アイアンゴーレム戦
後ろから重い重低音が響く。
振り向かなくてもわかる。しっかり俺が挑戦したという証明のために扉が閉じられていく音だ。
そして、そのまま扉がゆっくりと閉じていく音がしばらく響いていたが次第に静かになり、完全に閉まったところで急に静寂に包まれた。
その瞬間、壁につけられた燭台に火が灯る。燭台に火が灯るのと同時にボス部屋は完全な暗闇から薄暗い程度まで明るくなる。
それと同時に、暗くて見えなかった奥の方に隠れていた巨体がのそりと動き出す。
「で……」
「デッカァァァッ!!!?」
俺の声をかき消すようにシルフィが叫ぶ。
それもそうだ。
目の前にいる中ボスであるアイアンゴーレムの大きさは、ゴーレムより大きい20メートル。
単純にゴーレムの二倍の大きさで、その体はアイアンという名に恥じず白い金属光沢を放っている。
それはまるで、自分の存在を主張するかのように。
これを実際に見たら、確かにゴールド資格所持の探索者含めたパーティーが壊滅しそうになったのもわかる。
まあ。
「【鑑定】! 【弱点捕捉】!」
それも普通に戦ったらだけど。
【鑑定】をしてアイアンゴーレムのHPを確認してから【弱点捕捉】を使って弱点の核に狙いを定める。
俺がそんな一連の行動をしている内にもアイアンゴーレムは動き出し、近づいてくる。
だが、遅い。
ゴーレム達と比べると動きがだいぶゆったりとしている印象だ。
だけど一歩が大きい分移動速度はそこまで差はないといったところ。
「よし。これで後は……【魔法矢】」
そして、それを確認してから【魔法矢】で透明な矢を作り上げて龍樹の弓につがえる。
「え? ただの【魔法矢】なの?」
「ん? そうだよ。それがどうかしたのか?」
「いや……だってフルバーストの方じゃないの?」
「ああ今回はこれで良いんだよッ!」
シルフィの質問に答えながら【魔法矢】を射ち出す。
俺が射ち出したただの透明な【魔法矢】はアイアンゴーレムの硬い鉄の体に直撃した。
それを見てから【鑑定】して確認したアイアンゴーレムのHPを改めて再確認する。
そのHPの総量が55000。
そして、今【魔法矢】が当たった後のHPが54570だから一回の【魔法矢】で430HPを削れたってことになる。
……まあそれも凄まじい速度で回復してるし、関係ないとばかりに地響きを響かせながら近づいてくるけど。
「ちょ、ちょっとカエデ? 効いてるように見えないけど今の一発で……終わり?」
「いいやまだだ。てなわけで……撤退!」
そう言ってから俺は全力でバックステップをしてアイアンゴーレムから距離をとるように扉まで下がってから開くのを待ってボス部屋の外に出る。
俺がボス部屋の外に出たら、開いた扉はまたゆっくりと閉じていく。
よしよしよし。これでよしっと。
だけどさっさとまた攻撃しないとアイアンゴーレムの再生力じゃすぐにまた扉が開くだろうな。
「え? ……えぇぇぇぇええ!?!?!? 待ってあの部屋から出てきちゃっていいの!?」
そんな俺の行動を見たシルフィは内ポケットから勢いよく飛び出して叫んでくる。
「問題なし! 俺の【魔法矢】はここからが本番だからな。 【魔法矢・全弾発射】!」
そして、内ポケットから出てきたシルフィに軽く返事を返しながら、MPを1950使って【魔法矢・全弾発射】を使う。
今回の作り出す【魔法矢】は128本。
1本のダメージが430で、それが128本だから合計55040のダメージを与えることができる。
まあ、核を狙っているからここまでいらないとは思うけど、念には念をだ。
「シッ!」
そして、頭に?マークを浮かべているシルフィを尻目に、俺は扉に向けて作り出した透明な矢を射ち出す。
それは次々と分裂していきながら扉へと向かっていき、すり抜けてボス部屋の中へと入っていく。
「え? あれ? なんで?」
「フッ。まあ見てなって」
混乱しているシルフィを横目で見つつ、少しの間待つ。
すると──
『レベルが25上がりました』
「お、終わったか」
──少し時間がたってからレベルアップのアナウンスが流れてきた。
ってことはしっかりアイアンゴーレムは倒せたんだな。
その証拠にゆっくりと扉がまた開いていく。
「え? 終わった?」
「ああ。とりあえず、こんな感じ」
シルフィに簡単に説明しながらボス部屋に入っていく。
ボス部屋に入ると、そこには胸の真ん中に穴を空けたまま、地面に倒れ伏すアイアンゴーレムの姿があった。
「え~……なにこれあり?」
「ありもあり。スキルがこういう仕様なんだから仕方ないだろ」
呆然と呟くシルフィにツッコミを入れつつ、アイアンゴーレムの元に向かう。
そして、倒れたまま動かないアイアンゴーレムの体を手で触り、ちゃんと死んでいることを確認する。
……うん。わかっていたけどちゃんと死んでるな。
「うわぁ……。本当に倒せてる……」
「そりゃそうだよ。まあ、これが俺の【魔法矢】と【捕捉】スキルの必殺コンボだよ。他の人には言わないでくれよ?」
シルフィの納得していないような声に、俺は苦笑しつつ釘を刺しておく。
「んー。わかった。約束するよ」
まあ、最近はすっかり人の目を気にするなんてことがなかったからあまり気にしてなかったけど、一応ユニークスキル二つ持ちっていうのは秘密にしてもらわないと。
「ありがとな。んじゃ、さっさとアイアンゴーレムの死体を回収してっと」
「あれ? こいつの体は回収するんだ?」
シルフィが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「うん。ゴーレムとは違って体が鉄で出来てるからちゃんと売れるんだよね」
アイアンゴーレムの素材は鉄。
だから、ただの岩であるゴーレムとは違って売ったら結構な金になるのだ。
アイアンゴーレムの鉄は一体で結構量があるし、品質もまあまあ品質もいいからな。
ただ、得られる利益と労力を考えたら、普通の探索者ならわざわざ取りに来ないだろうけど。
「へえ、そういうもんなんだね~」
「そういうもんなんだよ。ゴーレムの素材も買い取ってもらえるんならウハウハなんだけどね~」
まあ、ただの岩なんて需要がないだろうから、これからも買い取ってもらえるなんてことはないだろうけど。
「うっし。それじゃあさっさとアイアンゴーレムがまた復活する前に、さっさとアイアンゴーレム回収して地上に戻るか」
「はいっ! 了解です隊長殿!」
俺の言葉にふざけながらも元気に敬礼をするシルフィに笑いかけながら、【魔法矢】で透明な矢をいくつか作って龍樹の弓につがえてアイアンゴーレムの死体に射ち出していく。
【魔法矢】が当たったアイアンゴーレムの死体はバラバラに砕けて俺の力でも持てるぐらいの大きさまで砕いた。
それを次々持ち上げて、【アイテムボックス】を開いて砕いたアイアンゴーレムの死体を中に放り込む。
「よし。それじゃあさっさと帰ってメシ食うぞー!」
「おおー! お腹すいたー!」
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