おかしな展開

「うぉっ!?」


 いきなり視界が真っ白になったと思ったら次の瞬間、体が吹き飛びそうな程の強風が襲ってきた。

 なんとか腕で顔を覆って、飛ばされないように踏ん張る。


 これは……まさか……。


「爆発したのか……?」


 いや、でも特に熱さは感じないし、体に痛みもない。

 ということは、今のは単純に光と風だけ?


 ちなみに、顔を覆う前に最後に見たアンデッドヘルスパイダーは、結晶に近づいていたのもあってかなり高い天井に向かって空を飛んでいた。


 ……結晶に近づいてなくて良かった。

 だけど、これはいつまで続くんだ?







「やっと出れたーーー!!!」







 それから体感にして5分程経った頃。

 アンデッドヘルスパイダーは完全に天井に押し付けられ、俺は耐えるのが限界になって、疾走の短剣を地面に突き刺していた。


 そんな中、よく通った高い声が聞こえるのと同時に風は止み、光が収まる。


 土煙はまだたってて視界は確保できてないけど、空を飛んでいたアンデッドヘルスパイダーが、重力に従って落ちて来て、大きな音をたてて地面に衝突した。

 それは落下した時の振動があったからわかる。


 けど、問題はそこじゃない。


「……誰だ……?」


 俺が今、最も気にしているのはそこだった。

 さっきの声は明らかに人の声。


 聞こえてきた内容的にも俺がここに来た時みたいに、強制的にここへ放り込まれたって感じじゃなかったし。

 だけど、そんな俺の疑問は土煙が収まるとすぐに解消される。


「って、ええっ!?人間!?」


 土煙が晴れるとそこには、驚いたように目を見開いている、金髪碧眼の背中に羽を生やした小さな女の子──


「……妖精ピクシー?」


 ──モンスターである妖精ピクシーがいた。


 妖精ピクシーというCランクのモンスターは、一言で言うなら『小さい』だ。

 身長が大体30cmくらいしかない。


 また、妖精ピクシーの特徴として、背中に生えている半透明の蝶のような綺麗な羽根を使って宙に浮いている。

 さらに、見た目通り非力であり、身体能力は他の種族よりも圧倒的に弱い。


 その代わりといって良いのか、この妖精ピクシーというモンスターは魔法を使ってくる。

 その種類は火・水・風・土などの属性魔法で、基本的に弱い魔法しか使えないが、それでも当たれば痛いし、強い個体なら強力な魔法を使える。


 けど、さっきの風や光があの妖精ピクシーによるものだったとしたらおかしいな。


 あの規模の風や光は妖精ピクシーが出せる範囲を超えているはず。


「む?あなたいきなり失礼ね!誰が、妖精ピクシーよ!あんなモンスターと一緒にしないで!」


 俺がじっと見つめていると、妖精ピクシーの少女は怒ったように頬を膨らませながら言う。


 妖精ピクシーじゃない?


 ……てか。


「喋ってる!?!?!?」


 モンスターのはずの妖精ピクシーが人の言葉を!?


「なによ!あたしが喋ったらおかしいっていうの!?」


「え、あ、い、いや……」


「ふんっ!まぁいいわ!あなたのお陰で助かったみたいだし!そこは感謝しておくわ。ありがとう!」


「えっと、どういたしまして?」


 俺は、混乱しながらもとりあえず返事をする。

 すると、少女は満足そうにうん、とひとつ大きく首を縦に振った。


 そして、こっちに向かって歩いてきて、俺の前で止まる。その行動になんだ?と考えていると、妖精ピクシーであることを否定した小さな女の子はじー、とその碧色の瞳を俺に向けてくる。

 え、なにこれ?


「ねぇ、あなた名前はなんていうの?」


「え、えーと、俺は天宮楓。君は……?」


 明らかに人じゃない、それもモンスター(仮)相手に名前を聞くっていうのはおかしい。


 だけど、なんとなくだけど、目の前にいる妖精ピクシーからは悪意とか敵意みたいなものは感じられない。


 むしろ、俺に対する興味のようなものを感じる。


「そう。あなたはカエデって言うのね。あたしは「ギシャァァァァッア!!!」な、なによ!」


「アンデッドヘルスパイダーのこと忘れてたな……」


 普通に色々衝撃的すぎて存在を忘れてた……!

 そっか、あのアンデッドヘルスパイダーがいたっけ。


「くっそ!えっと……」


「ん?ああ、シルフィよ。あたしの名前はシルフィーナ」


「わかった!シルフィーナは下がっててくれ!あいつは俺が倒すから!」


 まったく、弱点だって言う結晶を貫いたのにまだ倒れてないし……。というか状況から考えるにシルフィが出てきたっぽいし。

 弱点ってなんだよって突っ込みたいところだな……。


 えっと……意識は……あるみたいだな。

 けど、さっきより動きが鈍い。天井近くから落ちた時のダメージもあるみたいだしなんとかなるか。


 痛みはアンデッドだから感じてないっぽいけど足だったりが折れてたりするし。


「なに言ってるの?助けてもらった借りがあるんだから、あたしも戦うわよ!」


「はぁ?いや、危ないぞ?」


「大丈夫よ!こう見えてもあたし──」


 アンデッドヘルスパイダーがよろめきながらも立ち上がり、黄色い糸を吐き散らす。


 それにたいして、俺が避けるより前にシルフィが腕を前に出して構える。


「──強いんだから!」


 そうシルフィが叫んだ次の瞬間、彼女の腕の周りを風が覆う。


 その風はどんどん大きくなり、風が吹き荒れる暴風になったところで、風の渦がアンデッドヘルスパイダーを襲う。


 竜巻のような風がアンデッドヘルスパイダーを包み、切り刻んでいく。


「嘘だろ……?」


 これが妖精ピクシーの魔法……? ていうか、威力が高すぎるような……?


「ふぅ……こんなもんかしら?」


「……あれ?」


 気づけばアンデッドヘルスパイダーはボロ雑巾のように細切れになっていた。


 ピクリとも動いてないし、もう死んでいるんだろう。

 けど、シルフィがトドメを持っていったとはいえレベルが上がってないのか。


 まあ、いいや。死なずに生きれたっぽいし。


「さてと、さっきは邪魔されちゃったし改めて自己紹介ね!あたしはシルフィーナ。あんたが間違えた妖精ピクシーなんてモンスターじゃなくて、風の上位精霊よ!」


 ……天国のお父様、お母様。

 おかしなところでおかしなゾンビクモに襲われたと思ったら、いつの間にか聞いたこともないような風の上位精霊って子と知り合っていたらしいです。




 ……いや、どゆこと?

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