第4話<β>

「次のニュースです。昨夜、○○県××市△△区の住宅で、20歳男性の遺体が発見されました。第一発見者は男性の母親で、即座に通報しましたが、救急隊到着後、死亡が確認されました。発見時は首を吊った状態で、遺体の側には遺書が残されていたことから、警察は自殺と見て捜査を進めています。男性は浪人生として受験勉強に励んでおり、そのストレスが自殺の動機であると、遺書の内容から考えられるとのことです。」



「さてここからは、受験コンサルタントの木島さんと、教育評論家の畑本さんをコメンテーターとしてお招きして、今回の事件の見解を伺いたいと思います。今回の事件は遺書の内容から、『受験』と『親の期待』と行った点が肝になってくると考えられます。まず木島さん、今回の事件についてどう思われますか?」

「はい、今回の事件は日本の大学受験に対する認識の問題点を浮き彫りにしたと思います。年々大学に進学する学生は増えてきており、大学に進むだけで凄いという時代は終わってきています。Fラン大学と呼ばれる大学も多くなってきています。その中で、人より価値を生むには、『より良い大学に進むこと』という考えに行き着きます。教育熱心な親が子どもをより良い大学に進ませることに必死になり、それが子どもを苦しめているというケースは、私も多くの受験相談をする中で見てきました。良い大学に進むことだけが人生ではないのに、それがすべてと思い込ませてしまう現代の風潮が、今回の事件の原因なのではないかと私は考えますね。」

「なるほど、確かに私も『受験戦争』という言葉には疑問を持っていました。大学というのは、行きたい人が行く場所であったものが、いつの間にか、行くのが当たり前になりつつあり、そのために必死に争うという価値観は、現代の若者を苦しめている問題の一つと言えるかもしれませんね。ありがとうございます。では次に、畑本さんの意見をお願いします。」

「はい、私も大体は木島さんの意見と同じです。ですが、私はもっと根本的な問題があると感じました。」

「ほう。根本的な問題。それは何でしょう。」

「親が子どもを自身の価値観で染め上げることです。小さい頃から子どもを自分の価値観で染め上げることで、自分を完璧に理解する子どもを育てて、ストレス無く子育てを完遂したいと考えてしまう親がやってしまう行為です。この行為のやっかいな点は、その親自身はこの行為を愛情だと勘違いしていることです。『自分は子どものためにこんなに親身になっている』、『自分と同じ過ちをしないためにも成功する道に導いてあげる』といった考えは愛情ではなく、単なる自己満足にすぎません。受験にしたって、親が正しいと思っている進路が、子どもを幸せにするとは限りません。ですから反抗したっていいんです。でも昔から、親の言うことは絶対であった子どもにとっては、『反抗する』という選択肢がそもそもないんですよ。だから受け入れてしまう。過度な期待と、それに応えられない罪悪感だけが膨らんでいってしまう。それが破裂した結果が、今回のような残念な事件を生んでしまったと私は考えます。」

「なるほど、ありがとうございます。」


「親の大きすぎる期待が子どもを追い詰めることもあるということですね。」

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