新能力

 一息だ。無駄な再生時間は与えない。

 最短最速で体力も多く、頑丈で再生能力もあるゴーレムの弱点の核を狙い射つ。


「【魔法矢マナボルト全弾発射フルバースト】!」


 今回・・はMP750使用して、新しい能力の名前を叫ぶ。

 すると次の瞬間、普通に【魔法矢】を使った時と同じような大きさの透明な矢が作り出される。


「……あれ? これだけ?」


「ちょ、ちょっとカエデそんな弓を見つめてなにやってるの!? ゴーレム近づいて来てるんだけど!?」


 そんな俺を見たシルフィが焦ったような声を出しながら俺の耳を引っ張って俺の頭を無理やり動かしてくる。


「イテテテテテテッ! わ、わかってるよ今使うんだよ」


 それにしてもおっかしいな~?


 昨日寝る前に確認した効果の説明では、一度の使用で使ったMPの分の【魔法矢】を射ち出すってあったからてっきり一気に【魔法矢】が大量に出てくると思ってたのに。


 MPは確認したらしっかり750減ってるし……。


 これもしかして射ち出すって言うのは人力ですか?

 ……まあでも、こればっかりは未知のスキルの能力だったし、そうだとしても仕方ないよな~……。とりあえず射つしかないか。


「シッ!」


 俺は龍樹の弓につがえられた透明な矢を狙いを定めずに適当に射ち放つ。


 そのままゴーレムを倒すための次の【魔法矢】を──


「はぁっ!?」


「ちょっとなにこれ!?」


 ──作り出そうとしたのだが、射ち放った【魔法矢】がいくつにも小さく分裂していく。


 そんな光景にシルフィと一緒に目を見開いて驚いて【魔法矢】を作り出すことを中断してしまう。


 そんな間にも数は一本から二本。二本から四本、四本から八本と凄まじい速度で分裂して増えていきゴーレムの弱点の核にめがけて飛んでいく。


「えぇ……。一度に射ち出すってそういうこと?」


 そう俺が呆けている間にも飛んでいった大量の【魔法矢】はゴーレムに着弾していく。


 次々とゴーレムに当たっていく【魔法矢】は、ゴーレムの核を守っている頑丈な岩の鎧を紙のように貫き、ゴーレムの核を完全に破壊した。


『レベルが5上がりました』


 次々と【魔法矢】が着弾していく光景を見ていたら、気づいた時にはレベルアップのシステム音と共にゴーレムは核があった胸に大きな穴をポッカリとあけて膝から地面に倒れ伏す。


「これは、すごいな……」


「う、うん……」


 うん。予想以上の威力だった。

 今回の攻撃で消費したのは【魔法矢】一本につき、15ほどの魔力。


 今回使ったMPは750だったから六十本に分裂した【魔法矢】が一斉に弱点の核に向かって飛んでいったことになる。


 そう考えると相当えぐいな。


 一応最後の分裂でいくつか分裂していない【魔法矢】が何本かあったから分裂するのは消費したMP以上には分裂しないっぽいけど。


 だけど、分裂して【魔法矢】自体の大きさが小さくなっていたのに威力はそんな変わってない。

 それどころか昨日【魔法矢】のスキルレベルを上げたことで更に威力が上がってるぽいな。


「まあ、絶対にあの数は多かったけど……」


 昨日スキルレベルを上げた【魔法矢】の威力がわからなかったから、とりあえずで六十本分のMPを一気に使ったけど、明らかに多すぎたと思う。


「うんうん。それはあたしも思った! 見えなかったのにあちこち矢があるのがわかるぐらい空気を切り裂いてる矢の量が凄かったし、最後の方なんて核を砕いてたのに残った矢がどんどん核を粉々にしてたもんね!」


 シルフィも俺と同じ感想を持っていたようで、俺の右肩に乗りながら興奮気味に喋る。


「確かになぁ……。まあ、これは普通に使う分には結構難しそうだな」


 今回のでかい、固い、再生するといった面倒3拍子が揃ったBランクダンジョンに出るモンスターの中でもトップクラスの耐久性能を誇るゴーレムでさえあれだったんだ。

 普通のモンスターに使おうものならすぐに素材やらなんやらが使い物にならなくなる。


 ゴーレムだって再生していたのに、俺が【魔法矢】を普通に連射するよりも速く連続してゴーレムに着弾していったせいで再生する暇すらなさそうだったし。


「だよね~。倒すだけなら便利そうだけど」


「まあな。素材や魔石のことを考えないならな」


「うんうん。さすがのカエデでも、そう考えちゃったらこの能力の出番はそんなにないかな~」


「そりゃそうだろ。……いや、待てよ」


 これって【複数捕捉】を使って【魔法矢・全弾発射】使ったらどうなる?


 モンスターの数に合わせて矢を分裂させたらその矢はモンスター一体に対して一本飛んでいくようになるのか?

 それとも一体に対して分裂した全部の矢が飛ぶのか?

 これまでは【複数捕捉】を使ったら【魔法矢】を何度も使う必要があったし、なんなら同時に狙い射つなら弓を使わずにぶん投げる必要があった。


 だけど、もし【魔法矢・全弾発射】がモンスター一体に対して一本飛んでいくんだったらタイムラグなしで攻撃できるんじゃないか?


「なに? なんか思いついたの?」


「ん? ああ。シルフィの前じゃつかったことないんだけどさ、俺のスキルにな【複数捕捉】っていういつも俺が使ってる【捕捉】を同時に複数の対象に使えるスキルがあるんだけど、そいつを使えば矢が分裂したあとに色々と応用できそうな気がしてな」


「へ~! そんなスキルがあるんだ。いいじゃん。

 それならモンスターに囲まれた時にも安心だし、カエデって遠距離戦してるからまず近づかせないのが大切だから、いっぱい矢を出して牽制にも使えそうだよね!」


 おお。

 確かに言われてみればそうだな。

 ……だけど。


「そもそもそんなうまくいくかもわかんないし、やってみないとわからないから実際に試してみるしかないんだけどな」


「あはは。まあそうだねー。でも、面白そうだからそのうちやって見せてよね!」


「もちろん。まあ、そんな状況にならないのが一番だけどな」


 とは言ったものの、そんな状況俺がポカするかモンスターハウスにでも入らない限りありえないだろうけど。


「よし。じゃあゴーレムを倒す時間も短縮できたし、さっさとこの階層も調べ尽くしちゃうか」


「おぉ~! 任せてよ! どんどん探しちゃうよ!」


 そして、その後も俺達はゴーレムを狩りまくり、最下層まで一気に調べ尽くす勢いで攻略を続けるのだった。

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