取ると、トンプソンはボックスから離れた。


そのままヴィクトリアの手を取り歩き始める。


「この白いパネルで欲しいモノを選んで購入すると、触れている手掌からディジットが引かれ、そのモノを受け取ることのできる店舗が示される仕組みだ。先ほど行った操作で、飲食店と衣料品店へ注文が送られている。今からそれを受け取りに向かうとしよう」


「食事も受け取りなのですね。中で食事可能な店舗はないのですか?」


「大気汚染のせいで店舗内を清潔に保てる場所がないことから、基本的には全て受け取り形式なのだ。歓楽街へ行けば除染設備の整った飲食店もあるが、この辺りでは一つの店舗にそこまでのスペースは確保できないことが原因だ。道行く人間が荷物を抱えているのが見えるだろう?アビリティ以外の全てのモノはあのように梱包されて手渡される」


「何かしらを抱えている人が多く見られますね。アビリティの購入も先ほどの端末から行うのですか?」


「アビリティの購入には、また別の端末があるのだ。また見る機会もあるだろう。ひとまず今日は食事と生活用品の購入だけだ」


そのまま飲食店と衣料品店の窓口でそれぞれ小箱を受け取り、帰の途につく。


窓口では、先ほど手に入れた地図が引換券の要素も担っているらしく、それを確認してしばらくすると物品を受け取ることができた。


飲食店の奥を覗いても厨房も見えなかったし、料理は清潔な空間で行って、受け渡しだけを窓口で行なっているようだ。


衣料品店同様に、衣類の陳列も見られなかった。


ヴィクトリアは見知らぬ世界に違和感を感じながら、トンプソンのそばを歩き続ける。


「やあ、トンプソン」


ふと後方から若い声が聞こえる。


振り向くと、そこには小柄な人物がポケットに手を突っ込みながら立っている。


この人物も例に漏れずフードで頭を覆っているため顔までは見えないが、少し見える口元は幼い少年のそれだ。


ひとまずここは少年と仮定しておこう。


それにしても、背後からどうやってトンプソンを見分けたのだろうか。


「そのまま行くと面倒なことになるよ。しばらくここで立ち止まっていた方がいいと思うんだ」


「普段探しても見つからないのに、不要な時にばかり現れるものだ」


「はたして不要かな?俺が声を掛けなきゃ、非常に厄介なことになるのにね」


一人称的に男性であることは間違いないようだ。


自身を俺呼称する女性もいるらしいが、会ったことはないしそんな偶然はないだろう。


そんなことを考えながら、邪魔せぬよう口は挟まない。


「ふむ、君が言うのならそうなのだろうな。それで、どのよう面倒ごとが起こるのだね?」


「今回の情報料が先だよ。ピック……ほら、プレート出してよ」


そう言って少年が取り出したのは、トンプソンと同様の黒いプレート。


少年はトンプソンに肉薄しているため、それらが他人に見えていると言うことは無さそうだ。


すぐに荷物が邪魔になるであろうことに気づき、トンプソンから二つの小箱を受け取る。


「仕方あるないな。ピック、これでどうだ?」


トンプソンもプレートを取り出し、少年のプレートにしばらく触れさせて離した。


「お、いいね!やっぱり、地上産のアビリティは違うなぁ」


少年はプレートを確認して少しはしゃいでいる様子だ。


この姿だけだと、ただの少年にしか見えない。


「それで十分かね?」


「うん、充分だ。わざわざ忠告しに来てよかったよ」


二人とも、リーブと唱えてプレートを仕舞う。


「それで、アビリティを奪ってまで伝えたい情報とは何なのだ?」


「うーんと、このまま二人が進んでいたらちょうど先の十字路のところで、とある集団と鉢合わせする。そうすると即座に戦闘開始だ。せっかく逃げてきたのに心休まるどころじゃないよね」


「その集団とは誰なんだ?」


「トンプソンの隣の女性に縁が深い人たちだね。追って来たというよりは人探しのアビリティ目当てで来たみたいだよ。そしてどんな偶然か、同じ所にいたみたいだ。鉢合わせたらとっても面倒だよね?」


少年の最後の問いはヴィクトリアの方を向いて行われた。


「えっと、この方はいったい……?」


トンプソンと対等に話すこの少年は、一体何者なのだろうか。


「ああ、彼は情報屋のルド。法外な対価を要求してくるが、情報の精度は貧民街一だろうな」


「そうですか、ルドさん教えてくださりありがとうございます。追手となれば、おそらく夫の部下たちでしょう。情報が確かであれば、いずれ見つかってしまいますよね……。いかがいたしましょうか」


「ふむ……ここに来たのが裏目に出たか。ただ捜索系のアビリティやスキルを入手されれば、地上にいたとて同じことだろうがな。しかし追手の行動が早すぎるな。即座に貧民街入りするなど、よっぽどのことなのだろう」


「捕らえてどうするかは分からないけど、結構血眼になって探してるっぽいよ。お姉さん、何かしたの?」


「何かしたというよりは、何かをしようとしているところですね。しかし困りましたね……余程私の行動を阻止したいようです」


「まぁ俺は対価を得られたら何でも良いんだけどさ。あっちも結構スキル揃えてたみたいだから気をつけてねってことを言いにきたんだ。あと聞いてるか分かんないんだけど、しばらく貧民街から脱出は無理だから。しばらく鬼ごっこになると思うから頑張ってね」


「む……管理人が何やら言っていたが、内容は聞いておらんな。その情報も貰おうか」


「えー、そこまでいくと料金としては少し足りないんだけど?でも下手に取引回数消費したら制限にかかるしなぁ。割増で情報料渡したのってそういうことか。トンプソン、狙ってた?」


「さて、何のことやら」


「ちぇ、これだからやりづらいんだよなぁ。じゃあドクターにお願いしてさ、隠密系のアビリティかスキルもらってきてよ。俺って色んなところから狙われてるんだよね。俺の情報がなかったらトンプソンも困るでしょ?」


「懇意にしている情報屋が居なくなれば確かに困るな。しかしそれが事実なのかどうかは分からんな」


「狙われてるのは本当だって」


「しばらく出られないというあたり、次回までは時間が掛かるか……。いいだろう、我々が貧民街にいる間の協力を条件に、君に私のスキルを一つやろう。それならいいかね?」


「お、ラッキー!そういうことなら大歓迎だよ。最近貧民街もあちこち大変で、なりふり構わなくなってきてるんだよね。捕まらないようなスキルなら大歓迎さ。それで、どんなスキル?」


「まずは君を狙っている相手だが、どのような方法で君を追い詰める?」


「普通に人海戦術だね。犯罪とかも何でもござれって感じかな。その辺の情報も出すから、いいの頼むよ」


「では、これだな。『Mimic物真似』のスキルを渡しておく。これを使えば、触れた対象と同じ姿に変わることができる。これである程度は凌げるだろう」


「それはここでは見たことないスキルだなぁ。さすがトンプソン、色んなスキルを持ってるね。それもドクターが作ったやつかな?」


「そう、実験に関してはドクターの十八番だ。ここも大概特殊な環境でスキルも生まれやすいが、ドクターほど意図したスキルを生み出すことはできぬからな。そのお陰で貧民街でも通貨として利用しやすくなっている」


「そうやって外から持ち込むから、強力なスキルが出回ってることも忘れないでよね?俺が追われている状況も、そういうのが関わってるんだからさ」


「混沌こそ、この世界の常だろう。バランスを逸脱するようなものは持ち込んではいない」


「それならいいんだけど。じゃあ先にスキルを頼むよ。途中で邪魔が入っても面倒だからね」


再度トンプソンとルドによる取引が為される。


制限と言っていたことから、私の知らない取引のルールがあるのだろう。


「それじゃ早速。今の話も関係あるんだけど、力を持った人間が増えすぎているのが原因でバランスが悪いってことで色んなものを一旦元に戻すんだって。それが完了するまでこの世界から外に出るのはできなくなってるんだよね」


「では完了するまで待てば良いのではないか?」


「いやいや、そう簡単なものでもないんだよ。バランス修正の過程で、この世界にいる人間のアビリティとスキルが全て没収されてしまうらしいんだよね。それで困るのは上流階級の人間さ。貧困に喘ぐ人間達からすれば大歓迎なんだけどね」


「一方的に取り上げるのは横暴であろう」


「そう。だからその影響を受けずに居られる人間に制限を定めた。

人数も内容もまだ知らされてないけど、近く行われる何かしらのイベントで人員を選出するみたいだ。総合ディジット値が高い人物が選ばれるだろうという憶測のもと、取引が加速していてね。ディジット値の吊り上げがあったり、一般住民にも影響が大きいんだ。それに付随して、合法的な取引とは異なる方法でアビリティを集める連中もいてね。俺を狙ってるのはそういう連中なんだよ」


「ふむ、外から来た我々にも影響があるということか。非常に面倒な時期にやってきてしまったものだ」


「そうだよ。さっきは次に来た時とか言ったけど、次はないかもしれないんだ。

まぁ、俺はこのバランス修正に関してどっちでもいいって立場なんだけど、そうじゃない連中も多くてね。トンプソン達も、貧民街から出るなら無関係ではいられないよね」


「しかし発表があるまでは、行動もできぬな。我々に関しては追手の存在もある。厄介な制約が多いものだ」


「今は色んな連中が自分たちの思惑通りになるように活動してるから、行動しようとすれば何かしらの影響を受けると思うよ。それこそ悪意を向けられることが多いんじゃないかなぁ。俺を捕まえようとしてる連中も血の気の多い集団だからね。誰彼構わず下級層からも無理矢理アビリティを奪ったり、やりたい放題さ。トンプソンの住居のある下層も結構荒らされてるね。最近外で転がってるのは、そういう被害者が多いんだよ」


「無関係な方まで……!」


これにはヴィクトリアも口を挟んでしまう。


「お姉さん、考えが甘いなぁ。トンプソンと一緒だからって安心してるみたいだけど、どこから悪意が飛んでくるか分からないからね。生きるために皆必死なんだよ。お姉さんは高貴な身分だろうけど、あなたの生活だって、あなたが知らないだけで色んな人の命を虐げた結果得られてたものなんだからね。鬱陶しいから綺麗事ばっかり言わないでもらえるかな?」


「それは……」


「そう熱くなるな。生きる世界が違うのだ。それだけ考え方にも変化があろう」


「悪い悪い。なんか言い過ぎたよ、ごめんねお姉さん。……まぁ説明の通り、今はどこもかしこも混沌としてる。最終的にはどこかの組織に属した方がバランス修正の影響を受けなくて済むかもしれないけど、今更入ったところで幹部になれるわけもないからね。俺は俺でやりたいようにやってる感じだよ」


「いくつかの組織があるようだな」


「そうだね。力を持っている組織は大きく二つ。一つは俺を狙ってる犯罪集団であるマリス。もう一つは犯罪を行わず公正性を遵守する集団のフェイヴァ。

こいつらが貧民街の覇権を争っているね。バランス修正後も盤石な立ち位置を維持するために、彼らも必死なのさ。うまくいけば邪魔な敵対組織も潰せるしね。

トンプソンも貧民街から出ようと思ったら、必然的にこいつらとぶつかることになるかな。情報としては以上だよ」


「ふむ、情報については感謝する。ついでにそれらの組織の頭の名前も貰っておこうか」


「まぁ、そうくるよね……分かってたけど。マリスの頭はヴァンデット=ヴァイオレート。フェイヴァの頭はイノセンシオ=グッドウィル。教えたから、あとは勝手にやってね。んじゃ、トンプソンが情報を欲してる頃にまた現れるよ。スキルありがとう」


話すだけ話した後、ルドはそそくさと消えていった。


「ヴィクトリア殿、貧民街にやってきたせいで面倒ごとが増えたようだ。これから慌ただしくなるかもしれんが、私のそばにいる限りはなるべく安全を保障しよう。しかし地上と違い、何が起こるか分からないのが貧民街だ。ルドも言っていたが、絶対ということはない。そこは理解しておいてくれ」


「いえ、ついて来たのは私の意思ですし、問題はありません。むしろ知らない世界を見せて頂いただけでも感謝です。なるべくトンプソン様のお手を煩わせぬように行動しますね」


「そう言ってくれると助かる。ルドが去ったことから、このまま戻っても問題ないということだろう。今日はこれ以上の外出は控えて、このまま自宅に戻るとしよう」


「はい、そうしましょう」



            ▽



アイゼンはグレッグに連れられて歓楽街にやってきていた。


「よう、裏切り者の登場だ。よくもまぁ、俺様の前に顔を出せたもんだよなぁ!?」


ここはマリスの本拠地。


三人はその中のとある部屋に通された。


そこには、置かれた椅子に多くの女を侍らせて座る男が一人。


男の肌は黒く、腕だけでも女の腰ほどもある巨漢だ。


スキンヘッドで傷痕だらけの顔面にサングラスをかけており、一目見ただけで危険な男だということが分かる。


その他にも、武器を構えたガラの悪い下っ端達が3人を取り囲む。


下っ端達は鋭い視線を向けている。


「裏切るもなにも、目の前に訪れた運を掴み取っただけでさぁ。それを咎められる謂れはありませんなぁ」


「随分交戦的な態度だなぁ!?殺されてぇのか?」


「グレッグぅ、この偉そうなの誰?」


ミラの言葉によって、男のこめかみに更なるシワが刻まれる。


「テメェのツレも生意気ときたもんだ。死ににきたってことでいいんだよなぁ?」


男の言葉に合わせて、周囲の下っ端も動き出せる構えだ。


「彼はヴァンデット=ヴァイオレート。歓楽街を支配しているマリスという組織のトップでさぁ。ここは、あっしが元々所属していた組織でもありますな」


「へぇ、随分物騒なとこにいたんだぁ。それでぇ、こいつが色々教えてくれるのぉ?」


「グレッグ、そこの頭の悪そうな女を黙らせろ。これ以上俺をイラつかせるようなら、話も何もできなくなるぞ!」


「へいへい。ミラ、しばらくあっしが対応するんで、静かにしててくだせぇ。

何かあれば、あっしを無視して離脱するように」


「はぁーい」


「何かあるとしたら、テメェらが俺様の機嫌を損ねた時だけだ。それで、わざわざ戻ってきたってことは何かあるんだろ?戻ってこなきゃいけねぇ状況、って方が正しいか」


「ええ、人を探していまして。人探しの得意な人物もしくはそういったアビリティを持ってませんかねぇ?」


「俺らはテメェの小間使いじゃねぇぞ。何かを欲してるんなら、ここで生きていたテメェなら分かるよなぁ?」


「あっしらも出せるものは限られてますんで、条件を提示してくだせぇ」


「戻ってきてもみすぼらしい姿のままのテメェから取れるものなんて期待してねぇよ。だが、後ろのお偉いさんなら色々持ってそうだけどなぁ?」


「そいつは勘弁してくだせぇ。あの方を怒らせたくはないんで」


チラッと後方のアイゼンを確認するが、フードで表情までは見えない。


「それほどかよ。まぁ俺様も無駄に戦力を減らしたくはねぇからな。

そいつに喧嘩は売らねぇさ。とりあえず、ルド=アセットって情報屋を捕まえてこい。話はそれからだ」


「了解しやした。それでは、また近いうちに」


グレッグ達三人は去っていった。


「ボス、あいつらをあのままにさせてていいんです?ボスに対する生意気な態度には、俺は我慢なりません」


側近と思しき男がヴァンデットに話しかける、


「あいつらはあいつらなりに使い道がある。使えるうちは好きにさせてやるさ。

だが、一線は引いてある。それを超えるようなら俺様も容赦はしねぇよ」


「そうですか……」


「あいつらに監視をつけておけ。グレッグがあの方とか言ってたやつは得体が知れねぇ。あの女の方もふざけてたが、やりあうと厄介に違いない。泳がしてる間にあいつらの手札を把握しておきたい。『Covert潜伏』が使えるカイネスを付かせておけ」


「分かりました、すぐに向かわせます」


側近は素早い動きで部屋を出ていった。


「あいつらは一時的な滞在と考えているようだが、この時期に来たのが間違いだったな。いい感じに利用するだけして、最終的に全てを奪ってやる。ふっふふ……貧民街を支配するのはこの俺様だ。あとはイノセンシオのカス野郎さえどうにかすれば、俺様の黄金王国が完成するのも時間の問題だな。それまでせいぜい働いてくれよ、グレッグ?」


ヴァンデットは不適に嗤いながら、女達のからだを楽しむのであった。

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