罠っぽいな

「うおぁぁぁああ!!?」


 体が何かに飲み込まれたと思った次の瞬間には、俺は地面ではなく、空中に放り出されてしまい尻から落ちる。


「いてぇえ……」


 くっそ……いきなりすぎて受け身が取れなかった……

 俺は痛む腰をさすりながら起き上がると、周囲を確認する。


「ここは……広間か……?」


 確認してみたところ、俺がいるところは大きめのドーム状の空間になっているようだ。

 だけど、樹林のダンジョンにはこんな所はボス部屋ぐらいなもので一階層にはなかったはずなんだけどな。


「というか、ここは樹林のダンジョンの中なのか?それとも全く別のダンジョンに飛ばされたのか?」


 これだけじゃ情報が足りなさ過ぎる。

 仕方がないけど、とりあえずはもう少し奥の方へと進んでみるしかないよな。



 そう思って立ち上がり、歩き出そうとした時だった。


「うん?なんだあれ?」


 ちょうど俺の正面の方に、なにやら光っている物が、地面から生えた木のような台座に埋め込まれているようについていることに気がついた。


 ……近づきたくね-ーー!!!


 なんだあのいかにも罠ですよと言わんばかりのやつ! 絶対触ったら駄目なやつでしょ!? 絶対にやばいって!!!


 俺がまったく覚えのないような場所にいつの間にか来ていたってことは、あの俺を吸い込んだのは転移系の罠だったんだろう。


 上位のダンジョンになってくるとそういうものも出てくるとは聞いていたけど、まさか俺が引っかかることになるとは。

 ……まあ、剛拳のダンジョンにあったモンスターハウスみたいじゃなかったのは助かったけど。


 多分だけど、あれも罠の一種だし、違ったとしてもが怪しすぎることには変わりはない。


「いや、でも……あれしか手がかりがないんだよなぁ……」


 正直言って、今すぐここから逃げたい。


 だけど、本当にあれが転移系の罠だったらここが樹林のダンジョンの保証はない。

 そうなると、手がかりはあの怪しい物しかないわけで。


「……よしっ!」


 覚悟を決めた俺は、その物体に向かってゆっくりと歩みを進める。

 触れたくない。というか、出来れば近づきたくない。


 だからと言って何もしなければ、このダンジョンから出ることはできないかもしれない。


 なら、進むしかないでしょ!


「ふぅ……大丈夫だ……きっと、多分、恐らく、メイビー」


 一応、なにがあってもすぐに対処できるように【魔法矢】で作った透明な矢は構えてはいる。


 その状態で恐る恐る近づいてみるとそれは、なにやら宝石のような綺麗な丸い形をした透明な拳大ぐらいの結晶のようなもの。


 ……で、その中にはなにやら人の形をしたようなシルエットが見えていた。


「……なんだあれ?」


 思わず声に出してしまう。

 俺の知っている限りでは、あんなもの見たことも聞いたこともない。


 思い当たる節があるとすれば、この大きさから考えるとフェアリーというモンスターだけど……


「まさか新種の魔物だったりするのか?それともここ特有のギミックとか?」


 だけど【索敵】を使っても特に反応は……!


「上っ!?」


 咄嗟に俺はその反応を認識した瞬間、横に飛び退いた。

 するとさっきまで俺がいた場所に、ズドンッと音を立ててなにかが突き刺さる。


 あ、あっぶねぇ~……


「……これってもしかしなくても避けなかったら当たってたよな」


 冷や汗をかきながらも、攻撃してきた相手を睨みつける。


 そこにいたのは、まごうことなきクモ。

 だけど、その大きさは以前戦ったキラースパイダーよりも遥かに大きいし、色も違う。


 大きさとしてはだいたい5メートルぐらいかな?

 まあ、当然ながら俺よりもデカイ。


 どうやら、俺を攻撃してきたのはこいつで、八本ある内の足の一本がしっかりと突き刺さっている。


 だけど、何よりもまず目を引いたのは、その腐った体。

 所々肉が剥がれ落ちていて、そこから体液みたいなものが垂れ流されていて、辺り一面が異臭を放っている。


 そんな腐ったクモが天井から糸を垂らしてぶら下がっていた。


「うげぇ……」


 あまりの気持ち悪さに、つい顔を歪めてしまう。

 なんであんなやつに気づかなかったんだ?


 それぐらいの存在感も匂いもはあったはずなのに……


【索敵】にもさっき攻撃されるまで反応はなかったはず。今まで潜ってきたどのダンジョンでもこんなことはなかった。


 これが初めての経験ってことになる。つまり、これは未知。


 そしてそれが意味することはただ一つ。

 こいつが、俺が初めての発見者。または、見つけた探索者が誰一人として倒せていないぐらいヤバイ敵だってことだ。


 もし仮にあの時攻撃を避けられてなかったら……いや、考えるのは辞めよう。

 結果的には避けれた。それでいい。


「ふぅ~……」


 よしっ!切り替え完了っと。


 もう目の前にいるこいつからは油断なんて微塵もない。

 どんな攻撃を仕掛けてくるかわからない以上、慎重に対処していくしかないな。


 というか、腐っているということはアンデッド系のモンスターなんだろうけど、その割には見た目はしっかりしてるな?


 俺が知っているアンデッド系のモンスターは肉体的なリミッターがないから、とてつもない身体能力をしている。

 その代わりといってはなんだが、腐った体と相まってその身体能力に耐えきれず体はあちこちボロボロになるはずなんだけど。


「まあ、そこも含めての未知の存在ってところか」


 俺が龍樹の弓を取り出しながらそう呟くと、それを聞いたのかは知らないが腐ったクモがゆっくりとこちらに向き直った。


 そして、口を大きく開くと、そこから黄色い糸が勢いよく吐きだされる。


「おっと……捕捉、鑑定」


 俺はその攻撃を横に避けながら、あいつの名前を【鑑定】で調べて、【捕捉】しておく。


 これで次からの対処がしやすくなった。


 あいつの名前はアンデッドヘルスパイダー。

 俺の予想通りアンデッド系のモンスターだったみたいだ。


 まあ、【鑑定】のスキルレベルをそこまで上げていなかったから、名前とHPしかわからなかったけど。


 ……うん。今度からちゃんと【鑑定】のスキルレベルも上げておこう。

 結構未知のモンスターを相手にする時には相手の特徴がわからないことが不安でしかない。


「シッ!」


 まあ、アンデッド系モンスターってことは攻撃力が高くて動きが速いタイプのモンスターだろう。


 それなら俺のやることには変わりはないんだ。

 ただ、距離を取って避けてから安全圏から射って射って射ちまくるだけ。


 俺の射ち放った矢は、まっすぐに飛んでいき、見事に蜘蛛の体に突き刺さる。


 だけど……


「全然効いてないな」


 矢は確かに刺さっている。


 だけど、致命傷になっていないようで、今も元気に俺を襲おうとしている。


 まあ、ぶっちゃけるとこの結果は予想はしていた。

 アンデッド系のモンスターはだいたいがそもそも死んでいるから、痛覚というものが存在していない。


 それに加えてあの大きさ。


 俺の【魔法矢】じゃ小さすぎて威力が足りてないっぽい。


 あれでも一応アンデッド系のモンスターだから、体が脆くなって防御力が低くなってるはずなんだけど……

 それであれ?


 それでも効かないなら……どうやって倒すかな。

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