調査方法

 射つ。射つ。射つ。射つ。

 ひたすら【魔法矢】で作った透明な矢を射ち続ける。

 MPはかなり消耗するけど、それでも俺のMPの総量を考えたらまだ微々たるものだ。

 それに……。


「カエデー」


「うん? どうした?」


「なんか……戦ってる気がしないね~」


 ゴーレムは動きが遅すぎる。

 シルフィの言う通り戦ってる感がまったくない。


「まあ、俺もそれには同意だ」


「だよね~」


 確かにゴーレムはでかい、固い、再生するといった面倒3拍子が揃っているけど、代わりに遅い、鈍い、重いという攻撃や移動の早さに関するマイナス3拍子も揃っている。


 だからこうして俺がただ矢を撃ち続けてるだけで問題なく勝てるというわけだ。

 ゴーレムは再生するって言っても、【弱点捕捉】の必中効果前提の【魔法矢】乱射の方が核まで削りきる方が早いしな。


 だからこうして距離がある間は戦っている気がしないというのもわかる。


「だからと言って核を壊すまでは油断はしちゃダメだからな」


「う、うん……」


 まあ、気持ちはわかるけど。


 正直、事前にゴーレムの情報を知ってなかったらこれまで体験した中で一番の緩さに油断してただろうしな。


 ゴーレムは近づかれた時が怖いタイプのモンスターだし。


「あ、カエデ。あれが核ってやつ?」


 そんなことを考えていると、シルフィから声がかかる。


 シルフィの指差す方向を見てみると、ゴーレムの体の中から赤色に輝く丸い球体のような物が見える。


 あれは……間違いない。

 間違いなくあれは核となってる魔石だな。


 見た目はパッと見た感じスライムの時と同じだけど、輝き、大きさ。どれをとっても段違いの存在感を放っている。


 それにしても、やっぱり魔石というものは今いる自分のレベルを改めて再確認出来るものだな。


 たった数ヶ月前まであの魔石とは比べ物にならないぐらいしょぼい魔石を集めて売ってきていたのに……。それが今の魔石はあんな大きさ。


 このダンジョンでは魔石を現段階では集められないけど、それでも成長を感じるっていうのは嬉しいものだ。


 あとはやっぱりあれを売れればかなりの金額になるのだが……まあ、遠距離主体の俺にそんな事が出来るわけがないよな。


 それこそゴーレムからあの魔石だけを抜き取るってなったらAランクダンジョンを鼻歌交じりで攻略できるほどの実力者でもいない限り不可能だろう。


「ああ、あれが核だな」


「へぇ~……あんな感じなんだね。結構綺麗だね」


「だな。それじゃあ核も見えたし終わりにしようか──シッ!」


 俺はシルフィの感想に同意しつつ最後の一射を放つために弓を引く力を強める。


 そしてそのままゴーレムに向けて撃ち放つと、先程と同じようにゴーレムの核へと向かっていき……着弾と同時に核となってる魔石は砕け散った。


 核となっていた魔石を失ったゴーレムは、もう再生することなくズシンと音を立てながら膝をつき、地面に倒れ伏す。


『レベルが8上がりました』


「よしっ! これで撃破完了っと」


 射った矢の数は70本……一体倒すのに1050MPか。今のところは【魔法矢】の方がMP効率は悪いな。


 あとはもう一体ゴーレムを【魔光矢】を使ってみて一回で倒せるかどうかだ。

【魔光矢】一回で倒せるならそれで良いし、ダメだったらレベルを上げていけばそのうち【魔法矢】の方がMP効率は良くなるだろ。


 俺は龍樹の弓を背負い、シルフィを内ポケットから出してからゴーレムへと近づいていく。


「お疲れ様! カエデ!」


「おう、サンキュー」


 シルフィに労われながら俺はゴーレムへと手を当て、その体を作り上げていた岩をじっくりと見つめる。


 ……うん。まあ、わかってたことだけど……。


「やっぱりただの岩か~……」


 やっぱそうだよな~。

 ワンチャンもしかしたら事前に調べておいた情報が間違ってて、ゴーレムの体は売れるようなものだったりしないかなって思ったんだけど……。

 まあ、そんな甘いことはないよな。


 ……ぶっちゃけこの新しいコート作ってもらったから貯金がさ……。


「ねえカエデ」


 通帳の残高を思い出している俺にシルフィが話しかけてくる。


「ん? どうした?」


「この辺にはモンスターはいなくなったしとりあえず調べはじめても良い?」


 ……うーん。

 ゴーレムの気配は今は無さそうだし、他の探索者も戦闘音は聞こえないから大丈夫そうだな。


「そうだな。それじゃあおかしなところがないか探していくか」


「オッケー! それじゃあまずは……ほい!」


 そう言いながらシルフィは気合いの入った声と同時に、浮いたまま手を通路の先に向ける。

 すると、シルフィの手から微かにだが風が吹き出しはじめ、髪や服が揺れはじめる。


「なあシルフィ、これって今何してるんだ?」


 そこまで魔法には詳しくないけど、これぐらいの規模だと魔力を感知する魔法とかかな?


「えっとね、これは風を使ってその風の流れを見ているんだよ」


「ほう……?」


「例えばカエデがここにいて、わたしがこっちにいるとするでしょ」


 シルフィが指で示しながら説明してくれる。


「それでね、今みたいに手のひらから風を出して、カエデに向かっていったら当然風はカエデにぶつかるよね」


「まあ、そりゃあな」


「その時にね、風の流れを感じてどこになにがあるかを調べてるんだよ。

 魔力を節約してるからそこまで風は強く出せないけど、これぐらいの風でもこの辺を調べるぐらいはできるの」


 ふむ、つまりソナーみたいなものなのかな。

 俺の【索敵】スキルでは調べられない建物なんかの構造を調べられるならありがたい話だ。

 というか、話の感じからしてモンスターも普通にダンジョンに潜ってる探索者も見つけられそうだし完全に【索敵】の上位互換じゃない?

【索敵】さんは要らない子になっちゃったんですか?


「へえ~便利なんだな。それって俺でも出来るのか?」


 ぶっちゃけその技術身に付けられるなら身に付けたい。


「うーん。カエデには難しいんじゃないかな? これって風の精霊の中でも出来る方が少なかったし」


「そっか……」


 ちょっと残念だな。

 でも、確かにシルフィが精霊の中でも使える方が少ない部類に入るほど難しいって言うってことは魔法を使ったこともないド素人の俺が出来るはずもないか……。


「じゃあそんな難しいことが出来るシルフィはすごいんだな」


「ふふん。まあね! これでも風の大精霊なんだからこれぐらい楽勝だよ!」


 俺がそう言うと、シルフィは胸を張ってドヤ顔をしながら答える。


「よし、それじゃあその調子でどんどん頼んだ」


「うん! まかせて!」


 シルフィは調査、俺はゴーレムとの戦闘。役割分担は完璧だな。


 だけどこれをこの巨躯ダンジョンの階層三十階層分か……。

 一階層につき何回今のを繰り返すかわからないけど……まあ、頑張っていこうか。

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