シルフィの事情①

「ん~~!!!これ美味しい~!!!」


「あら本当~それは良かったわ~もう一つあるけど食べる?」


「食べる!」


 机の上にシルフィは胡座あぐらをかいて座り込み、雅さんから渡されたクッキーを少しずつ小さな口で食べていく。


 あれから数分後になんとか再起動を果たした雅さんはシルフィをまじまじと見つめた後、こうしてシルフィにお菓子を渡していた。


 ところでシルフィ、もう一つクッキーをもらってたけどどこにその大きさのクッキーが入るんだ?


「雅さん、なんかすみません」


「別に良いわよ~。確かに最初は話したことなんかに驚いちゃったけどね~。それよりも……上位精霊ってな~に?アタシそんな種族聞いたことないわよ~?」


「すみません。俺もまだ詳しい話をシルフィから聞いていなくて……俺が知ってるのはシルフィが風の上位精霊ってことと、樹林のダンジョンにあった転移系の罠の転移先に捕まっていたってことくらいなんですよ」


「なるほどね~。じゃあシルフィちゃん?あなたのこと詳しく教えてもらえるかしら?」


 雅さんが優しく声をかけるとシルフィは雅さんの方を向い持っていた残りのクッキーを口詰め込んでにコクリと首を縦に振る。


「むぐ?んく。ん~わかったわ。あたしについて説明すればいいのよね?……ゴクッ。あたしの名前はシルフィーナ!風の上位精霊!」


「いや、それはもう知ってるから」


「カエデうるさい」


「はい」


 シルフィはジト目でこちらを見てきたので素直に従っておく。


「うふふ。仲が良いのね。でも、それだけだとわからないわよ~?もっと他に知らないかしら?」


「そうそう。例えばなんであんな宝石だか結晶だかなんだかよくわからないやつに閉じ込められてたのかとかな」


「もち……ろ…………ん?」


 多分シルフィの"もちろん!"って言おうとしてたのだろうけど、そんな予想に反して、シルフィの声はどんどん小さくなっていき、最後には俯いて黙りこんでしまった。


「シルフィ?どうかしたのか?」


「シルフィちゃん?」


 俺と雅さんが心配して話しかけると、シルフィはゆっくり顔を上げて……


「えっと……20年ぐらい昔かなー?私達精霊がなにかを相手に……して……負けちゃって……で……それから……」


 そこまで言うと、再び顔を伏せてしまった。

 しかし、今度は先程とは違い顔を真っ青にしてガタガタと震えている。


 おいおいおい……


「どうしたんだよシルフィ!大丈夫なのか!?」


「ちょっと!?シルフィーナちゃん!?どうしたの!?大丈夫!?」


 シルフィの様子を見て、慌てて駆け寄る俺たち。

 シルフィはというと、自分で自分の身体を抱き締めるようにして震えている。


 一体どうしたんだ!?


「ご、ごめん……」


「大丈夫だから。ほら落ち着け」


「とりあえずこっちにいらっしゃ~い」


 シルフィは申し訳なさそうに謝っていたが、雅さんは気にしていない様子でシルフィを誘導して自分の手のひらに乗せる。


「……暖かい」


「そうでしょう?こう見えてもお姉さんは体温が高いのよ~」


「うん」


 シルフィは雅さんの手のひらの上で目を瞑りはじめる。

 そんなシルフィを見て、雅さんもシルフィを撫でながら笑顔を浮かべていた。


「……ありがとうございます。雅さん」


「んもう。良いのよ~。シルフィちゃん?もう大丈夫?」


「うん。ミヤビのおかげ。ありがと」


 シルフィは雅さんの手にスリスリと頬擦りする。

 雅さんに任せて正解だったな。


 それにしてもシルフィはなんで急に様子がおかしくなったんだ?


「シルフィ、本当に大丈夫なのか?無理なら言わなくても良いからな?」


「……うん。もうだいじょぶ。ミヤビのおかげで落ち着いたわ」


「そっか。それじゃあ教えてくれるか?」


「うん。ちょっと長くなるかもしれないけど良い?」


「ああ。俺は大丈夫だ。……あ、雅さん。お時間は大丈夫ですかね?」


「あらあら~。アタシのことは気にしなくて良いわよ~。時間はあるからね~。それに……」


「それに?」


 雅さんはそこで言葉を区切り、シルフィの方を見る。


「こんな気になる事を聞かないで仕事に戻るなんて生殺しも良いところよ~!」


「あ、あはははは……わかりました。それじゃあ頼むぞシルフィ」


「うん。わかったわ」


 そうシルフィは頷くと、ゆっくりと深呼吸をするように息を吸ったあと、話し始めた。


「あれは今から人間の時間だと20年前かな?あたし達は精霊はなにかと戦っていたの」


「なあ、さっきからなにかなにかって言ってるけど、そのなにかってのはなんの事なんだ?」


 なんと言うか、そこは絶対に大事な部分だと思うんだけど、肝心の部分が曖昧すぎてイマイチ伝わらないんだよ。


 それに20年前?その年は子供でも知っているダンジョンが突然現れた年だ。偶然にしては出来すぎだよな……?


「え~っとね、それはね……」


「それは?」


「……忘れちゃった!」


 テヘッと舌を出しながら可愛らしくウインクしてくるシルフィ。


 ……え?


「…………はい?」


「あら?忘れちゃったの~?」


「う~ん……忘れたって言うのとはまた違ってなんか記憶が|かすみがかかったみたいになってて……」


「霞がかかったみたいか」


 それはまたおかしいな。


 完全な記憶喪失なら、そもそもその記憶自体が思い出せないと思う。

 だけど、言い方からして部分的に消えてる。いや、思い出せないっぽいよな……。


「う~ん……なにかしらのスキルの影響かしら?」


「ですかね?でもそんなスキル聞いたことありませんよ?」


「まあ、それはそうでしょ。カエデ達人間があたし達を認識できるようになったのは最近だし」


「ん?それはどういうことだ?」


 いまいち要領を得ないな。

 認識できるようになった?


「え?カエデ達人間今があたし達精霊を認識できるのは20年前からじゃないの?」


「いや、そんな話は初耳だぞ?」


「アタシも初めて知ったわ」


「……」


「……」


「…………あれ?」


 俺と雅さんはお互いに顔を見合わせる。そして、首を傾げるシルフィ。

 話が噛み合ってなくないか?


「ねえカエデ~?あたし達精霊が人間達に認知されるようになったのはいつ頃?」


「いや、はじめの方にも言ったけど精霊なんてシルフィを見るまで一回も見たことなかったぞ?」


「………………あれ~?」


 ……おい。

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