水の大精霊と決着
「うふふふふ。やっと出ることが出来ましたね」
それからだいたい二分ほど経った頃。
俺の膝下まで部屋の水位が上がったところで水が止まった。
うん。良かったよこのまま部屋いっぱいに水が貯まって溺死なんてことにならなくて。
あのままのペースで水が増えてたら一時間もしない内に俺は息が出来なくなってただろうし。
で、水が止まって、背中から倒れ込んだミスリルゴーレムの胸にあった結晶が砕けて出てきたのは。
「久しぶりの外の空気です」
かわいらしい水色の羽をぱたぱたと動かしている小さな青い髪と瞳の精霊だった。
大きさもシルフィとほぼ同じだし、羽があったりと言った特徴的に捕まってた精霊だな。
そんなミスリルゴーレムの近くにいた精霊が俺を見ると、近寄ってきて口を開く。
「貴方様がわたしを助けて下さったんですか? 助けていただきありがとうございます」
ペコリと頭を軽く下げてお礼を言ってくる精霊。
「どういたしまして。助けられてよかったよ」
「うんうん! ディーネを助けられて良かったよ!」
俺がそう言うとシルフィはぶんぶんと首を縦に振る。
……てか今さらっとシルフィ名前を呼んだ? もしかして知り合い?
「ふふっ。シルも助けてくれてありがとう」
「あ、やっぱり二人とも顔見知りな感じ?」
シルフィにディーネと呼ばれていた精霊は、シルフィににっこりと笑ってお礼を言い、そのお礼を受けてシルフィも嬉しそうにする。
そんな二人に俺は質問をぶつけると、ディーネは首をかしげた。
「知り合いと言うか……お友達ですね」
「だよ! ディーネとはずっと昔からの友達! 少ない同年代の友達なの!」
……同年代? まあ、確かに見た目は完全にシルフィと同じぐらいに見える。
けど同年代は無理がないか?
今もシルフィがディーネという精霊に抱きついて頭を撫でられてるけど、シルフィと同年代には見えないな。
完全にディーネと呼ばれていた精霊の方が結構年上──お姉さんとか、お姉ちゃんって感じがする。
「……それにしても……。人間さんがわたし達を見れることにも驚きですけど、まさかシルと一緒に助けて下さるなんて思いませんでした。よろしければお名前を教えてもらえませんか?」
「俺か? 俺は天宮楓。シルフィとはちょっとした縁があって一緒にダンジョンの探索をしてる探索者だ。よろしく」
「アマミヤカエデ……それではカエデ様と呼ばせていただきますね。
わたしは水の大精霊のウンディーネともうします。ぜひシルと同じようにディーネと呼ん下さい」
「俺も呼び捨てでも良いんだけど……。わかった。じゃあディーネと呼ばせてもらうよ」
「ええ。お願いします」
ウンディーネはにっこりと笑って頷く。
シルフィとは違って、ディーネはどちらかというと温厚で物静かな感じがする。
……まあ、シルフィより見た目が大人っぽいし、同年代とは思えないだけだろう。
だからこの背筋が凍る感覚は気のせいだろ。そうに違いない。
「ねえねえそういえばディーネが出てこられたのは良いことだけど、あのミスリルゴーレムってどうするの?」
俺がディーネと話していると、シルフィが思い出したように手を叩いてそう言った。
確かに、ディーネと話し始めてしばらく経つ。
ミスリルゴーレムが動き出しててもおかしくは無い。
だけど、こんな風にゆったりとディーネと話せてるのは──
「いや、どうするって言ってもなぁ……あいつどうしようもなさそうだし」
──俺の視界の先で、背中から倒れた状態からなんとか起き上がろうと四本の腕と足をジタバタさせているミスリルゴーレム。
おそらく、さっきまで俺を苦しめていたあの四本の腕のせいでバランスがうまくとれてないんだろう。
起き上がれそうな時もあったけど、その度にまた倒れていた。
「わたしとしては捕まっていたのもあるのでわたしの手で倒したいのですけど、わたしのような水の精霊は攻撃は不得意ですので。それに魔力も吸われていましたし今のわたしでは倒せませんね」
「……まあ、動けてないっぽかったから放置してたけど……そろそろ放っておくと起き出しそうだよな……」
とりあえず情報収集はこの辺で終わりにして、あのミスリルゴーレムを倒さないとな。
シルフィの友達らしいディーネから詳しく話を聞くのはまた後で落ち着いてからにしよう。
「それじゃあディーネは倒せないっぽいし……。シルフィがやるか?」
答えはわかってるけど、一応シルフィにもどうするか聞いておく。
「ん~…………カエデ、お願い♪」
「……はぁ。まあ、そうなるよな」
別に良いんだけどさ。
ディーネを助けられたから核を直接狙えるし、倒れて動かないから俺からしたらただの的だし。
「それじゃシルフィはディーネと一緒にいてくれよ……【弱点捕捉】」
シルフィとディーネから離れてから、改めて【弱点捕捉】を使っていく。
すると、初めてミスリルゴーレムに使った時と同じように膝や腕の関節部分、そして胸辺りの核の部分が赤く見えるようになった。
もちろん、ディーネは助けられてるから結晶部分が赤く光るなんてこともない。
完全に核が狙い放題だな。
「うっし……そんじゃ、終わらせますか……。【魔法矢・全弾発射】!」
倒れて四本の腕と足をジタバタと動かしているミスリルゴーレムの核を狙って龍樹の弓の弦を引き絞り、核の赤い光点へ狙いを合わせる。
そして、残りのMPの殆どを使ったそのまま狙いを垂直に上の天井へ狙いを移して矢を射ち放つ。
射ち放った透明な矢はそのまま真っ直ぐ飛び、天井に近づいて天井に当たる前に──曲がる。
さらに、次々と透明な矢は分裂していき、ミスリルゴーレムへと飛んでいく。
当然、透明な矢がミスリルゴーレムに見えるわけもなく、先頭の矢に反応すら出来ない。
唯一の懸念であった【魔法矢】の気配だったりを感じられ、対応されるということもなかった。
となればもう結果はわかりきったようなものだ。
「砕けろ……!」
俺がそう呟いた瞬間、最初の一発目の【魔法矢】がミスリルゴーレムの核を守っているミスリルの胸に直撃する。
そして、その一発を皮切りに分裂した【魔法矢】が次々とミスリルゴーレムの核に直撃していく。
ただ、ミスリルゴーレムもやられるがままでは無い。
さっきまで起き上がるために使っていた四本の腕を胸を守るように交差して【魔法矢】から守ろうとする。
こうなったら俺のMPの殆どを使った【魔法矢・全弾発射】とミスリルゴーレムの削りあいになるな。
だけど……。
「甘いぞ!」
それだけで防ぎきれると思ってるのか?
だとしたら考えが甘い。
いや、ミスリルゴーレムが考えてるのかわからないけど。
そもそも俺は一回射った時にミスリルゴーレムの膝を狙って4500MPを使った【魔法矢・全弾発射】を撃っている。
それでも問題なく膝を破壊できたんだ。
俺の今のMPは昨日【MP増加】のスキルレベルを上げていたからMPの総量は35000を超えている。
そのMPの大半をこの【魔法矢・全弾発射】に使ってるんだぞ?
「そう簡単に守りきれると思うな!!!」
ミスリルゴーレムが防御したことで、まず俺の射ち放った【魔法矢・全弾発射】が一本目の腕を削り落とす。
それと同時に分裂した透明な矢は二本目の腕に命中する。
一本目の腕と同様にミスリルゴーレムは二本目の腕も上げてガードしようとするが、それも破壊する。
そして、三本目、四本目の腕も同様にして破壊した。
最後の悪あがきか、ミスリルゴーレムは体全体で転がり始めた。
けど、それは予想の範囲内だ。
その程度じゃあ俺の【弱点捕捉】からは逃げられない。
ミスリルゴーレムが転がったことで分裂した【魔法矢】は避けられるが、天井に射った時と同じだ。
転がったミスリルゴーレムを追って【魔法矢・全弾発射】は床に当たる前に、ミスリルゴーレムの核に向かって殺到する。
ミスリルゴーレムには高い再生能力ももはや再生が追いついていない。
少しずつ俺が射ち放ち、分裂した透明な矢がミスリルゴーレムの胸を砕いていく。
そして……。
「これで……終わりだ……! 砕け散れっ!」
俺がそう叫んだ瞬間、全ての【魔法矢】がミスリルゴーレムの胸に炸裂し、核を守っていた装甲を砕き核を露出させる。
そして、残った【魔法矢】が露出した核を滅多打ちにする。
その最後の一撃がトドメとなった。
ミスリルゴーレムの核は【魔法矢】で粉々に砕け、その残骸をキラキラと光らせる。
それと同時にミスリルゴーレムの動いていた足がピタリと止まり、力がなくなったようにズシンという音を立てて再生中だった腕を床へと落とす。
そのせいで部屋に貯まっていた水が跳ね、水飛沫が俺にかかる。
だけど、今さらそんなことはどうでも良い……終わった……よな?
『レベルが85上がりました』
それと同時にミスリルゴーレムが完全に力尽きたことを知らせるかのように、レベルが上がったというアナウンスが流れる。
「お、終わった~~~!!!」
ようやく倒れた……。
まったく……一時はどうなるかと思ったけど、倒せて良かった……。
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