巨躯のダンジョン

ちょっと書き方変えたお。


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「ふぅ……。やっとついたよ……」


 シルフィと出会い、雅さんに会いにトランスへ向かった翌日。


 俺は新幹線を使い、県をまたいでBランクダンジョンの巨躯のダンジョンにたどり着いた。


「ねえねえここにみんながいるの?」


 内ポケットに入っている雅さんに作ってもらったスカーフのような物を新しく着けたシルフィと一緒に。


 結論から言えば昨日あの後、シルフィは俺に付いていくことになった。

 理由は聞いてみたけど、シルフィはちゃんと答えてはくれなかったし……。いや、別に理由なんてなんでもいいんだけどな?


 ただ、俺についてくることにしたとは言え、やっぱりシルフィは仲間のことが気になるらしい。


 まあ、俺としてもシルフィが仲間に会えるように頑張ろうとは思っているから、こうしてわざわざ県外のBランクダンジョンをしっかり探索するために近くのホテルに泊まったわけだが……。


「それじゃあカエデ早く行こうよ!」


 シルフィが元気いっぱいだし、何より楽しそうで良かったですよ。


 とりあえず雅さんがシルフィのテイムモンスターの登録もしてくれると言っていたから、シルフィについては姿を見られるだけならもう心配はいらないだろう。


 まあ、シルフィはうるさ……騒がし……元気だからシルフィの声が他の探索者なんかに聞かれないかヒヤヒヤしたけど……。


「はいよ。とりあえず今日はこのダンジョンの5階まで行ってみるか」


「うん! ちゃんとしっかり隅々まで調べるんだからねっ!!」


「はいよー。って言っても多分このダンジョンはシルフィが隅々まで調べるには難しいと思うけどな……」


 俺のその言葉にシルフィは内ポケットで首をかしげてみせる。


「どういうこと?」


「いやまあ……うん、見ればわかるよ。俺達にとっては割と当たり前だけど、シルフィはなぁ……」


「なにかよくわからないけど、とにかく見てみないとね!ということで行くよカエデ!」


「はいよー」


 シルフィは俺の内ポケットからダンジョンの入り口を指差して、俺もそれに答える。


 そして、俺達はそのまま入り口で探索者資格を警備員に見せてからダンジョンの中へと入って行く。


 この巨躯のダンジョンをシルフィが調べるのが難しいと言うのは、シルフィからしたら入り口という情報からはまったくわからないと思う。

 この巨躯のダンジョンの中の構造を知ってる俺からしたら、シルフィが調べるのは……うん。


「……なにここ広ーーーい!!!」


 まあ、無理だ。


 この巨躯のダンジョンはよく見るゲームだったりの迷宮のようなレンガで通路が造られているダンジョンになっている。


 さらに、出てくるモンスターはゴーレムと呼ばれる、石でできた10メートルぐらいの巨人のモンスター。

 そのゴーレムの大きさもあり、通路の広さも縦横共にゴーレムが自由に戦えるだけのスペースはある。


 これがシルフィが調べるのは無理があると言った理由だ。

 なら別のダンジョンに行けば良いかと思うだろう。

 だけど、近くのBランクダンジョンだと、動きの早いモンスターが出たりするダンジョンしかなかったからそもそもここしか選択肢はなかったのだ。


「な? シルフィは調べるとしたら大変だろ?」


「う、うん……」


「まあ、こういう場所もこれからはしっかり調べていく必要があるからな。仕方ないさ」


「……そうなの?」


「ああ。なんせシルフィがBランクダンジョンにいたことを考えたらこれからはBランクダンジョンに潜ることになりそうだしな」


「そっかー……って!じゃあなんで最初から教えといてくれないの!?」


 俺の言葉にシルフィは頬を膨らませて内ポケットから顔を出す。

 いやいやいや。


「それはな、お前が昨日俺がこの巨躯のダンジョンを調べていた時に寝てたからだよ」


 そう、俺がシルフィに巨躯のダンジョンのことを詳しく説明しなかったのは、昨日の晩。


 俺がスマホを使ってダンジョンの地図を見ながら情報を調べてた時のことだ。

 その頃のシルフィはしっかりソファーのクッションを使って夢の世界へ旅立っていた。


 なんなら移動中に説明しようにもそこでも寝てたし。


 そんな状況でこの巨躯のダンジョンの情報が頭に入ってるわけがないよな。

 起こしても起きなかったし。


「う……いや、その……ゴメンナサイ……」


「ま、いいさ。シルフィだって昨日までいろいろあったし疲れてただろうしな。

 その代わり今日はしっかりゴーレムの戦闘に参加してもらうからな」


 今回の相手であるゴーレムはでかい、固い、再生すると言った3拍子揃ったモンスターだ。


 特に、ゴーレムにはスライムと同じように核となっている魔石があるからその核が無事ならずっと再生するというバカ面倒くさい能力がある。


 だからゴーレムを倒すには、胴体埋まっている核に向けて攻撃しまくって堀り当てるか、威力重視の攻撃で完全に核ごと破壊するかしかない。

 あのアンデッドヘルスパイダーを細切れにしたシルフィの魔法ならあっさり倒せるだろう。


「うん! 魔力が回復しきってないからあんまり強い魔法は使えないけど、サポートは任せて!」


 ……ん?


「シルフィ? 強い魔法は使えないって言ってるけど、あの時の風の渦は使えるのか?」


「ん? あの魔法は今は使えないよ。あのクモを倒すのに奪われないようにしてた魔力を全部使っちゃったしね。

 だから今は魔力は節約中なので強い魔法は使えませ~ん」


「…………あ、そうですか」


 いや、まあ……これは事前に確認しておかなかった俺が悪いな。


 そうなったら仕方ない……。ゴーレムとはちゃんと戦うか。

【弱点捕捉】があれば核もすぐにわかるだろうし、そこから【魔法矢】を連射するなり、【魔光矢】を射つなりすれば問題なく倒せるはずだ。


「それじゃあまずは5階を目指しながらおかしなところがないか探していくぞ。

 シルフィは戦闘が難しいなら移動中魔法とかで調べてくれるか? 樹林のダンジョンで俺に転移できる場所を教えたみたいにさ」


 まあ、あれだ。

 ぶっちゃけシルフィが魔法とかで調べられるんなら俺としてはめちゃくちゃ楽ができるからありがたいんだけど……。


 ……これぐらいなら出来るよな?


「うん! わかった!」


 うん。出来るんならそれでよし。


「よし。それじゃあ行こうか……って言いたいとこだけど……」


「ん? どうしたの?」


 俺は立ち止まって通路の先を見据える。


「敵だな」


「え? ……あ! ほんとだ!」


 シルフィと一緒に通路の奥の方を見ると、そこにはゆっくりとだがズシン、ズシンと足音を立てながらこちらに向かってくる一体のゴーレムの姿があった。

 まだ距離はあるけどそのままゴーレムが進んできたら見つかるだろう。


「うっし。それじゃあシルフィはそのまま隠れててくれ」


「りょーかい!」


 シルフィは俺の内ポケットへと潜り込み、俺も龍樹の弓を取り出して【魔法矢】で作り出した透明な矢をつがえる。


「【弱点捕捉】」


 そして、スキルを発動させると同時に遠目に見えるゴーレムの胸と両膝に赤い点が浮かぶ。


「ふぅー……よしっ」


 そしてそのまま息を整え、意識を集中させ核のある胸に狙いを定める。


 今いる場所はゴーレムが歩いてきた通路の途中。

 ゴーレムまではまだ距離があり、ゴーレムもまだ俺の存在に気づいていない。


 つまり絶好のチャンス。


「いくぞ……ッ!!」


 そのまま弦を引き絞り、限界ギリギリの力を込めてゴーレムの核めがけて射ち放つ。


 射ち放たれた透明な矢は空気を貫く音を鳴らし、ゴーレムの胸の中心に突き刺さり、核を守っている岩の鎧の一部を崩す。


「う~ん。やっぱり予想はしてたけど一回じゃ倒しきれないか」


「当たり前だよカエデ。いくら何でもあんな大きいの一発で倒せちゃう方がおかしいもん」


「ま、そりゃそうだ」


 俺の放った矢は確かに命中したが、ゴーレムの核は無傷。

 さすがに一撃では無理だとわかっていたので驚きはないけど、それでも少し悔しいな。


「じゃあとりあえず……最初の予定通り倒せるまで射ちまくるとしますかね」


「やっちゃえやっちゃえー!!!」

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