迷宮新造……Gの脅威
走る、上る、たまに射つ。
ここ、巨躯のダンジョンは以前潜った灯火のダンジョンと同じBランクダンジョンだけど中継地点がないから中ボスのアイアンゴーレムを倒してもこうして帰り道のマラソンはしなくちゃいけない。
中ボスであるアイアンゴーレムを倒した俺は、帰りを急ぐためにひたすらダンジョンを走る。
まあ、今となっては楽なものだ。
「ということで到着っと」
中ボスの部屋を出てから大体二、三時間かけて、地上まで戻ってくることができた。
「う~ん。疲れた~」
「お疲れさん」
俺の内ポケットで伸びをしているシルフィに労いの言葉をかける。
「ふぃ~、やっぱりカエデがおもいっきり走るとここにいてもすっごい風を感じちゃって疲れちゃうよ」
「まあ、大分深く潜ったからその分早く、長く走ってたしそれも仕方がないよな」
実際夕飯を食べるために【神風】も使って走る速度を上げて帰ってきたし。
「まあ、とりあえず夕飯にしよう。腹減ったよ」
「そうだね~。あ~……お腹空いた~」
そんな言葉をシルフィと交わしながら巨躯のダンジョンからホテルまでの道を歩き始める。……のだが、なにかおかしい。
道を歩きながら辺りを少し見てみるけどどうもちょくちょく慌ただしそうにしている人達がいた。
それに、そんな慌ただしそうに道行く人の大半が防具を着込んでいたような……。
こんな時間からダンジョン探索か?
「ねえねえカエデ、なんか慌ただしそうにしている人が多いけど……なにかあったのかな?」
「いや、わからん。なにか事件でもあったのかな?」
ということで道行く人の邪魔にならないように少し道の脇に逸れてから情報収集のために【アイテムボックス】からスマホを取り出す。
これだけ探索者らしき人達が慌ただしそうにしてるんだから絶対になにかダンジョン関係であっただろ。
調べるキーワードは探索者っぽい人が大半だったことからダンジョンについてだ。
「え~っと……」
検索、検索っと……。お、ニュースサイトの記事が出たな。どれどれ……。
「あ~……。なるほどな」
「なになに? なんかわかったの?」
俺が一人スマホを見て納得していると、シルフィが話しかけてきた。
「そうだな。うん。わかったぞシルフィ」
「なになに?」
俺が言葉を返すと、シルフィが内ポケットから身を乗り出すように話しかけてきた。
「ほら、これこれ」
そんなシルフィにさっきまで俺が見ていたスマホの画面を見せる。
「えっと……。
「そのままの意味だよ。新しくダンジョンが出現したんだ」
そう、俺が見ていた記事とはダンジョンがまた新たに都心で出現したというものであった。
こんな新しくダンジョンが突然なにもないところから出現することを迷宮新造と呼ぶ。
どうして新しくダンジョンが生まれるのかなんかはまだ研究中だけど、現時点ではどんどんダンジョンは増える一方だ。
「対応したのはアストラル……。神崎さん達かな?」
そのままスマホの画面をスクロールしてニュースサイトの内容を見ていと、対応したのは【アストラル】だと書かれている。
探索者協会の見解だと暫定Aランクダンジョンらしいし神崎さん達が対応しててもおかしくないよな。
「へー。てことはその新しいダンジョンの方に人がいっぱい必要だからあんなに忙しそうにしてたのかな?」
「……いやぁ? 確かにそれも原因の1つだろうけど、それだけじゃないな。多分」
「え? どういうこと?」
シルフィの推測に対して俺は首を横に振りながら否定する。
俺も最初はそう考えたけど、どうもそんな単純じゃあ無いらしい。
「どうもこの新しいダンジョン出てくるモンスターやら環境が相当厄介らしいからな~……」
現時点で公開されているダンジョンの情報を見ていくけど……うん。これはひどい。
まず、ダンジョンのランク。
暫定だけど、モンスターの強さ、環境からSランクに近いAランクダンジョンと認識されてるらしい。
Aランクダンジョン……。しかもSランクに近いとなると出てくるモンスターが一種類じゃなくて複数の種類のモンスターがいる可能性が高い。
そして、現時点で確認できてる出てくるモンスターは……。うっわー……やだやだ。この出てくる情報だけで想像するのも嫌になる。
名前はまだ決まっていないらしいが、現時点で出現してるモンスターはG……まあ、端的に言ってしまえばゴキブリだ。
あの台所なんかにいそうなイメージが強い、黒光りする虫のG。
しかも一匹一匹の大きさが大体ボーリングぐらいの大きさで毒を持っているときたもんだ。
そんなゴキブリがダンジョン出来立てなのもあって絶え間無くヤッホーしてくる空間……。
「うおぉぉぉっ……! 背中がぞわぞわしてきた……!」
ダメだ。考えちゃダメだ。これは本当に考えたら負けのやつだ!
探索者やっててグロいのだったり気持ち悪いのにも耐性がある俺に想像だけでこんなにも精神的にダメージを与えてくるG……恐ろしいやつだ。
しかもこのGに加えてダンジョン内は密林に沼地が混ざったような環境らしい。
毒を持っているGが木々の間だったりから飛来してくるなどもあって武器も完全にとはいかないけど溶かされ、毒に侵され、状態異常に陥っていく。
更にはGなだけあってなかなかしぶとく、数も戦闘中だとさらに増えるくるらしい。
まさしく一匹見つけたら三十匹は居るという状態。
うん。絶対に嫌だ。
「うげ~っ……。そんなのがウジャウジャしてるとか……」
俺の話を聞いて、想像したのかシルフィがまた内ポケットの中で身震いをする。
「ま、まあ……これが探索者達が慌ただしそうにしていた原因かな?」
解毒ポーションや武器防具を買い取っているともニュースサイトの最後に探索者協会の記事にもあったし、あの慌ただしそうにしていた人達はこれを見たのかな。
「な、なるほどね~。それで? 楓はどうするの? このダンジョンに行くの?」
「いやいや、流石に無理無理。まだ普通のAランクダンジョンならもう少しレベルが上がったら行けたかもしれないけど、Sランクに近い。しかも毒なんかの状態異常にしてくるダンジョンとなるとまだまだ俺は無理だよ」
正直、今のレベルじゃGの毒抜きにしても普通に死ぬと思う。
物資を買い取りに出そうにも、解毒ポーションは俺が状態異常にしてくるモンスターが出てくるダンジョンを避けてたから持ってないし、武器防具なんかは普通の探索者が使わないような装備だ。
まあ、武器防具に関しては絶対に売るわけがないけど。
「ま、今はダンジョンが出てきたばっかりだったからここまで騒がれてるだけで少ししたらこの騒ぎも落ち着つくさ」
「そっか~。まあ、わざわざ危ないところに行く必要も無いか」
「そうそう。それにシルフィの仲間も探していかなきゃだしな」
とりあえずニュースで出てきたGが湧かない環境でのモンスターの出てくるダンジョンに関しては当分放っておいても良いとは思う。
てか潜りたくない。
「んっふっふ~。ありがとね。カエデ」
シルフィはきょとんとした顔になったがすぐに笑顔になってお礼を言ってきた。
「いいって。もうシルフィに協力するってことは決めてたんだし、なによりシルフィが一緒にいてくれるだけで嬉しいからな」
実際、一人で黙々とダンジョンに潜るよりもシルフィという話し相手がいることでモチベーションにも繋がってるし結構助かってる。
「そ、そう? そういってくれると……その……アタシも……う、うへへ……」
俺の言葉を聞くとシルフィは恥ずかしそうにしながらまた内ポケットの中に入っていった。
「さてと。それじゃあ明日またしっかり探索するためにもさっさと帰って飯食って寝よう」
「う、うん。そう……だね! 早く帰ってご飯食べよ!」
シルフィが少し焦った感じで返事をするけどなんかあったのだろうか? ……まあ、いいか。
俺はそんなシルフィの反応が少し気になったが、特に何も言わずにホテルに帰った。
なお、シルフィがいるのもあって、お高い部屋で泊まっているからルームサービスがあるのだが、頼みすぎて結構高い請求が来てしまったのはまた別の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます