アンデッドヘルスパイダー

 俺は、【魔法矢】で作り出した透明な矢を龍樹の弓につがえてアンデッドヘルスパイダーと睨み合う。


 さて……どうやってアンデットヘルスパイダーを倒すか。

 まあ、アンデット系モンスターを倒せる手段はいくつかある。


 一つは頭を潰すこと。

 これなら脳を破壊して、活動を停止させることが出来る。


 ……けど、俺がそれをするためには【魔法矢】じゃ大きさが足りない。


 そうなったら、【魔光矢ディバインボルト】を使うしかないけど、さすがに使ってる間、アンデットヘルスパイダー相手に無防備になるのは避けたいな。

 だから使うとしたら、使えるような隙を作ったときだ。


 二つ目は、火属性や光属性のアンデット系モンスターの弱点をつくことだけど……


「……無理だよなぁ!!!」


 俺が考えてる隙を狙って襲いかかってきたアンデッドヘルスパイダーの攻撃を避ける。

 この通り、アンデットヘルスパイダーは問答無用で襲いかかってくるし、こっちも俺の唯一の光属性の攻撃である【魔光矢ディバインボルト】を射ち出す暇がない。

 こっちも使えるような隙を作った時だけ。


 ……と、この二つが主だったアンデット系モンスターの倒し方なんだけど、結局言えるのは隙を作る必要があるってことだ。


「となるとやっぱりここは地道にやるしか無いよなっ!弱点捕捉ウィークロック!」


 とりあえず、試してみないと何も始まらない。


 ということで、早速頭以外にも弱点がないかを探すために飛んでくる黄色い糸や鋭い足による攻撃を避けながら、【弱点捕捉ウィークロック】をアンデッドヘルスパイダーに向けて使う。


 これで、アンデットヘルスパイダーの弱点が見えるはず……


「あれ?」


 だったんだけどどうもおかしい。

 普通だったらこれで、弱点が赤く見えるはずなんだけど……


「なんで見えないんだ……? まさか、弱点がないのか?」


 いや、そんなわけない。

 少なくとも、アンデット系モンスターという時点で頭が弱点なのは間違いないだろうからそれすらも反応がないのはおかしいんだけど……


「……うん?」


 そこで、俺の視界にあるものが映り込む。というか、視線が勝手にそこに吸い寄せられる。


「あっぶない!!!」


 そんな隙を見逃してくれるはずもなく、アンデッドヘルスパイダーの太い足が俺の顔面めがけて振り下ろされる。

 だけど、それはなんとかギリギリ避けることが出来た。


「ふぅ~……危ない……」


 あんなものまともにくらったら即死は免れない。

 普通だったらさっきまでみたいに避けられてたけど……


「なんであれ・・に弱点捕捉が反応してるんだよ……!」


 俺の視線が強制的に引き寄せられたもの。それは、さっき俺が明らかに罠だと警戒していた木のような台座に埋め込まれている宝石のような結晶。


 台座は特に何か仕掛けられているような様子もない。加えて、台座からは反応が特にはない。

 つまり、あの結晶自体が俺の【弱点捕捉】に反応したということだ。


 俺が【捕捉】を使ったのは、アンデッドヘルスパイダーの弱点を探るため。


 それがなんであの結晶に反応があるんだ?


「……まあ、考えるよりもまずは行動だ」


 俺はそう呟き、アンデッドヘルスパイダーの攻撃を避けながら【魔法矢】をつがえた龍樹の弓を構える。

 そして、そのまま射ち──


「ギシャァァァァアアアアッ!!!」


「うおっ!?」


 ──出そうとした瞬間、アンデッドヘルスパイダーは鼓膜が破れそうなぐらい大きな雄叫びにも似た声をあげるのと同時にさらに攻撃が激しくなった。


 さすがにこれは予想外だったので、攻撃をするのを止めて後ろに下がる。

 今の行動……やっぱりあれがあいつの弱点なのか……?


 あの結晶を狙った瞬間にあいつの動きが変わった。

 ということは、弱点という可能性としては高そうだな。


「まあ、そうと決まれば後は簡単か!」


 あの結晶を狙うだけ!

 それだけなら楽勝! ……とはいかないけど、さすがに今の状況よりはずっとマシだろう。


「よしっ!やってやるか!」


 俺が改めて【魔法矢】をつがえて龍樹の弓を構え直すと、それに呼応するかのようにアンデッドヘルスパイダーも離れた俺を追うように距離を詰めてくる。


「……なるほど。あいつにとって、あれは相当大事な物みたいだな。それじゃあ、さっさと終わらせよう!【捕捉】!」


 距離が近くなるにつれて早く、鋭くなっていくアンデッドヘルスパイダーの攻撃。

 そのどれもこれもが、当たってしまえば即死しかねない一撃。


 だけど、俺はそれを【予測】や【回避】といったスキルをフルに使って冷静に見極め、避け続ける。


 狙うべきはアンデッド種特有の知能の無さによる単純な大振りな攻撃に合わせるカウンター。


 それもさっきの【魔法矢】が効かなかったことを考えて、【魔光矢ディバインボルト】による最大の一撃をお見舞いしてやる。


 それなら倒せなくても、吹き飛ばして距離を取れるし、うまくいけばあっちの体勢を崩せるかもしれないし。


 そのためにわざわざ【弱点捕捉】で必中の対象があの結晶になっていたのを【捕捉】でアンデッドヘルスパイダーに必中効果を上書きしたんだ。


 だからこうやって攻撃を避け続けて、適当なところで体勢を崩したように見せれば……


「ギシャァッ!!!」


「そこ!【魔光矢ディバインボルト】!!!」


 こうやって簡単に一番前の両足を振り上げて腹を晒す。

 あとは、このチャンスを逃さずに狙い射つ!


「いっけぇえ!!!」


 射ち放った【魔光矢ディバインボルト】は今までで一番と言っていいほどの威力を持ってアンデッドヘルスパイダーに向かっていく。

 それはまるで、雷のように速く、巨大な閃光の矢となり、アンデッドヘルスパイダーの腹部に突き刺さる。


「ギシャァァァアアアア!!!」


 だけど、貫通するまでは行かずただただ【魔光矢ディバインボルト】の勢いに押される形でアンデッドヘルスパイダーの巨体は後ろへと吹っ飛んでいき、背中から壁に叩きつけられる。


「今だ!【捕捉】!」


 アンデッドヘルスパイダーが壁に打ち付けられた衝撃で土煙が舞い上がる中、俺はアンデッドヘルスパイダーの弱点である結晶に【捕捉】して必中効果を結晶に上書きする。


 絶対に仕留める!


「くらえっ!!【魔法矢】!!!」


 そして、再び【魔法矢】を放った。

 狙いは勿論、アンデッドヘルスパイダーが必死になって守っていたあの結晶。


「シャァァアッ!!!」


 距離も取れてるし、今もアンデッドヘルスパイダーは体勢を立て直して声を荒げながら結晶を守るために、俺が射った【魔法矢】を邪魔しようと黄色い糸を吐いて妨害しようとしている。


 それに【魔光矢ディバインボルト】が突き刺さってたはずの傷がない?


 回復?いや、再生か?


 だけど、そんな妨害も再生や回復したとしても【魔法矢】で作った矢にはもう関係ない。


「いけぇぇー!!」


 俺が射った矢は飛んできた黄色い糸をすり抜けてまっすぐ目標の結晶に向かう。


 そのまま飛んだ矢は結晶に突き刺さった次の瞬間、体が浮きそうなぐらいの突風と共に強烈な白い光が辺りを埋め尽くして……


 パキィィンッ! という、甲高い音を立てて粉々に砕けた。

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