精霊救出作戦開始!

「まあ、こうするしかないよなぁ【弱点補足】」


 ミスリルゴーレムが攻撃を止めて、またゆっくりとこちらに向かって動きだした出したあたりで、俺は【弱点補足】を発動。

 出てきた透明な矢を弓につがえて弦を引き絞る。


 狙うのは膝。

 なにをするにしても、ミスリルゴーレムは遠距離から攻撃することは出来なそうだからまずは機動力を奪う。


 ……まあ、すぐに再生するんだろうけど。

 それでも足の1本でも壊せれば少しは余裕が生まれるはずだし。


「【魔法矢・全弾発射】!」


 MPを4500使って作った【魔法矢・全弾発射】を放つ。

 射ち放った【魔法矢・全弾発射】は、分裂しながらミスリルゴーレムの右膝に直撃。

 分裂した【魔法矢】がミスリルゴーレムの右膝に直撃すると、硬いミスリルの体を削り右膝を破壊する。


 右膝が破壊されたミスリルゴーレムはバランスを崩して地面に倒れた。

 何本か腕に防がれたけど……狙い通り膝は破壊できたな。


「おっし!」


 これで少しぐらいは、機動力が落ちてくれれば良いんだけど……。

 俺は地面に膝をついたミスリルゴーレムを見つめる。


 ……うん。さっさとどうにかした方がそうだな。

 すぐに膝の辺りの体がが盛り上がってきて、元の形に戻っていってるし。

 やっぱりミスリルゴーレムを倒すにはHPを削り切るよりも核を壊すのが一番か……。


 ……でもどうやってあの核を壊す?

 四本の腕による攻撃は避けられた。だから精霊を助けるためにふところに入り込めはする。

 ただ、問題はやっぱり体から生えてくる槍だよな。

 精霊を助けるために近づけば突然一気に槍が飛び出してきて串刺し……。


「痛いじゃ済まなそうだしなぁ」


 いっそのこと避けるんじゃなくてあの生えてきた槍は破壊する方向にするか?


 多分、ミスリルゴーレムから生える槍は核の防衛のためだけの機能だろうし。

 だけどそうなると攻撃力が足りないよなぁ……。

 あの槍もミスリルゴーレムの一部には変わり無いんだし。


 せめてどっちか一つだけならどうにか出来るんだけど……。


「シルフィ、どうだ? なにか思いつくか?」


 なら俺が思いつかないならシルフィに思いつくかどうか賭けるしかない。

 俺はシルフィにそう問いかける。

 今のシルフィがどこまで出来るか俺は知らないし、何か俺が知らない良い手があるかもしれない。


「……ごめんカエデ。何も思いつかないや……」


 ……とは言ってるものの、その小さな体を縮めて申し訳なさそうにしてるけど……。

 なにか言いたそうなシルフィを見る限り、何も思いつかないなんてことはなさそうだな……。


「……シルフィ、正直に言ってくれ。何を思いついたんだ?」


「……でも……」


「大丈夫だ。大丈夫だから」


「……わかったよカエデ。アタシの考えた作戦は──」


 シルフィに言いたくないことは言わせないようにして、優しく声をかけ続けると、観念したのかシルフィはゆっくりと言葉を紡ぎだす。


「……あぁ~……。なるほどな。確かに、今のところはそれが一番良いだろうな」


 シルフィから考えを聞いて、作戦を実行出来そうかを考える。

 ……うん。多分、大丈夫なはずだ。


「オッケー。その案でいこう」


「でも……カエデ、本当に大丈夫なの?」


「まあ、それしかないだろうからな。……もうすぐミスリルゴーレムもまた動き出すからな」


 俺が膝を破壊したはずのミスリルゴーレムは、すでに再生が終わって立ち上がりはじめていた。


「ほら、シルフィ。頼んだぞ」


「わかった……」


 俺の言葉に、シルフィは渋々といった感じで返事をすると、俺の背後に隠れるように移動した。


「……よし。それじゃあ……行くぞ……!」


 ***


『作戦は単純よ。カエデはただただ最短距離でミスリルゴーレムに突っ込んで』


 シルフィの作戦を頭の中で再確認しながら、俺はミスリルゴーレムに突っ込む。

 すると、俺が進む先に四本の腕から繰り出される連続攻撃が襲ってくる。


『突っ込む? いやいやシルフィだって見てたろ。腕の攻撃を避けても、槍が生えてくるんだぞ?』


『わかってる。だからカエデはあいつから生えてくる槍だけに集中して』


『槍だけに? だけどそしたら腕の方の攻撃が……』


『もちろん腕の攻撃も避ける必要はあるよ。でも……大丈夫』


 俺はその攻撃を避けず、防御もせずシルフィに言われた通り、槍だけに意識を集中させる。


『腕の攻撃は……アタシがカエデを助けてみせる!』


 繰り出される四本の腕による連続攻撃。

 このまま進んだらまたさっきみたいに俺に直撃コースだ。

 だけど……。


「風よ!」


 俺にミスリルゴーレムの攻撃が当たる前に、俺の背中に強い風が吹いた。


 それは俺を後ろから押し出すような強い風で、四本の腕の攻撃を避ける必要すら感じず……というか四本の腕も風で軌道をそらされて当たることはない。


「さすがシルフィ! 完璧だ!」


 シルフィの考えた作戦は、シルフィが俺の背後から風の魔法を操作。

 四本の腕の攻撃から俺をシルフィが強引に回避させて、ミスリルゴーレムに突っ込むって感じだ。

 そしたらあとは簡単だ。


「それはもう見た! 【魔法矢】!」


 ミスリルゴーレムから生えてきた槍を避けるだけだ。

 槍が生えてくる攻撃も一度見たし、腕の攻撃も気にする必要がない。

 それに、そんな不意もついてこない攻撃なんて対処は簡単だ。


 ミスリルゴーレムの体から伸びてくる槍を避けて、避けきれない槍は【魔法矢】で受け、俺の体を無理矢理動かして避ける。

 いくら俺が近接戦闘は本職じゃないからとはいえ、このぐらいなら造作もない!


「うぉぉぉおお!」


 槍を避け、【魔法矢】で受けながら、精霊が捕まっている結晶に一気に近づく。

 近づくとさっきと同じように、体を変形させて槍を生やす量を増やし、足から槍が生えて襲ってきたりするけど……そんな攻撃には目もくれない。


 多少の傷は仕方ないと割り切って、俺は結晶に向けて突っ込む。

 頬にかすり、横っ腹にかすり、腕にかする。

 とにかく致命傷は避けてミスリルゴーレムに近づく。


「くらぇぇぇえええ!!! 【魔法矢】!!!」


 そして、結晶の前まで近づくことが出来た俺は両手に【魔法矢】で透明な矢を作り出して、腕を振りかぶった。

 そのまま結晶に向けて、うっすらと見える精霊の影を避けるように結晶に叩き込む!


「いっけぇえええ!!!」


 腕を振ると、【魔法矢】はガシャンッとガラスを割ったときのような音を立てながら結晶へ刺さる。

 すると、ゆっくりと結晶にヒビが入り始め、そのヒビはだんだんと早くなっていく。

 そして……。


「うおっ!?」


 青い光がヒビから漏れだして、同時に水があふれだした。


 その水にのまれないために、俺は動きの止まったミスリルゴーレムを無視して、後ろに跳んで結晶から距離を取る。

 動きの止まっていたミスリルゴーレムだが、胸にある結晶から出る水で壁まで押し流されてしまっていた。


 しっかしこれはすごいな……。

 俺は水がでてきた瞬間、すぐに退避したからそこまで水による被害はそこまでないけど、水の発生源のすぐそばにいたミスリルゴーレムは完全に流されてしまってる。


 どういう原理かわからないけど、ミスリルゴーレムが流されるぐらいだ。

 相当な水圧なんだろう。

 ちなみにシルフィは一人すい~っと高度を上げて、俺のに巻き込まれないようにしてる。

 ずるくない?


「うっわ~……すごい水だね。カエデ、うまくいった?」


「ああ。うまくいったよ」


 靴含めて、脚が濡れる感覚を味わいながらそう答えると、シルフィは嬉しそうに飛び回る。


「それで? この後はどうするの?」


「そうだなぁ……どうするか……」


 動けるけど水で動けなくなってるのか。それとも水は関係なく動けないのかわからないミスリルゴーレムを見る。

 シルフィの時はモンスターの体じゃなくて、飾り物みたいな感じで今みたいな状況ではなかった。


 けど、シルフィの時は水ではなく強い風が吹き荒れていたよな? 確か五分ぐらい。

 ……あれ? これまずくない?


 もし、シルフィの時と同じように五分ぐらいあのミスリルゴーレムを流す勢いで水を放出し続けてたら……。

 ……ちゃんとあの水、俺が溺れる前に止まるよな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る