第6話

「玉井くん」

「ああ、部長、お疲れ様です。」

「良いプレゼンだったよ。上の者の評価もかなり高かった。近々、開発が再開するかもな」

「そうですか。それは良かった。」

「ん?なんかあんまり嬉しそうじゃないね。まだ問題でもあるのかい?」

「…1つ、質問しても良いですか?」

「何だい?」

「部長はお子さんいらっしゃいますよね。僕の今回のプレゼンに対して、思うところはなかったのかなって…。」

「…あはは!あれだけ堂々と世論を覆すとか大見得切ったくせに、身内にはそんな感じなのかい?」

「すみません、身内になるとどうしても別の感情が入ってきちゃって。嫌われるのかなとか…。」

「まあ、気持ちはわかるよ。でも私はGrowは良い取り組みだと思うよ。」

「本当ですか…!ありがとうございます。」

「確かに、私は特殊かもね。」

「特殊?」

「………実は、みんなに言ってなかったことがあるんだ。」

「どうしたんですか部長。そんな改まって。」

「私の子ども、実は2人目なんだ。」

「……え、そうなんですか…。」

「1人目は…、自殺したんだ。19歳のときにね。」

「………。」

「子育ては妻に任せっきりで、私は一切関わらなかったんだ。妻は典型的な毒親って感じで、子どものことを管理するかの如くつきっきりだった。そして、息子は勉強に押しつぶされ、あげくあんなことに……。」

「……そう、だったんですね。」

「今日のプレゼンのβのケースに凄く共感した。まるで私の妻と息子を見ているかのようだった。だから、私は息子のような子を生まないためにも、Growには協力的なんだよ。」

「……部長。」

「頑張ってくれ。玉井くん。」

「……部長、実は僕も黙っていたことがあります。」

「ん、どうした?」

「プロトタイプを導入した世帯があると言いましたよね。子育てロボットに肯定的な世帯10組に。」

「ああ、言っていたな。それがどうかしたのか?」

「その世帯の夫婦に、子育てに対する考え方のアンケートを取ったんです。そしたら……、すべての夫婦はαのケースに該当しました。」

「え、それはつまり……」

「はい、子育てに興味の無い人ほどGrowに肯定的でした。逆に、子育てに対して意欲的な人は、Growを否定する傾向にあることもわかっています。これをプレゼンで話せば、不完全なプロジェクトにリスクは侵せないとして、企画が止められると思って…、話しませんでした。」

「……じゃあ、βのケースに苦しんでいる子どもを救うことは…」

「難しいと思います。今のGrowでは。……部長の期待に応えられず、申し訳ありません。」

「…………そっか。いや、いいんだ。君は気にせず、Growプロジェクトに力を尽くしなさい。」

「……はい。では失礼します……。」



「子どものためにとしたことが、子どもを苦しめる…。」



「親が子どもにしてあげられることって何なんだろうな。」

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Grow シジョウケイ @bug-u

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