脱出と巻き込み
「くぅ~!外だ~!!!」
「いや、厳密に言えばまだ外じゃないんだけど……まあ、いいか」
風の上位精霊を名乗るシルフィと共に、巧妙に隠されていた出口を通ってあの空間から出ることが出来た。
あの、アンデッドヘルスパイダーがいた空間に飛ばされたのが転移系の罠っぽかったし、帰り方もまともな方法じゃないとは思ったけどさあ……。
さすがにあのシルフィが閉じ込められてた台座が帰り道になってるとは思わなかったな~……。
シルフィが気づいてくれなかったら存在しない出口を求めてあの空間を一生探し回るところだった。
……まあ、そんなこんなでお気づきかもしれないが、シルフィも一緒にあの空間から出てきている。
なんなら今も俺のロングコートの内ポケットに入ってるよ。
パッと見モンスターのシルフィを連れて行って良いものかと思いもしたけど、あの時、あの場所で、俺を助けてくれたのは事実だからな。
一応俺の内ポケットに隠れてはいるし、最悪見つかっても
と、言うことでシルフィと一緒に台座へ隠されてた転移の魔法陣に乗って、一瞬で見慣れた森。樹林のダンジョンに戻ってくることが出来た。
だけど、転移先がハードキャタピラーの目の前だったのは物申したい。
普通にビビって変な声が出たわ。
まあ、依頼用に糸を全部巻き取って【魔法矢】で矢達磨にしたけど。
それにしても……うん、やっぱりこの解放感はいいな。
ここもダンジョンだけど、あんな密閉空間よりは何百倍もマシだ。
シルフィも外だと喜んでるし。
「それより、今は人がいないから良いけど人がいる所では話さないようにしてくれよ?」
だけど、ここだけはシルフィにはちゃんと言っておかないと。
流石に街中で突然、見た目
そうなったらさすがに庇いきれる自信がない。
「わかってるわよ。それよりもまずは……」
「……うん?」
出口に向かって歩いていると、シルフィはそう言いながら浮いていた体を反転させて俺の方を向いてくる。
なんだろうか?
「お腹空いたからなにか食べさせて!」
「……ダンジョンから出て依頼の品を納品してきたらそのあとはなにも予定がないから家でいくらでも食わせてやるよ」
「ほんと!?やったー!!」
はぁ……まさか人じゃない存在に飯をおごることになるなんてな。
人生って本当になにがあるかわからないな。
それにしても……。
「お前、飯を食べさせるのは良いけど、そのあとはどうするつもりなんだ?」
「え?カエデについて行くに決まってるじゃない」
即答。
シルフィは当たり前のようにそう言ってきた。
「あっそうですか……いや、別に良いけど」
そんな簡単に決めちゃっても良いものなのか? まあ、本人?本精?がそれで良いなら良いか。
それに、助けてもらったわけだし、ご飯くらいは好きなだけ奢ってあげよう。
あとはなんであんな結晶に閉じ込められてた事とか色々聞きたいこともあるし。
「それじゃあ、さっさとここをでますかね。シルフィ、しっかりポケットに入ってろよ」
「は~い!」
さて、出口までもうすぐだ。
……正直、厄介事を進んで抱え込んだ気しかしないけど……まあ、なんとかなるか。
***
「……ふぅ、やっと着いた……」
樹林のダンジョンを出て、ハードキャタピラーの糸の回収の依頼を俺にしてくれた雅さんのいるトランス。
そのエントランスまでようやくたどり着いた。
とはいえ、本当に"やっと"だ。
普通だったら、こんなに疲れることはないのだが、道中町を見たシルフィが「随分人間の町もしたわね~」と言って飛んで行こうとしたり、シルフィが「あれ美味しそう!」と行って行こうとしたりと本当に色々あった。……いや、本当に。
ちなみに、シルフィは今、俺の内ポケットで大人しくしている。
というかさせた。
いや、させたと言ったら語弊はあるけどシルフィが見つかったらどうなるか教えたらビクビクしながら自主的に内ポケットに戻ってくれたよ。
「カ、カエデ~もう出ても大丈夫か?」
「う~ん。もう少し待っててな。まだ時間がかかるからな」
「わかった~!」
元気の良い返事だこと。
声自体は俺ぐらいにしか聞こえないぐらい小さいけど。
まあ、ずっとあの空間にいたんだから早く自由に動きたくなる気持ちもわかる。
「……よし、そんじゃ行きますか」
依頼完了の報告、納品とシルフィが自由に動き回れるようにするためにも。
「すみませ~ん」
とりあえず受付から雅さんを呼んでもらうために、受付に向かう。
ちょうど、ここに来て毎回雅さんを呼んでもらってる受付の女性がいるからその人に声をかける。
「あら、天宮さん。どうしましたか?今日も橘さんの依頼の報告ですか?」
「ええ。ハードキャタピラーの糸を15体分集めてくる依頼をされたんですけど、終わったんで報告と納品に来ました」
「わかりました。少々お待ちください」
女性は俺の話を聞いて、いつものように内線を使って雅さんを呼び出してくれる。
これで後は待つだけだ。
「はい。今橘さんを呼んできましたので、少しお待ち下さい」
「ありがとうございます」
ということで、定位置になりつつある受付から少し離れたところに移動して待機する。
すると、5分もしないうちに雅さんがエレベーターから現れた。
「お待たせ~。雅く~ん♪」
手を振ってこちらに声を飛ばしつつ近づいてくる。
相変わらずテンションが高いというかなんと言うか。
ついでに言えば、今日の雅さんの服は、胸元が大きく開いた赤色のシャツを着ているからか、破壊力がすごい。
特にはち切れんばかりの大胸筋が。
「……カエデ、カエデ!なんかすげぇぞあの男!」
「こら、静かにしてろ。それとあの人は男じゃなくてオネエさんだ」
小声で興奮気味に話すシルフィ。
そりゃあ初めて見る人なら驚くだろうけどさ。
確かにあの人は見た目はすごいけど普通にいい人なんだぞ?
だから一回家に帰ってシルフィを家に置いてこずに直接報告に来たんだし。
シルフィ関連のことで巻き込むために。
「はいはーい。こんにちは楓くん。ハードキャタピラーの糸の受け取りに来たわよ~」
「こんにちは、雅さん」
「はい、ど~も。それじゃあ、ハードキャタピラーの糸を15体分。もらえるかしら?」
「あ~すみません。雅さん、少し相談もあるのでどこかで話せる場所ってありますか?」
「……?そうねぇ……それじゃあ、いつもの場所に行きましょうか」
「お願いします」
「はいはーい。それじゃあ付いてきて」
そう言って雅さんは歩き出したので、俺もその後に続いてついていく。
ごめんよ雅さん。
外に出る前のシルフィだったらこんなことしなかったんだけど、町に出た時のシルフィ見たら俺一人じゃどうしようも出来なさそうだったんだよ……。
弱い俺を許してくれ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます