中ボス部屋前
「シッ!」
俺の口から出る短い息と共に放たれた分裂していく透明な矢の大群が硬い岩の鎧を破壊していきゴーレムの弱点である胸の核に突き刺さって核を破壊する。
「ふぅ~……」
「やったねカエデ! これで今のところこの辺にいるゴーレムは最後だよ!」
俺が倒したゴーレムの残骸を見てシルフィが嬉しそうにそう言って俺の肩の上でピョンピョンはねる。
そんなこんなで今俺とシルフィは五階層から十四階層までやって来た。
あの後、だだっ広い通路をひたすらシルフィの魔法での探索。なにもなし。シルフィの魔法での探索。発見したゴーレムの討伐。シルフィの魔法での探索。
シルフィの仲間がいそうな所はもちろん、未発見の隠し部屋や隠された宝箱などを探したりしたのだが、一向にそんなものは見つからなかった。
そんなことをひたすら続けておかしなところはないのかここに至るまでずっと探してきたのだ。途中からは俺とシルフィは無心でスキルと魔法を使い続けるマシーンと化し、ただ通路を歩き回っていた。
正直もううんざりとしていたけど……それも一旦おしまいだ。
「ああ。……それに、十五階層に続いている階段だ」
「うんうん! やっとここまで来たよ! 長かったなぁ……」
「…………そうだな。ほんっとに長いダンジョンだったよ」
ここまであちこちしっかりと全階層調べていたせいで本当にいつもより時間がかかった。
昨日の時点である程度覚悟はしてたけど……うん。想像以上だったわ。
途中で一旦帰ろうかなっていう悪魔の囁きも聞こえてきたけど帰らなくって良かった~……。もしも途中で帰ったりしたら明日もまた来ていただろうけど、その場合はこんな苦労したって感じが薄れてただろうからこんな感動は得られなかっただろうし。
……うん。そう考えるとまだマップが完全に作られていないダンジョンに潜るっていうのもいいんだろうな。
こういう感動を同じパーティーと味わったりできるし。
パーティー……一緒にダンジョンに潜る仲間……。
ウッ心がぁ!!!
「ど、どうしたの!? 急に胸を押さえて!!」
「あ、いや。なんでもない……。ちょっと心にダメージと言うかなんと言うか……。まあ、特になにもないよ」
「えぇ……。なにそれ? まあ、大丈夫ならいいんだけどあまり無理しないでよね?」
「そこはもちろん。時には無理することが大切だけどそれは今じゃないからな。自分の出来る範囲で頑張るさ」
「うんうん。その意気だね! それじゃあ早速行ってみようよ!」
「おう。行こうぜ」
そうして俺はシルフィを内ポケットに入ってもらってからゆっくりと慎重に階段を下りていく。
次の階層は十五階層。
ようやくあちこち探し回るのも一旦おしまいで十五階層は中ボスのいる階層。
十五階層はいつも見ているボス部屋のある階層と同じような作りになっていた。
もう俺にとっては何回も見た景色だ。
「ほえ~なんかここは他の階と違うね」
「ん? ああ、そうだな。この階層は中ボスが出る部屋までは道は一本道だし、ゴーレムは出ないから他の階層とはまるっきり雰囲気も構造も違うな」
「へ~! そうなんだ~。なんか罠とかあるの?」
「いや、少なくとも俺が知ってる限りではないかな。まあ、一種の休憩地点みたいなもんだよ」
「なるほどね。それで? どうするの? その中ボスとやらを倒しに行くの? それとも、また明日にする?」
シルフィが俺の左肩に乗りながら聞いてくる。
「あ~そうだなぁ」
俺は【アイテムボックス】を開いて腕時計を取り出して時間を確認する。
えっと……今の時間は五時か。
朝の六時からダンジョンに来てたけど五階層から十四階層まで調べ尽くしてたからな。
まあ、その成果がダンジョンをしっかりと調べるには時間がかかるってことがわかったことだけだけど。
「うん。せっかくここまで来たんだし倒して行っちゃうか。
あ、あとなにもないとは思うけど一応なにか無いか調べとけば?」
「はいはい。まあ、なにもないと思うけどねー」
「あはは。そりゃそうだ。なにかあるのが一番だけどこれまで中ボスやボスの階層で見つかったなんて話なんて聞いてないしな」
そんなことを言いながらも俺達は手分けして念入りに調べていく。といっても、この階層にあるのはいつも通りの通路にボス部屋の扉だけ。
この先へ続く道はあれど隠し通路のようなものもなし。
「……うん。やっぱりなにもないよな」
「そうだね~。カエデ! こっちもなにもなかったよー!」
「はいよ。まあ、そんなに甘くはないよな」
「そうだね! じゃあさっさとその中ボスを倒す……」
シルフィがそこまで言った所で、シルフィから。詳しく言えばお腹の辺りからクゥ~という可愛らしい音が聞こえてきた。
「……シルフィ?」
「…………」
シルフィが顔を赤くして下を向いていた。
「……そういえば朝にご飯食べてから今までずっと動きっぱなしだったもんな……」
俺がそう言うとシルフィは恥ずかしさを誤魔化すためか少し怒ったような声で答えた。
「う、うるさいなぁ~! そんな冷静に解説しないでよ! てかそう思うんならさっさとここから出てご飯を食べさせてよ!」
「はいはい。了解了解それじゃあそれじゃあ行きますかね」
そう言って俺が歩き出すとシルフィは俺の内ポケットの中に素早く入り込む。
ボスの部屋の扉は今まで探索してきたダンジョンと変わらず、誰も挑戦していないことを表すかのように開ききっている。
「うっし。それじゃあ行くぞー」
「おー!!!」
このダンジョンの中ボスはアイアンゴーレムと呼ばれるゴーレムの上位互換みたいなモンスター。
一応Aランクのモンスターで、普通のゴーレムのでかい、固い、再生するといったそれぞれの要素がパワーアップしている。
その大きさは文字通りゴーレムよりもさらにでかくなり、固さはより一層頑丈になって貧弱な武器だと攻撃しても弾かれたり変形してしまうらしい。
まあ、ここまではいい。
最悪レベルの高い火の魔法スキルを使う探索者が総攻撃して戦えば武器なんて関係ないようなものだから。
だけど、問題は強化された能力の中の最後の一つ。
そんな最も厄介なのが更に強化されて再生速度が爆上がりした再生能力。
ゴーレム以上の固さにおまけで再生能力をつけられたら普通に戦ったら倒せるわけがない。
実際、ゴールド資格保持の探索者含めた一つのパーティーが全力でアイアンゴーレムと戦っていたんだけど、結局倒すまでに二時間以上かかったという。
しかも、結果はずっと攻撃し続ける必要があって、ポーションも使い果たし、さらには前衛二人が戦闘不能状態に陥り、後衛の一人も負傷。
ステータスも強化されてるのもあって普通に戦うのがバカになるような強さだ。
「それでもカエデ、作戦はどうするの? 中ボス?っていうぐらいなんだしゴーレムよりも強いんでしょ? あたしも戦った方がいいのかな?」
そんな俺の思考を遮るようにシルフィが話しかけてくる。
あ~うん。そうだよな。普通はそうだよね。
シルフィにはまだ見せてないもんな。
「ん? ああ、大丈夫だよ。今回は俺に任せてくれ」
「え? でも……」
「良いから良いから。まあ、見てなって」
俺は内ポケットからこちらを見ていたシルフィを宥めてから、深呼吸をしてゆっくりと前に出る。
ボス部屋への扉は、開いていて他の探索者がいないことを証明していた。
「フウッ」
俺は開いている扉の前で止まってから小さく息を吐くと同時にもう一度歩きだして部屋に入る。
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