第5話
「…………ということで、αとβの2つのケースを観察した結果、親の期待というのは小さすぎても大きすぎても、子どもに対して悪影響ということがわかりました。この観点から、我が社の子育てAIロボット『Grow』の開発・導入をいち早く進めるべきだと考えます。Growは子どもの遺伝子データをもとに、目標となる将来像と、それを達成すべく適切な育成方法を設定します。褒める、叱る、協力する、一人でやらせる、場面に応じた適切な子育てを、積み重ねた膨大なビッグデータから導き出すことで、完璧な子育てを行うことが可能です。しかも親は見ているだけ。自分の仕事や好きなことに打ち込めるという、Win-Winな関係を構築できます。また、これにより子育てに対する不安も解消され、少子高齢化の解決にも繋がると考えられます。これらの点から、私は早急にGrowの開発を進めるべきだと提唱します。以上で、商品企画部、玉井からの意見を終わらせていただきます。質問がある方は挙手をお願いします。」
「はい、一つよろしいでしょうか。」
「どうぞ」
「経営企画部の白田です。プレゼンありがとうございました。確かに、人間の親が子育てをすることでミスをするケースというのも多く存在しており、我が社が開発しているGrowがそれを解決し、不幸な子どもをなくすというミッションには私も賛成です。しかし、現時点でGrowの開発が一時中断している原因として、倫理的な問題が挙げられます。ロボットが子育てをするということに否定的な意見も多いこの世論を覆す手段などは考えておられますか。」
「はい。その点に関しましては、すでに手を打っております。数ヶ月前に、子育てロボットに肯定的な世帯10組にGrowのプロトタイプを試験導入しました。そして、その世帯に定期的にアンケートを実施し、それを大々的に公表します。肯定的な世帯だけにアンケートを取っているから適切な結果とは言えないという意見も出るでしょうが関係ありません。世の風潮を少しずつ、ロボット子育てに傾かせていきます。そして数年後、試験導入した世帯の子どもが何かしらで優秀な成績を収めれば、Growの成果が世に認められる。この大きなメリットが世の中を動かすでしょう。この方法は倫理的問題の直接的な解決策とは言えません。しかし倫理的問題というのはマジョリティの意見です。大きなメリットを打ち出せば、中立層は簡単に肯定派に移り、子育てロボットはマジョリティになります。」
「なるほど、確かにそうですね。」
「ついこないだだって、世界的アーティストがヒトES細胞で持病を治したっていうのが話題になったでしょ?あれをきっかけに、倫理的な問題で認められていなかったヒトES細胞を認める国が爆増しました。世論も肯定的な人が多くなりました。倫理的な問題というのはきっかけ一つで簡単に解決できるんですよ。」
「そうですね。ありがとうございます。私からの質問は以上です。」
「はい、ありがとうございます。他にありますか?」
「なさそうですね。では私からの企画提案のプレゼンを終了させていただきます。ご清聴ありがとうございました。」
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