第3話<β>

「はあ、はあ、頼む…、お願い、します…!」

カチッ。

「…………あっ。」

<不合格>

「また…、また…落ちた…。」


コンコンッ。ガチャ。

「こうくん。結果はどうだったかな。今回はこうくん、最後の模試でもB判定取ってたし、さすがに…」

「…落ちたよ。」

「えっ?」

「今回も、ダメだった。」

「………。」

「…もう、無理だよ…。医学部なんて僕には到底…。」

「そ、そんなことないわよ!こうくんは頭も良いし、器用でなんでも出来るんだから…。医学部はぴったりだとお母さんは思うわよ!」

「でも、もう三浪目に入るのはさすがに…」

「こうくん!」

「…!」

「お金の心配をしているのね!大丈夫。そのことならお父さんとお母さんでなんとかするから!こうくんが一生懸命勉強に集中出来るようにサポートもするから!期待に応えてちょうだいね!」

「……う、うん。ありがとう、お母さん。でも、滑り止めの大学は受かってて…、そっちは工学部なんだけど、そろそろ医学部を諦めてそっちに行った方が良いと…思うんだ。僕のやりたいことができるのは、むしろこっちの方で…」


「…こうくん。」

「あ、いや…えっと…」

「もちろん工学部も素晴らしいと思うわ。主に理系の技術職として採用されるのかしらね。電機メーカーや、エネルギー会社、通信・IT業界など多くの選択肢がある。でもね、やりたいことだけでは良い暮らしをするのは難しいのよ。」

「………。」

「工学部に進んで、就職したとしても、所詮は雇われの身。収入には限界があるわ。どれだけ頑張って出世して役員になっても、1000万円から3000万円ほどかしらね。それもこうくんが40歳、50歳にくらいになってから。しかも出世競争ていうのは必ずしも優秀な人が生き残るって訳ではないの。ずる賢く立ち回るような人が生き残ったりするのよ。そんな理不尽な戦いにこうくんは勝ち残る自信はあるの?それに比べて、医者の平均年収は1300万円ほどなのよ。医学部に入って一生懸命勉強さえすれば、それほどの収入が手に入るのよ。もちろん最初はそんなに貰えないかもしれないけど、勤務医でも30歳近くで1000万円ほどが貰える。開業医になれば、自分で病院経営をするのだから、収入に限界はないの。これから景気も悪くなる。たくさんのお金が必要なの。わかる?私はこうくんのために医学部を薦めているの。これだけ説明しても、まだ医学部を諦めるなんて言うの?」

「……ごめん。僕の理解が足りてなかった。」


「……そう。わかってくれたなら良かった。ごめんね、私もこんなに言うつもりじゃなかった。………お夕飯つくるわね!おなかすいたでしょ?とりあえずこうくんの好きなハンバーグを作るわ。」

「……うん、ありがとう。」

「うん!じゃあサクッと作っちゃうわね」

ガチャ。バタン。



「期待に応えなきゃ……。」

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